英雄再来 第十五話 ゼロ5

戦うか、折れるか、それが問題だ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

姉であるオネを前にして、既にゼロは戦意喪失していた。その時、ゼロの脳裏を過ぎったのはマチネで過ごした僅かであっても濃密な時間だった。


ソルディエルに見つかって侵入者として戦わなければならないかと思った瞬間、裸であることを真っ先に心配され、気遣われた。それが本気で心配して、本気で怒っていると感じた。敵ではなく仲間として接してくれた。そして、自分に新しい名前をくれた。
「お前は今日からアールだ!」

濃密な時間だった。壊れたマチネ中枢区画を回って自身の犯した罪を見つめた。真実をその眼に焼き付けた。温かい布団に包まれて眠りに就き、仲間達の温かさに包まれて泣いた。共に歩いてくれる仲間が出来た。マチネ中を回って、人の息吹を感じた。守るべき命がそこにあると感じた。
「特務隊のアール!絶対に皆さんを守ってみせますー!」

魔法使いの襲来でマチネの人々を避難させる作戦が始まった。黒い魔法使いが現れた。守れなかった。気が付いたら、守りたかった人々を守れていなかった。それでもエクス達は守れた。そして伝言を託された。その時にゼロは、自分では黒い魔法使いを倒せないことに気が付いていた。自身の破動砲が効かなかった相手に対し、打つ手が思いつかなかった。エクスが伝言にかこつけて自分を逃がしたことに薄々気が付いていた。守られたことに気が付いていた。敵としてマチネに来た自分が、来て数日の自分が、マチネの住民達を守れなかった自分が、皆に守られている。

ゼロは今まで自分を包んでくれた温かな感情に対して報いなければならないという気持ちが心の底から強く湧き上がるのを感じていた。















「ああああああああ!!!」
突然、ゼロは自分の頭を思いっきり地面に叩き付けた。
「ああ!ああ!あああああ!!」

額から血を流し、鬼気迫る表情でゼロはオネの方を向き直した。
「オ姉様…。貴女の妹ゼロはたった今、死にました…。」

ゼロはホロボロな自分の服の袖を一気に引き千切り、ハチマキのようにして自分の額に巻いた。
「ワタシは、アール!マチネ最強の部隊、特務隊所属の急班班員!隊長に代わってこの地の警護を任された!如何なる者であっても、この地を蹂躙することは許されない!侵入者を――――――排除します!!五精霊同時召喚!!」

その呼び声に応えて、魔力が集まり形を成した。炎精霊(アフレエテ)、水精霊(アクアリウス)、雷精霊(デンリュウ)、土精霊(チタン)、風精霊(シルフィード)が一気に召喚された。

特務隊のアールが勝負を仕掛けてきた!



オネは笑みを浮かべて唾を飲み込んだ。
「そうか…。綺麗な世界だけを見ていた以前のお前とは違うということか…。――――――かかかっ!そうか、そうか!特務隊のアールか!よろしい!ならば戦闘開始と行こうじゃないか!」

小学生ほどの少女の柔肌がゆっくりと灼熱の炎のような赤色に変化していく。周囲の温度がジワリと上がり始めた。

「私は真実と太陽の子、ブラーゼ・オネ・チュルーリ!特務隊のアールよ!私と心ゆくまで戦おうじゃないか!かかかかかっ!!!」

オネは心底楽しそうに笑った。

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