英雄再来 第二十六話 魔女WW(ダブル)1

いらっしゃい。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

時間を少し遡る。それはマチネ特務隊のエクス達と化け物との死闘の後の話。



辺りに歯車の回る音が響く。鉄の鎖を巻き上げる音がどこからか聞こえる。金属が擦れ、ぶつかり合う音が聞こえる。蒸気の吹き出す音が鳴る。

小さい頃からずっと聞いていた音達だ。マチネは国土全体が工業地帯。常に地下で鉱石を掘り、溶鉱炉に運んで溶かして形にする。剣になるものもあれば盾になるものもある。銃になるものもあれば銃の弾丸になるものもある。砲台になるものもあれば砲弾になるものもある。農作物を作るための道具になるものもあれば家の素材になるものもある。防壁の素材にも使われ、大部分が土であるマチネの巨大防壁も魔法使いの襲撃と補修を繰り返す内に金属部分が増えた。時に金属は王道具にもなる。そして、歯車や部品になって大きな機械になるものもある。
機械大国のマチネは国のどこを見渡しても機械がある。金属で出来ている様々なものは人と機械によって作られた。機械はマチネの武器であり、道具であり、生活の必需品であり、体の一部でもある。機械は、マチネそのものだ。



エクスの頭の中に声が響いた。
『開くかい?』



ハッとエクスは飛び起きた。辺りは真っ暗だった。

(ここは、どこ?)

エクスは目を凝らし、息を潜めて状況把握に全神経を研ぎ澄ませた。

(あれから、どうなった?)

戦場では状況を素早く的確に判断し、次の行動に移らない者から死ぬ。時には「動かない」という行動を選択する必要もある。状況が分からずに無闇に動くことは、近くに敵がいれば自分の居場所を教えてしまうことになるからだ。

(化け物と戦って…アタシは胴を噛まれて…どうにか踏ん張ったけど皮膚がドンドン溶けて…。そうだ、絶体絶命の中で両手王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』に祈ったんだ。そしたら…。)

―――――――――――――――
『開くかい?』
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(そうだ、不思議な声が聞こえた。頭の中に響くような声が…。そして、気が付いたらここにいる…。)

エクスは自分の腹に手をやった。

(何ともない…。治ってる…?誰かが治した?でもそんなこと…。それよりもペリドットはどうなった?死んだのか?それともまだ生きているのか…?あいつにマチネの人々も部下達も殺された…!生きているなら必ず殺す…!!)

エクスはギリギリと歯を食い縛った。

(それからマチネはどうなった?マチネに攻め込んだ魔法使いは?隊長は?陛下は?分からないことだらけだ…。けど、こんな時にこそ冷静にならないと…。)

その時、エクスは自分の頭の上の方で何かが光るのを見た。それは微かな雷の光だった。その後、耳を澄ませていると微かに雷の音が聞こえてきた。目線を上に向けているともう一度、雷が鳴った。だが、不思議なことに雷はこちらには落ちて来ず、「上」に向かって昇っていった。

(え…?おかしいぞ…。雷は空から地上に向かって落ちるもの。でも、こっちには来なかった。もし、「上」に向かったのが「正しい」とするなら、今のアタシは逆さまで宙に浮かんでいることになる…?そんな馬鹿な…。)

そう思った時、エクスは自分の足元には地面も何もないことに気が付いた。

(!?)

どんな理屈で浮いているのか分からない。どんな原理で空中に立っているのか分からない。けれども、エクスは確かに地面に立つような感覚でそこにいた。

(い、一体どうなって…?)

エクスが混乱している時に後ろから何者かが声を掛けてきた。

『気が(ザー)た?』

(!!?)

エクスは驚いて臨戦態勢になる。そこにいたのは人間の姿をした何者かがエクスと同じく逆さまで立っていた。

『初め(ガガッ)、私は(ピーガー)魔女WW(ダブル)。』

驚いたことにその人の形をした「それ」は真っ黒だった。輪郭だけは白いが、それ以外は黒い塗料のようにドロドロとした黒いものをかぶっているようだった。そして、黒い部分はゆっくりとだが血液のように流動していた。
その人の形をした影の背中には枯れ木のようなものがあった。まるで種から芽が生えるかのように人の形をした影の背中から突き出したそれの先端はいくつかに分かれていて、その先には巨大な魔法陣が回っていた。魔法陣は大きさも色もバラバラだが全部で八つ。巨大な五つと小さな三つがあった。
大きなものは赤、青、黄、緑、茶、小さいものは深緑、銀、白色でそれぞれグルグルと回りながら収縮したり膨張したりを繰り返していた。魔法陣は向きも回転の方向も回転速度もそれぞれ違っていてそれぞれがぶつからないように上手く回っていた。
また、魔法陣の周りには同じ速度で回る黒い塊がいくつか浮いていて、それらは丸かったり、尖っていたりと形はバラバラだった。そして、それらは人の形をした黒い影と同じように少しずつ流動しながら僅かずつ形を変えていた。

「お前は…。」

エクスはこの声に聞き覚えがあった。雑音混じりであっても奇妙な確信があった。

―――――――――――――――
『開くかい?』
―――――――――――――――

「あの時の声の…?」

『そう。あな(ガガッ)声が聞(ザーザー)ら(ピーガー)なたに聞(ガー)よ。』

魔女WWはにっこりと笑った。



続く

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