英雄再来 第十三話 魔王15

なまじっか人の姿をしているせいか絶対に分かり合えない。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

大魔法使いは完全に沈黙した。周囲を風精霊が高速で飛び回っているのでどんな攻撃も防がれてしまうが、大魔法使いが動かないので特務隊はオウやユウを治療する時間が出来た。風精霊が動いている以上まだ魔法使いは死んでいないと考え、特務隊は警戒を怠らなかった。しかし、このまま魔法使いは永遠に目を覚まさないのではないかという思いが頭をよぎった。これだけ攻撃を加えた上に、毒まで食らっているのだから倒せていて欲しいという思いは当然であった。

しかし、それは戦場では甘い想定でしかなかった。

『キャハ!』
突然、高速で飛び回っていた風精霊が叫んだ。そして、動かなくなった大魔法使いの黒い鎧のようなものの隙間から中に吸い込まれるように入っていった。
大魔法使いを包んでいた黒い鎧にヒビが入ったのは、その数秒後だった。黒い鎧に入ったヒビはあっと言う間に全体に広がった。そして、破けて中から大魔法使いが姿を現した。



その姿は一瞬、おとぎ話に出てくる化け物を彷彿させた。体付きは人間だが、肌は黒いヘドロが薄く塗られたような薄気味悪い色と光沢で覆われていて、手足の爪は人の物よりも鋭く伸びていた。背中には何かが入っているような大きな瘤と蝙蝠のような大きな羽根が付いていた。今までうずくまっていた姿が繭だとすると、今の大魔法使いの姿は繭から羽化したばかりの蛾のようであった。

「っ!!」
「くそっ…。もう復活かよ…!」

大魔法使いは蝙蝠の羽根を羽ばたかせ、フワリと浮いた。そして空中に浮かんだまま大魔法使いは周囲を見回し、特務隊の者達を睨み付けた。
『害虫諸君、改めて挨拶しておこう。わたしはペリドット。魔法使いの王にして、この世界に巣食う害虫を退治するために生まれた存在だ。』

その声は特務隊の者達にはっきりと聞こえた。今までの潰れたような声でもなく、風切り音でもない。人の言葉としてはっきりと聞こえたのだ。

「なっ!?害虫だと!?」
「というか、こいつ…!初めてまともに喋りやがった…?」

『まともに…?ああ、そうか。今までの声は届いていなかったのか。害虫には理解し辛い内容だったか。』
ペリドットは眉間に皺を寄せて深い溜息を吐いた。ペリドットは今までの自分の言葉が人の言葉になっていないことには気が付いてはいなかった。
『貴様らが今まで、どれだけの魔法使いを殺してきた?そのためにどれだけの怒りや悲しみがあったか理解出来ているか?人が一人死んだだけでもその家族、友人知人がどれだけ悲しむのか貴様らは考えたことがあるか?理解しようとしたことがあったか?怒り、悲しみ、人としての感情を理解出来ないのならばどれだけ人の姿をしていても害虫でしかない。』



「それは自分自身のことを言っているのですか?今更、自虐に走るとかドン引きです。」

特務隊蜂班班長のビィの視線と言葉がペリドットに突き刺さる。一方のペリドットもビィを睨み返す。

(『自虐…?この害虫は何を言ってる…?そうか、ここでこいつらの仲間を殺したことを言っているのか…。』)
『ああ、ここに集った連中は確かにわたしが退治した。だが、それがどうした?ただの害虫退治だ。何故なら貴様らが我々を大勢殺したのだからなあ!何か弁解があるなら聞いてやろう!何故、わたしの仲間達を殺したのだ!』

「ならば問おう!どうして魔法使いはアタイの両親を殺したのか!」
ビィは幼い頃から抱いていた最大の疑問をペリドットに投げ付けた。

――――――――――――――――――
アタイは母の顔を知らない。

「お願いします…!!どうか、どうか…!!」

アタイの記憶の中には母も父もいない。

「どうか、この子を助けてください…!!」

誰かの腕に抱かれている感覚がアタイの最古の記憶。

「お願いします…!!」

アタイがマチネに来たのは、酷く晴れた日の出来事だったと聞いている。

血まみれの女性が片腕を失った赤子を抱いて逃げてきていた。ソルディエル隊長率いる特務隊がその女性を保護した時、女性はひたすら赤子の心配ばかりをしていたという。隊長が赤子を抱えるように受け取り、必ず助けることを口にすると、女性は安らかな笑顔を浮かべて息を引き取った。
その赤子は大急ぎでマチネに運ばれ、博士の手術により王道具『一撃必殺(ハチサシ)』を移植することで一命を取り留めた。そして、隊長はその赤子に名前を付けた。それがアタイ。

一体誰が知るのだろう、アタイの母の無念を。
一体誰が知るのだろう、アタイの父の顔を。
一体誰が知るのだろう、何故アタイは父の顔も母の顔も知らずに育たなければならなかったのか。
一体誰が知るのだろう、誰がアタイの両親を殺したのか。
答えは、アタイの母が逃げてきたであろう村の焼け跡が見つかってはっきりした。
魔法使いの仕業であった。
――――――――――――――――――

ビィの言葉に対してペリドットは怒りをぶつけるように答えた。
『貴様らが我々に手出ししなければ我々は何もしなかった!我々は中央の土地を譲り、辺境の地へと住処を変え、お互いに平和に共存しようとしたではないか!その我々に対して兵を送り込み、害しようとしたのは貴様らではないか!我々を殺しに来るのなら殺されて当然だ!それよりも我々の仲間を殺したのは何故だ!先に手を出してきたのは貴様らではないか!一体、何が目的だ!大義名分は何だ!何故こんなことをした!言え!』

そのペリドットの答えにビィは愕然とした。
(何、こいつ…。先に手を出してきたのは魔法使いの方じゃない…!隊長の村も、副隊長の村も、平和に暮らしてたのに魔法使いが焼いた…!そして、アタイの村も…!すっとぼけてるのね…!これだけの人間を殺して、それで平然とすっとぼけられるのね…!先に手を出してきておいて、よくもいけしゃあしゃあと…!)
「流石は魔法使いですね!自分達を正当化するのに必死過ぎてドン引きです!」

『何ぃ!?』

「アタイ達の親を殺し、家族を殺し、仲間を殺し、村を焼き、何もかも奪い尽くしておいてよくそこまで言えたものです!」

『ふん!自虐演説ご苦労!それが貴様らが行ったことそのものだ!罪無き魔法使い達を年寄りから赤子まで皆殺しにして、全ての村と全ての街を破壊し、焼き尽くした害虫共め!風の国を焼き、水の国を毒で沈め、土の国を爆破し、雷の国を崩壊させ、炎の国を焦土と化した害虫共め!トルを、アクアを、ガーネットを、ムーンストーンを、そして全ての国の民を一切皆殺しにした外道共めがあああ!!!!』

「黙りなさい!!先に手を出しておいて今更…!当然の報いです!魔法使いは人間の姿をしていても、人間には程遠い醜い生き物ですね!今の貴方は人の姿を外れている!それが魔法使いの本来の姿という訳ですね!魔法使いの心の醜さを反映した、醜くてお似合いの姿です!」

『一寸の虫にも五分の魂とは言うが、これ以上は時間の無駄らしい!害虫共、死ぬ時間だ!』
宙に浮かんだペリドットは背中の羽を羽ばたかせ、一気に加速して特務隊の者達に向かっていった。



魔王ペリドットが襲いかかってきた!

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