英雄再来 第二十五話 ツヲの覚醒2
そして得たもの。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マチネの巨大防壁から飛び降りたツヲは地面に華麗に着地して、槍持つ女性の前に現れた。
「この魔力…。やっぱりアクアちゃんなのかい?」
ツヲの言葉に対し、女性は腐臭と共に声を発した。
『死ねえ…!マチネの鬼畜共…!民を皆殺しにした鬼畜共…!!皆殺し…!皆殺しだ…!!』
槍を構え、既に臨戦態勢。そして骨がむき出しになった足を動かし、ゆっくりと近付いてくる。間合いに入ろうものなら槍の一撃が飛んでくることは必至だった。
「アクアちゃん、マチネは滅んだよ。」
ツヲは前方の女性の気配を感じながら、ゆっくりと語りかける。
「国も兵器ももうない。軍隊もゴミ虫共も皆死んだ。水の国に攻め込んだゴミ虫共は僕が始末したよ。」
その言葉を聞いて女性の歩みが止まった。
『皆殺し…!皆、殺し…。皆、死んだ…?』
「…うん。皆、死んだ。」
空気が変わった。槍持つ女性から出ていた禍々しい気配が薄らいでいく。
『皆殺し…達、成…。』
その女性は巨大な槍を地面に突き刺した。それは攻撃の意志がなくなったことを意味していた。このアクアの姿をしたものは、アクアの死に際の意志に膨大な魔力が呼応して指向性を得た存在である。複雑な思考が出来る訳ではない。何より、本当にマチネが滅んでいる。ツヲの心に偽りはなかった。それが言霊を通して伝わったのだ。
『やっと…殺さなくて済む…。もう、これ以上、殺さなくて済む…。わたしの命、捧げた…。皆を救いに来てくれた…。ありがとう…。名すら知らない、遠き世界からの英雄…。』
その言葉を聞いてツヲは胸が痛んだ。
(アクアちゃんは死に際に水の宝玉に自分の命を捧げて異世界召喚を行った。結果は失敗。術者が死んでは魔法が正確に発動するはずもない…。しかし、英雄を求める祈りは残った。祈りは魔法の原型。それが残った魔力を得て、周囲の憎悪と混じり、このアクアちゃんのようなものを生み出したのか…。ムーンストーンちゃんの時もきっとそうだったのだろう…。)
祈りは魔法となる。魔法は願いを叶える。そして願いが叶ったのならば、魔法は消える。槍を置いた女性の体が崩れ始めた。瞬間、ツヲは気が付いた。今までマチネを滅ぼすという目的のために、周辺で死んだ魔法使いの残した膨大な魔力も取り込んでアクアのようなものはここまで来た。しかし、ここで目的を達成したためにまとまる方向性を失ったことになる。とどのつまり、行き着く先は魔力の暴走による大爆発。
(まずい!後ろには…!)
マチネの巨大防壁の上にはオネ、フォウル、アール、そして飛鳥花がいる。
(守らなければ!)
ツヲは自分の真の姿を解放した。瞬間、辺り一帯は水に飲み込まれた。
「な!何だあ!?」
飛鳥花は思わず素っ頓狂な声を上げた。それもそのはず、眼下に広がる平原が一瞬にして水没したのだから。しかもその水の高さたるやマチネの巨大防壁を越えるほど。それがどこにも広がらず流れず、その場に留まっているのだ。
「かかかっ。これが愚弟の精霊としての真の姿だ。」
次の瞬間、衝撃と光が水の中から放たれた。水の内部で何かが爆発したのだ。だが、水はその爆発を飲み込んだ。ツヲが魔力の大爆発を完全に押さえ込んだのだ。そして、ゆっくりとしぼみ始めた。
「勝負あり、だな。どうやらアクアの暴走した魔力はマチネを滅ぼすためにここまで来て最後は自爆を試みたようだが、愚弟が全て飲み込んだ。魔力を丸呑みした訳だし、これで愚弟もまた少し強くなっただろうな。」
水が引き、ツヲは元の姿に戻っていた。そこにアクアの姿はなかった。
「アクアちゃん…お休みなさい。迷わず精霊界に還ってね…。」
水の国での惨劇とアクアの最後を思い出しつつ、ツヲは静かに祈った。ふと、頬を伝うものにツヲは気が付いた。
(涙…。)
ツヲは手の甲でそれを拭った。
(…?涙…?)
瞬間、ツヲは気が付いた。自分に新しい目が出来ていることに。驚き、何度も瞬きをする。
(見える…。目玉が戻っている…!でもどうして今更…。今のアクアちゃんの魔力を吸収したから、余った魔力が目を形成したのか…。いや、それだったらもっと早くに形成されているはず…。僕自身がルアルのことを思い出して感傷に浸れるぐらいになったからか…。目玉のないことは君と過ごした時間の証だった。でも、それももう思い出に変わるぐらいの年月が流れたということか…。)
ツヲはフッと息を吐いてクルリと方向を変え、皆のいる巨大防壁の上へと戻っていった。
(さようなら、アクアちゃん。さようなら…ルアル。)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マチネの巨大防壁から飛び降りたツヲは地面に華麗に着地して、槍持つ女性の前に現れた。
「この魔力…。やっぱりアクアちゃんなのかい?」
ツヲの言葉に対し、女性は腐臭と共に声を発した。
『死ねえ…!マチネの鬼畜共…!民を皆殺しにした鬼畜共…!!皆殺し…!皆殺しだ…!!』
槍を構え、既に臨戦態勢。そして骨がむき出しになった足を動かし、ゆっくりと近付いてくる。間合いに入ろうものなら槍の一撃が飛んでくることは必至だった。
「アクアちゃん、マチネは滅んだよ。」
ツヲは前方の女性の気配を感じながら、ゆっくりと語りかける。
「国も兵器ももうない。軍隊もゴミ虫共も皆死んだ。水の国に攻め込んだゴミ虫共は僕が始末したよ。」
その言葉を聞いて女性の歩みが止まった。
『皆殺し…!皆、殺し…。皆、死んだ…?』
「…うん。皆、死んだ。」
空気が変わった。槍持つ女性から出ていた禍々しい気配が薄らいでいく。
『皆殺し…達、成…。』
その女性は巨大な槍を地面に突き刺した。それは攻撃の意志がなくなったことを意味していた。このアクアの姿をしたものは、アクアの死に際の意志に膨大な魔力が呼応して指向性を得た存在である。複雑な思考が出来る訳ではない。何より、本当にマチネが滅んでいる。ツヲの心に偽りはなかった。それが言霊を通して伝わったのだ。
『やっと…殺さなくて済む…。もう、これ以上、殺さなくて済む…。わたしの命、捧げた…。皆を救いに来てくれた…。ありがとう…。名すら知らない、遠き世界からの英雄…。』
その言葉を聞いてツヲは胸が痛んだ。
(アクアちゃんは死に際に水の宝玉に自分の命を捧げて異世界召喚を行った。結果は失敗。術者が死んでは魔法が正確に発動するはずもない…。しかし、英雄を求める祈りは残った。祈りは魔法の原型。それが残った魔力を得て、周囲の憎悪と混じり、このアクアちゃんのようなものを生み出したのか…。ムーンストーンちゃんの時もきっとそうだったのだろう…。)
祈りは魔法となる。魔法は願いを叶える。そして願いが叶ったのならば、魔法は消える。槍を置いた女性の体が崩れ始めた。瞬間、ツヲは気が付いた。今までマチネを滅ぼすという目的のために、周辺で死んだ魔法使いの残した膨大な魔力も取り込んでアクアのようなものはここまで来た。しかし、ここで目的を達成したためにまとまる方向性を失ったことになる。とどのつまり、行き着く先は魔力の暴走による大爆発。
(まずい!後ろには…!)
マチネの巨大防壁の上にはオネ、フォウル、アール、そして飛鳥花がいる。
(守らなければ!)
ツヲは自分の真の姿を解放した。瞬間、辺り一帯は水に飲み込まれた。
「な!何だあ!?」
飛鳥花は思わず素っ頓狂な声を上げた。それもそのはず、眼下に広がる平原が一瞬にして水没したのだから。しかもその水の高さたるやマチネの巨大防壁を越えるほど。それがどこにも広がらず流れず、その場に留まっているのだ。
「かかかっ。これが愚弟の精霊としての真の姿だ。」
次の瞬間、衝撃と光が水の中から放たれた。水の内部で何かが爆発したのだ。だが、水はその爆発を飲み込んだ。ツヲが魔力の大爆発を完全に押さえ込んだのだ。そして、ゆっくりとしぼみ始めた。
「勝負あり、だな。どうやらアクアの暴走した魔力はマチネを滅ぼすためにここまで来て最後は自爆を試みたようだが、愚弟が全て飲み込んだ。魔力を丸呑みした訳だし、これで愚弟もまた少し強くなっただろうな。」
水が引き、ツヲは元の姿に戻っていた。そこにアクアの姿はなかった。
「アクアちゃん…お休みなさい。迷わず精霊界に還ってね…。」
水の国での惨劇とアクアの最後を思い出しつつ、ツヲは静かに祈った。ふと、頬を伝うものにツヲは気が付いた。
(涙…。)
ツヲは手の甲でそれを拭った。
(…?涙…?)
瞬間、ツヲは気が付いた。自分に新しい目が出来ていることに。驚き、何度も瞬きをする。
(見える…。目玉が戻っている…!でもどうして今更…。今のアクアちゃんの魔力を吸収したから、余った魔力が目を形成したのか…。いや、それだったらもっと早くに形成されているはず…。僕自身がルアルのことを思い出して感傷に浸れるぐらいになったからか…。目玉のないことは君と過ごした時間の証だった。でも、それももう思い出に変わるぐらいの年月が流れたということか…。)
ツヲはフッと息を吐いてクルリと方向を変え、皆のいる巨大防壁の上へと戻っていった。
(さようなら、アクアちゃん。さようなら…ルアル。)
この記事へのコメント
今までで一番強いツヲさんを見ました。ミッドを超えたかもしれません。
>最後は自爆を試みたようだが
オネいさんwww
このズレが、チュルーリに及ばない理由でしょうか・・・。
わかっていて揺るがないチュルーリと、わからないから揺らがないでいられるオネ。
わからないから、ツヲの奇行に揺らぎまくるオネ。
わかってしまったから揺らぎまくるツヲ。
その揺らぎを経て強くなったツヲ。
それでもオネには勝てないんだろうなあ(ェ
普通に力押しでもツヲさんは勝っていたでしょう。しかし、アクアの残した意志に対して語りかけることで別の道を切り開きました。ついにツヲはミッドを超えたか。オネはこういう真似、出来ませんね。
オネは鋭いところは鋭いのに肝心なところで読み違えるんだから…。
戦闘能力だけならオネは長年研ぎ澄まされて強力で凶悪極まりない。しかし、チュルーリとの最大の違いは人間に負けたことがあるかどうか。この経験の違いがオネとチュルーリを決定的に分けていますね。チュルーリは分かっている。しかし、オネはまだ分からない。経験したことがないから。
オネが分かっていない間に、確実にツヲさんが「強さ」を手に入れていってます。でも、単純戦闘ならツヲさんはオネにボコボコにされますね(笑)