英雄再来 第二十一話 ツレエ1

嗚呼…本当に苛々する…!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

時間を少し巻き戻す。マチネが滅びる少し前に…。

マチネ軍の主力部隊の一つがジュールズの国の一つ、雷の国に攻め込んだ時の話をしよう。



マチネがジュールズを滅ぼすために結成した五つの大部隊の内の一つ、雷の国討伐部隊の隊長はシンという見かけが中年の男であった。本来の年齢は初老に達しているが、日々の訓練の賜物なのか若々しさを保っていた。

シンは剣術の腕前が達人の領域に達していて、炎の国討伐部隊隊長のヴィーセの剣術の師でもあった。だがその腕前に頼った猪突猛進な戦い方をすることは決してない。彼は魔法使いの恐ろしさを十二分に知っているのだ。彼もまた魔法使いによって故郷を失った者の一人であり、現マチネ王であるジェゼナの下で特攻隊として活動していた経歴を持つ。

雷の国への出撃前にマチネがいくつもの新兵器を開発して兵士の多くが勝利への展望に浮き足立っている時にも彼は数名の者達と共に入念に作戦を練っていた。新兵器である光子力砲も、雷の国の魔法使い達が得意とする波状奇襲攻撃を受けては威力を十分に発揮出来ずに沈むと予想して、二重三重の対策を立てた。光子力砲の上には避雷針を含めた移動要塞と呼んでも差し支えないほどの装備を搭載して光子力砲を使うまでもなく戦えるほどの準備を整えた。こうして光子力砲を最後の切り札とした上に、部隊を二つに分けての奇襲、新兵器の一つである長距離砲台の囮同然の使用を立案し、徹底した光子力砲の切り札化を図った。

当初は部下達も内心、やりすぎではないかと思っていた。しかし、実際に雷の国に攻め込んでどうだったか。大魔法使いのトルが参戦した時に、シンの立案した作戦でなければ光子力砲は破壊され勝敗は逆転していただろう。トルは光子力砲上層の避雷針や兵器は破壊したが遠距離であったこともあって、その下の光子力砲までは見破れなかった。そして背後からの長距離砲の相手をしている間にトルは光子力砲に撃たれたのだった。こうして、トルが戦闘不能になった雷の国は多数の砲撃によって完全に崩壊した。しかし、本当に熾烈を極めたのは国が崩壊してからの戦いだった。

雷の国ではトルが若くして大魔法使いになったが病弱でもあったために彼の祖父でもある長老と呼ばれる雷の国の生き字引の者が摂政・関白の役割を担っていた。雷の国が崩壊した時、長老は世界を滅ぼす魔物が封じられている宝玉とその管理者であるトルだけはマチネの手に渡すまいとして非情なる命令を下した。トルには全員脱出したと伝えて雷の宝玉と共に脱出させた。そして、それ以外の者には命を賭してマチネを食い止めるようにと命令を出したのだ。

殿(しんがり)は通常、生きて帰れる可能性は少ない。しかし、長老の下した命令はマチネとの戦力差を考えた場合、玉砕と同義だった。生きて帰れる可能性は0だった。そして、それは命令を受けた者達も分かっていた。それでも、ほぼ全ての者達がトルのため、そして世界を滅ぼす魔物復活阻止のためにと命を投げ出した。

命を賭すことに魔法使いの誰もが多かれ少なかれ恐怖があったことは言うまでもない。しかし、世界平和のため、そしてそれ以上にトルのために皆が命を賭した。トルは自身が病弱なのにも関わらず、宝玉の管理という最も重い使命を背負い、その上他の者への優しさを忘れなかった。トルは国民を愛していたし、国民達に愛されていたのだ。

だからこそ雷の国の玉砕戦は熾烈を極めた。マチネ軍にとって前線での戦いやトルによる魔法攻撃よりも、殿による玉砕戦での被害の方がよほど大きかった。兵力・兵器も大分と失われた。それこそ勢いだけならマチネ軍が全滅しかねないほどに。ただ、それでも戦力差が覆ることはなく、結果として雷の国の国民はトル以外誰も生き残らなかった。

その玉砕戦で大分と時間が経過したが、マチネ軍はトルが一人で逃げる可能性も計算していた。マチネ軍の別動隊は長距離砲撃による挟み撃ちに加えて、雷の国崩壊後のトルの捜索も行った。最終的にトルはマチネ軍に発見される。トルは最後の力を振り絞って海に飛び込み行方不明となったが、雷の宝玉だけはマチネ軍が海の中から回収した。





結局のところ、雷の国の魔法使い達は時間稼ぎをしていたに過ぎなかった。
マチネ軍の雷の国討伐部隊が全滅するまでの壮大な時間稼ぎであった。
雷の宝玉が胎動を始めているのに気付いている者は誰一人としていなかった。

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