戦う以外に道は、ない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
最初にオネが行ったのは何の変哲もない行動。攻撃というより、その前段階。ただ相手に近付くという近接攻撃のための基本の動作だった。だが、オネがただソルディエルに近付く、それだけで周囲の建物は蝋燭のように溶け出し、地面は雨の日のぬかるみのようにオネの足跡が付いた。オネは高速で動いているに…
奇跡は、ある。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ソルディエルが無意識の内に握った拳。その握り方は剣を持つ時の握り方であった。直前に見ていた走馬灯のためか、ソルディエルはあるはずもない剣を想像して握っていた。
本来なら。
ソルディエルは魔法使いと戦うことだけを考えて生きてきた。そのソルディエルが倒れている時、彼女の全身の細胞に…
未練ばかりが頭を過ぎる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
前が…見えない…。
『世界一蹴』を使い始めて、限界が来る度に何度も倒れて、それでも数え切れない程の訓練と実戦を繰り返して、ようやく使いこなせていると実感するようになったというのに…。
体が…動かない…。
幼い頃に魔法使いに全てを奪われて、復讐を誓って、長きに渡って力を蓄えて…
少し高みの見物だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
オネは建物の屋上の淵に腰掛けて、白い眼で風の国の方角を見た。
(…距離があるな…範囲外か。ここからではよく視えん。…。謎の魔法使い…登場の時期が少々、都合が良過ぎる気はするが…まあいい。それよりも、タイチョーだ。五体の炎精霊に囲まれてどんな戦いを見せてくれるのか。ただ、勝つか負けるか…
潰せると本気で思っているなら、やってみろ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
爆炎に包まれる中でオネは地面にめり込んだまま考え事をしていた。
(あいつら、やるなあ…。自分達の土地だからってお構いなしか。うむ、その心意気や良し。そもそも体に『外道具』を入れて戦っている時点でなりふり構っていないしなあ…。魔法使いが負ける訳だ。
思えば、魔…
これが魔法使いのやり方か。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(ハメられた…!!)
風の国方面は現在のマチネが唯一制圧している方角であり、マチネの住民が避難している最中の方角でもある。
(完全にハメらた…!!全て奴らの手の平の上だった…!!風と土の国討伐部隊は生き残っていたけど、あの炎の魔法使いが攻め込んでくる数時間前に地震が…
魔法使いは必ず殺すと、誓う。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
見事に光子力放射が命中し、目を閉じていても眩むほどの光の爆発が辺りを包み、炎の柱は消え去った。
だが、オネは生きていた。
「やるじゃないかぁ!」
次の瞬間、オネは常人には決して真似出来ない程の高さまで一気に跳躍し、建物の屋上にいたエクスの頭上に迫っていた。
(…
戦いを楽しもうじゃないか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
オネは数多の刃が突き出た場所の中央で目を光らせていた。
(ふむ…。追撃なし、か。近距離担当の蹴り女は姿を隠した。建物の影からこちらの隙を伺っているのだろう。ということは地面からの範囲攻撃は初見か?攻略法を見出すために観察の一手か。遠距離担当の奴も同じか。追加の砲撃をするでもな…
最強の剣と無敵の矛。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「…神速も形無し…。」
マチネ特務隊急班の班長キュウは路地裏の壁を伝いながら人目につかないところへと移動していた。その片足は血こそ出てはいないが足の付け根近くからバッサリと斬られていて機械の部分が剥き出しになっていた。
その時、上空から人が降って来た。
「キュウ!」
…
ようやくマチネはまともに戦う気になったか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その瞬間、オネは背後から大きな殺意を感じた。体は反射的に迎撃を開始し、片手に炎(ブラーゼ)を作り出し、それを背後に向けて放つ。しかし、相手の一撃は風圧で炎(ブラーゼ)を消し、オネを彼方の建物の中まで吹き飛ばした。加速を加えた強力な飛び蹴りだった。
「っ…!…
さあて、次は何が出てくるのかな?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うわあああああああ!!!」
「何だー!何が起きたー!?」
阿鼻叫喚。
「うわああああああ!!!」
「きゃああああああ!!!」
阿鼻叫喚!
「熱いー!助けてくれー!」
「嫌だー!死にたくないー!」
阿鼻叫喚!!
「軍隊だー!軍隊を呼べー!」
「魔法使い…
命を賭けて戦おうじゃないか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
始まりの合図は巨大な地震からだった。震源地は土の国方面で、この後からマチネは土の国討伐部隊との連絡が取れなくなる。震源地が遠かったためにマチネに物理的な被害は少なかったが、精神的な被害は大きかった。いよいよ魔法使いが攻めて来るのだと誰もが予感した。警報が鳴り響き、臨戦態勢で誰…
魔法使いは全て駆逐する。全面戦争だ!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「隊長…。結局、夜が明けても、今現在も、炎、水、雷の国討伐隊とは連絡つかずです…。」
窓の外を眺めている特務隊隊長のソルディエルに副隊長のエクスが声をかける。
「そうか…。」
その返す言葉に、いつものソルディエルらしい力強さはなかった。二人は昨日の夜の出来事…
始めるか、国造り。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
幼女は一度、目を閉じた。そして次に見開かれた時、その瞳は真っ白になっていた。
「ふむ…。ふむふむ…。ふーん…。なるほど…。」
(封印式はズタボロだな…。炎、水、土の封印は完全崩壊。愚弟とフォウルはもう活動を始めているのかな。風と雷の封印も崩壊は時間の問題か。大陸全土を使った…
おはよう、諸君。かかかっ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
機械大国マチネの炎の国討伐部隊が炎の大魔法使いガーネットとの交戦を終えた時、その被害は相当なものだった。隊長のヴィーセを始めとして数多くの兵士が死亡し、機械の奇跡と称される高性能の長距離砲は全て破壊され、技術の結晶であるロボトはドロドロに溶け、武器や弾薬、食料に至るまでの大被害…
悪夢が終わる時はいつだろうか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
暗く吐き気のするような臭いのする場所に黒いヘドロのような液体に体中浸かっている夢。『浸蝕統一』が第五段階に成長した辺りで見るようになった夢。この夢の中ではボクの体は昔の生身のまま全てある。手もある。握れる。足もある。バタつかせられる。腰もある。胴もある。肌に触れるものを感じ…
夢の中だけでも安息を。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
仮面の者との会談を終え、ソルディエルは部屋を後にした。
(『ああ、もう時間とは…。王道具『浸蝕統一』が第五段階になってから睡眠時間が極端に増えた…。ソルディエル君ともっと話がしたかったのに…。いや…随分とボクが一方的に喋ってしまったな…。ソルディエル君の肩の荷を少しでも軽くし…
小さい頃は神様を無邪気に信じてた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――――――――――――――――――
母親だった黒い炭を手に取って、声にならない叫びを上げて、頭の中はぐちゃぐちゃで、気が付けば川はただの血だまりで、何千という数の人と炭の山だけが並んでいて、そこにあの魔法使いが現れた。黒い服で全てを覆い、まるで影がそのまま這いずり出…
その時、君は何を選択する?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
仮面の者はソルディエルを前にして懐かしむように話を始めた。
『昔は出撃前に戦争の心構えみたいなことを話していたっけ。禅問答みたいなことを延々と…。』
「そうでしたね。例えば、前線へ出撃中に仲間のいる陣営に数多の魔法弾が撃ち込まれた。仲間を助けに行くか魔法使いを殺しに行くか、…
陛下、只今参上いたします。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「止まれ!」
マチネの最中枢区画に向かっていたソルディエル。その目の前の強固な扉の前には門番が二人。二人は強い口調で言った。
「これより先はマチネの最中枢区画!いかなる者であっても許可なく通行は出来ん!」
それに対してソルディエルは同じぐらい強い口調で答えた。
「陛下よ…
アールは、急班が上手く面倒を見るだろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時間を少し遡る。
特務隊の朝礼後、ゼロは泣きながら気絶した。そのゼロを特務隊隊長のソルディエルは医務室に運んで寝かせておくように急班に言いつけた。ソルディエルはゼロの配属先を元々人数の少なかった急班にしようと考えていたし、昨日の研修でゼロが自分の速さに付いて…
同じ景色を見ることが出来れば同じ気持ちを持つことが出来ると信じている。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ゼロは置いていかれまいと必死で急班の皆を追いかけた。
急班の後を追ってゼロはマチネのいたるところを駆け巡った。狭い路地を抜け、配線だらけの道を通り、煙突ばかりの屋根を駆け抜けて、急な階段を登ったり降りたり。皆の背中を追いかけて追…
高速、音速、光速。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
気が付くとゼロは布団の中にいた。ボンヤリとした視界に白い天井が見える。そこはマチネの医務室だった。
(あ…。…。ゼロは、あのまま泣いてて…。)
特務隊の皆に囲まれて泣いていたゼロは、そのまま泣き崩れて気絶するように眠ったのだった。
ゆっくりと上半身を起こしたゼロは窓からそよそ…
これは罰でしょうか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
魔法使いの襲撃から一夜明けたマチネ。そのマチネの特務隊の朝礼を聞いていて、ゼロは青い顔になっていた。
なにせ、その内容が「マチネに侵入する魔法使いの抹殺を特務隊が中心になって行う」というものだったのだからだ。ゼロや一般の隊員は住民の避難誘導を担当するので戦うのは班長以上のごく少…
パルナ「今日はハロウィン、今日はハロウィン。そして10月の最終日。はくりゅーの復活だね。」
白龍「11月までには復活すると言ったね…。それは嘘だ。」
パルナ「なん、だと…?って、はくりゅーがそんなことを言うはずない!お前、偽物だな!?」
ベリッ!白龍の顔がマスクのように剥がれた。
ルビデ「俺様だ!」
パ…
千花白龍です。
仕事が忙しくて更新出来ない日々が続いていましたが、一応生きてます。ご心配おかけしました。
今、しばらくは更新出来ない日々が続きますが、11月までには復帰したいなあ、と思っています。
それまでには小説のストックを貯めて、一日一記事更新のペースに戻したいなあ、と思っています。
それでは次の更新で、お会…
どうしよう…。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(む?アールがいない…?)
詰所に来たソルディエルは、その場にいる隊員を目視し、アールがいないことに気が付いた。ソルディエルは顎に手を当てて思考を巡らせた。
(そうだった。昨日、最終は部屋に戻るつもりでいたから、アールには集合場所や時間を言ってなかった。ということはまだ寝てるのだな…
地獄の底まで付き合いますよ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その日は晴れていたけれど、ワタシの記憶は真っ暗闇だ。
モウモウと上がる黒い煙の中にきっとお父さんもお母さんもいて、二人は天国に行ったんだ。
ワタシを地獄に置いて。
燃え盛る炎が今まで住んでいた家を躊躇なく飲み込む。
ほどなくして灼熱の炎の中から大きな黒い手が伸…
とぅああいちょおおおおうう!!!!!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「隊長って本当にすごい寝方しますよね…。」
「しかも、起きる時間まで自分で決めれるし…。」
「ほとんど全稼働なのに平均睡眠時間三時間とか…。」
「毎回寝坊でギリギリ出勤の副隊長と違って健康が心配です。」
「会議で疲れたでしょうし、今はそっとしておきましょう。…
たあいちょおおおおおう!!!!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「てめえらー!アタシの隊長はたいちょーでサイコーなんだぞー!」
あれから数時間、エクスはずっと喋り続けていた。その内容は、言葉は違えどマチネ特務隊隊長のソルディエルを賛美するものばかりだった。
「ああ、隊長!どうして隊長はアタシのたいちょーなんですか?」
「今度…
たいちょおおおおお!!!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「たいちょーの…馬鹿ー!」
机に突っ伏して泣き叫んでいるのはマチネ特務隊の副隊長エクス。机には涙やらヨダレやら飲み物の飛沫やらが散らばっていて非常に汚くなっていた。
「夜を空けとけって言ったのは隊長なのに、なんでそのたいちょーが会議でいないかなー!」
「泣き止んでくだ…
圧倒的じゃないか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マチネの最中枢区画で緊急の会議が開かれた。議題の中心は魔法使いに侵入されたことである。
『まず特務隊の命令にない行動について。本来なら厳罰だけど緊急事態だし不問にする。』
マチネの重鎮や幹部達が並ぶ中で、一番奥の真ん中に座っている仮面をかぶった者が最初に切り出した。
「あ…
何を目指すべきなのか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その日、ゼロはソルディエルに連れられて怪我人の治療や瓦礫の撤去、食事の準備などの手伝いをした。しかし、何の作業をしている時であっても、大広間のことが脳裏に焼き付いて離れなかった。
ズラリと並んだ死体。その全員に普通の人間が普通に歩んできた過去があり、特別何か殺されなければなら…
真実をその目に焼き付けろ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(ひょっとして、ゼロが侵入者として追われてる…?いや、だったらもう捕まえに来ているはずです。でも、何だか嫌な予感がします…。えーと、えーと、こんな時にはどうすれば…?取り敢えず情報収集?)
「アール!」
「は、はいっ!」
ソルディエルの呼びかけで、呆けていたゼロは…
隊長、待たせ過ぎです。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ゼロが詰所に入った時には既に何十人もの先客がいた。皆、ゼロが着ている服と同じ服を着て、整然と並んで立っている。それはさながら並べられて出番を待つ武器のような鋭さと威圧感があった。そして、その全員が女性であった。
「あ、隊長。遅いですよ~。」
ソルディエルとゼロが入ってきたの…
ここはマチネの中枢だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「気を付け!」
部屋の中に女性の強い声が響く。ゼロは思わずその通りにしてしまった。次の瞬間、ゼロが来ていた軍服の上着が取り払われていた。
(え!?いつの間に!?)
「手を上げろ!」
「え!?あ、はい!」
ゼロが両手を上げると女性はゼロの胸にあっと言う間にサラシを巻いた…
馬鹿者!恥じらいは標準装備だ!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マチネの中枢部は一瞬にして戦場と化した。蜥蜴の姿の炎精霊(アフレエテ)が火を吐き、女性の姿の水精霊(アクアリウス)が大水を呼び、龍の姿の雷精霊(デンリュウ)が雷を放ち、屈強な拳闘士の姿の土精霊(チタン)が大岩をぶん投げ、天馬の姿の風精霊(シルフィード)が風を起こす。駆け付け…
全魔法使いを代表してやって来たっぽいです。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
機械大国マチネが魔法使い連合国ジュールズに戦争を仕掛けて早一日。その戦果はマチネにとって喜ばしいものばかりだった。マチネ国内はその知らせで大いに盛り上がっていた。
「勝ったんだ!オレ達マチネが魔法使いに勝ったんだ!機械が魔法に勝ったんだ!」
「ざまあみろ…
魔法とは、何じゃ?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
機械、機械、機械。高い壁に囲まれた機械大国マチネは街中に機械が異常なほど溢れかえっていた。まるで自然にあるもの全てを否定するかのように。
大陸中央にある機械大国マチネが大陸各地に存在する魔法使いの国々に戦争を仕掛けて早一日。マチネの中枢部では戦争の状況報告が行われていた。
…
あれ、もういいの?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
抱き締め合ったツヲと飛鳥花は潮が満ちるように自然と唇を重ねていた。
「ん…。」
飛鳥花の口の中に水々しい感覚が広がり、全てを満たしていく。
「んん…。」
そして、穏やかに引いていく潮。後に残ったのは夕日に照らされた海岸線の風景のような、名残惜しくも爽やかな感覚。
「…ツヲ…
人間扱いか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「飛鳥花ちゃん!僕を思いっきり蹴ってくれ!」
ツヲは突然訳の分からないことを叫んだ。
「はあ?」
飛鳥花は当然の如く怪訝そうな顔をした。
「フォウル!土神霊で僕を殴ってくれ!」
「うん、分かった。」
フォウルは迷わず土神霊右腕を発射して、ツヲを殴り飛ばして後ろの木に命中させた…
こっち側、そっち側。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「さて、お腹も膨れたことだし、そろそろ行こうか。」
十分な食事と休息を取ってから、ツヲが伸びをしながら出発を提案した。
「ツヲ兄ちゃん、どこに向かうの?」
「もちろん他の妹達のところさ。」
「そっか、ツヲ兄ちゃんには感知出来るんだったね。」
「制限は多いけどね。ん~。今…
異文化交流ってやつなのか?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
水浴びから帰ってきた飛鳥花はイの一番に文句を言った。
「ツヲ…!どうして新しい服がこんなヒラヒラしたやつなんだ…!?」
恥ずかしそうに聞く飛鳥花に対してツヲはしれっと答えた。
「お姫様みたいで可愛いよ。」
飛鳥花は更に顔を赤らめた。
「あのことは忘れろ!」
「え…
さあ、紳士の時間だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
飛鳥花、フォウル、水神霊が水浴びに行っているので、残ったツヲは一人で瞑想をしていた。
(覗くか、覗かないか、それが問題だ。)
瞑想中であってもツヲの思考は常に迷走中であった。
(もちろん、覗きという行為が紳士的ではないというのは論を待たない。しかし、だ。考えてもみてほしい。…
朝食にしましょうか、水浴びにしましょうか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「さて、飛鳥花ちゃんとフォウルが仲直り出来たことだし朝ごはんにしようか。」
『既に準備は整っております。』
いつもの笑顔を浮かべるツヲと侍女の服装をした水神霊が、どこからか持ってきた机と椅子の方へ二人を手招きする。その机の上にはたくさんの料理が用意されていた…
何だか、こそばゆい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「んあ…。」
朝日が目に痛い頃、飛鳥花は目を覚ました。
(あのまま、また寝ちまったか…。)
飛鳥花が寝ぼけ眼で起き上がるとそこにフォウルが正座していた。
「え?」
飛鳥花は目をこすった。夢ではない。まさか、自分が起きるまでずっと待っていたのか。飛鳥花は軽く混乱していた。…
気まずくて、気まずくて。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
フォウルが目を覚ました時、その頭の上にはツヲの手が優しく添えられていた。
「ツヲ兄ちゃん…。」
「フォウル?起きたのかい?」
戦いが終わった後、あのまま泣きながら寝てしまったことにフォウルは思い至った。フォウルがゆっくりと体を起こすと、隣では飛鳥花が眠っているのが見…
ごめんなさい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
先程よりもはっきりとした姿の黒いモヤ。それは土の国の大魔法使い、ムーンストーンの姿に近かった。体中に様々な人の顔が浮かんでは叫び、そして溶けてまた浮かぶ。
フォウルには打つ手がなかった。地獄の扉を開いての攻撃で、魔力が完全に尽きていた。土神霊に使っていた魔力も地獄の扉を開けるのに回し…
わたしには、力がないと痛感する。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
フォウルの叫びと共に地面の一部が崩落し、死の臭いが漂う地の底の暗闇の僅かばかりが地上に顔を出す。その暗い穴は生贄を欲するかのように周囲にあるものを引き寄せ、穴の中へと飲み込んでいく。
『グオオオオオ…!!』
その深い暗闇の奥から不気味な声が響いたと思った次の瞬間、…
もう二度と人間には期待しないと、誓う。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地面から突き出た無数の岩の針山。その光景は地獄の針山のようだった。その中の一番大きな針にツヲは腹から串刺しになっていた。
「ツヲオオオオォォォォォォ!!!」
ダランと垂れ下がった手足。染み出る赤い血潮。ポタポタと滴る血の滴。まるで百舌鳥の早贄のように突き…
人の妹に手を出すな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「潰せ!土神霊右腕!!土神霊左腕!!」
土で出来た巨大な二つの拳が飛鳥花に襲い掛かる。
「まずはそれから溶かしなあ!毒精霊八岐!!」
それを迎撃するために溶解液の大蛇達が牙を剥く。ツヲが望まないままフォウルと飛鳥花の戦いが始まってしまった。毒精霊八岐が二つの土の腕に巻きつい…
ツヲ兄ちゃん、邪魔。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やあ、フォウル久しぶ――――――。」
少女は向かってくる男ツヲに懐かしさを感じながら、同時にその横にいる少女飛鳥花に殺意の瞳を向けた。
「ツヲ兄ちゃん、その女、何!?」
「えっ?」
ツヲの言葉を遮って少女が放つその言葉は不機嫌、苛立ちを含んでいた。それはツヲから…
人間は、皆死ね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「くそったれ…!魔法使いめ…!」
マチネ軍の戦争の最前線にして、森の奥の最終戦場。この場に、残存しているマチネ軍土の国討伐隊の全兵力が結集していた。
「後は奴一体だけだー!撃てー!殺せー!」
「しっかりしろー!傷は浅いぞー!」
飛び出す銃弾、唸りを上げる砲弾。
「ぎゃあああ…
フォウルは元気にしてるかな?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『いかがでしょう、飛鳥花様。』
「うん、これにする。」
黒に紫をあしらった大人向けの服に身を包み、飛鳥花は上機嫌だった。最初は溶けないかと恐る恐るだったが、ちゃんと触れられた後は、普通に着替えを楽しみ、たくさんの服を着ては水の鏡に写した自分の姿を見て楽しんでいた。
(こ…
てめえら、覚えてやがれ…。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
数時間後、ツヲ達は死闘の果てにどうにかこうにか飛鳥花を落ち着かせることに成功した。
「てめえら…。」
それでも、眉を釣り上げ、舌打ちをしていて、かなり不機嫌であった。
「ごめんなさい、飛鳥花ちゃん。」
土下座をするツヲ。
『飛鳥花様、美味しいお菓子をお持ちしま…
そうだ、飛鳥花ちゃんを育てよう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ついさっきまでは触っても平気だったのに突然ツヲの皮膚を溶かしてしまった飛鳥花は動揺していた。ツヲは動揺する飛鳥花を優しい口調でなだめる。
「ま、ま。落ち着いて、飛鳥花ちゃん。毒魔法が発動するぐらいに魔力が回復したってことだよ。」
「嫌…。」
「飛鳥花ちゃん?…
紳士たるもの、慌ててはいけない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(ふう…。)
ツヲは冷静を装いながら、内心では心臓が飛び跳ねそうだった。
(僕は紳士。動けない女の子を無理やりだなんて、いけないいけない。ここは我慢だ。果実はじっくりと色付くまで待つのが礼儀だろう?ああ、それにしても飛鳥花ちゃんは可愛いな!ギューってしたい!抱き締めた…
何でも溶かす。物も、人も、絆まで。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
止めろ!あたいをそんな目で見るな!
誰が好き好んで溶かすかよ!勝手に魔法が出ちまうんだ!
黙れ!そんなの聞きたくない!
うるさい!親も愛情も、毒で全部溶けたさ!
知ってるさ!全部知ってるさ!子どもじゃないんだ!
何が村のためだ!結局は、怖い…
これじゃあ、紳士失格だな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
空一面に広がる濁った水。いや、それは水ではない。何でも溶かす溶解液だ。それが一斉にツヲに降り注いだ。溶解液の集中豪雨をかわすことなど不可能だった。
だからツヲはかわさなかった。
「天に唾吐け、水神霊(ウンディーネ)!!」
次の瞬間、木ほどの背丈のある水で出…
よくもあたいに毒を盛ってくれたな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
大陸からすれば南東方向、水の国からすれば南西方向の森の奥、土の国と水の国の間ほどにある沼地に飛鳥花は留まっていた。
(確実に近付いて来ているな…。)
沼地の中心には大きな木。その大木のうろに飛鳥花は入り込んでいた。
(来い…ワーテル・ツヲ・チュルーリ…。あたい…
あなたの心に触れてみたい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ツヲの動きが変わった。今まで横にばかり避けていたのに、次第に前に出ながら溶解液の塊を避け始めた。
(螺旋で来たか…。)
遠距離攻撃は相手との距離が離れている方が命中率は下がる。ツヲが単純に攻撃をかわし続けるだけなら左右にかわしながら相手との距離を一定に保って、自分が…
てめえもどうせ、溶けちまうんだろ?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あ?」
少女は明らかに不機嫌そうに言った。
「初対面から随分と馴れ馴れしいじゃねえか。」
一方のツヲは笑顔で言葉を返す。
「あはははは。ごめん、ごめん。あまりにも美しかったから声をかけずにはいられなかったんだ。許して欲しい。」
「断る。」
「あらら…
生き残れると、ひとかけらでも思ったのなら、それは調子が良過ぎるんじゃないのかな?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
小さな村の小さな家の地下。そこには鉄の鎖で手足を封じられた上に魔道具で念入りに拘束されている少女がいた。少女の名前は飛鳥花(とぶとりか)。この村に存在する唯一の魔法使いである。飛鳥花は強い魔法使いだった。その魔力は強過ぎた。…
生き残るために、多少の犠牲はしょうがない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
水の国で敗北したマチネの兵士達は大陸中央の機械大国マチネを目指して逃走を続けていた。各個人がそれぞれに多少の武器や食料、水などを持っていたし、水の国から随分と離れたので濃い霧に巻き込まれて足止めされることもなく兵士達は順調に元来た道を戻っていた。しかし、大人数だ…
語ろうか。親ゴミ虫の最後を。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
水の国近郊で一人となったクリメはどうにかして大陸中央に位置する機械大国マチネに戻ることを考えていた。しかし、ロボトは大破しているし使えそうなものはほとんど残っていなかった。僅かばかりの水と食料と銃と弾丸、使えそうな物をいくつか、そして剣を携えてクリメは来た道を引き返し始めた。…
親ゴミ虫の罪、その二。なんか、もう、全部。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
深いため息を吐いた後、男は目を瞑ったまま、スタスタと何一つ身構えることなくクリメに近付いていった。まるでそこに何の脅威もないという態度で。まるで散歩道を進むかのような歩調で。
「貴様…!く、来るな!斬るぞ!」
クリメは得体の知れない恐怖を感じていた。よほ…
親ゴミ虫の罪、その一。その存在の全て。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『毒でも死なぬとは大した化け物だ!』
機械兵器ロボトから拡声器でマチネ軍の隊長クリメの声が響き渡る。
『だが、機械技術の結晶の前に敗れ去るのだ!化け物は討伐されなければならない!』
機械兵器ロボトはけたたましい音と共に煙を吐いて、一気に加速した。その勢いのまま…
ゴミ虫諸君の罪、その三。アクアちゃんを殺しておいて、のうのうと生きていること。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
突く、跳ね上げる、振り回す。血まみれの女性の槍さばきによってマチネ軍は次々と死傷者が出た。
「くそー!魔法使いめー!」
「死ねー!」
「オレを撃つなー!」
「銃は止めろー!剣を使えー!」
「殺せー!魔法使いは皆殺しだ…
ゴミ虫諸君の罪、その二。のうのうと生きていること。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「この世界は血まみれだなあ…。」
ツヲは目を閉じたまま上を向いた。
「美しいもの、綺麗なもの、素敵なもの、全て消えてゆく…。」
少しして、ツヲは物思いにふけるのを止めた。
「…それよりも、ダメ元で試してみるか…。」
ツヲが両手を広げて呪文を…
ゴミ虫諸君の罪、その一。生きていること。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「変な奴がいるぞー!」
マチネの兵士は開口一番叫んだ。毒によって全ての生き物が死に絶えた場所に正体不明の男が突っ立っていたのだから。
「貴様ー!何者だー!」
「僕はツヲ。ワーテル・ツヲ・チュルーリ。水の流れと真実の行く末の観測者さ。」
その男は冷え…
僕は君を、守れなかった…。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(どこ…!?ここはどこなの…!?私はどこにいるの!?敵は今どこにいるの!?味方は今どこにいるの!?)
視界を潰されたアクアは、激しく動揺していた。それでもなんとか頭を回転させて自分が何をしなければならないのか考えていた。
(無闇矢鱈に攻撃しては味方に当たる可能性がある。…
魔法使い共め、思い知るが良い!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「クリメ隊長!水の大魔法使い、アクア・マリンが現れました!」
「そうか。」
部下の報告を受けてマチネの水の国討伐部隊隊長のクリメは、眼を大きく見開いた。
「予定が早まった訳だが、準備は出来ているな?」
「この場で使うのですか?」
部下のその声には戸惑いが含…
次の休みに弟のお見舞いに行くの。これ、絶対ね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マチネから遠く東の海辺に水の大魔法使いアクア・マリンの住む漁村、水の国がある。アクア・マリンはつい最近、水の大魔法使いになったばかりであったが、その才能とひたむきな性格で水の国の長としての務めを果たしていた。
水の国は広大な海を背にした国で、水魔法を使う魔…
嗚呼…苛々する…!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「…様!トル様!」
「…ん…あ…。」
トルはゆっくりと瞳を開けた。トルを揺さぶり起こしたのは彼の世話役の一人だった。
「僕は…負けたの…。」
トルの目には自然と涙が浮かんでいた。
「ごめんなさい…僕が弱いばっかりに…!」
「トル様!泣き言は後にしましょう!とにかく、…
魔法は妖しの術。機械こそが万能なのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
知らせに来てくれた世話役の肩に掴まって、トルは高原の町を一望出来る病院の屋上に辿り着いた。そこはトル専用の巨大な戦闘用個室に等しかった。中央にある椅子に腰掛ければ周囲を回転する手動望遠鏡を覗けて遥か彼方の状況も手に取るように見て取れる。
椅子に座って見える景色にト…
魔法使いだからこそ、魔法は万能じゃないって分からなきゃいけない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マチネから北西よりやや北の彼方に雷の次期大魔法使いのトル・マリンが住んでいる高原の町、雷の国がある。現在の雷の大魔法使いはトル・マリンの祖父である長老が務めているが、近年になって体調を崩すことが多くなっていた。なので、孫であり魔法の才能も豊…
こんな狂った世の中だ、叫んで暴れて好きに生きればよかろう。かかかっ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
男はガーネットの斬りつけた炎の剣を、抜いた一つ目の剣を縦に構えて防ぎ、抜いた二つ目の剣でガーネットの腹を突き刺した。
「がっ!!」
男は素早く剣を抜くと、二歩下がると同時に構えを完了していた。
「斬られると痛いだろう?だか…
魔法使いとは、この世界で最も愚かだな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ガーネットは次々と長距離砲を破壊して、ついに最後の長距離砲の場所に辿り着いた。
「うおおおおおお!!!」
炎をまとった長剣の一撃が長距離砲の内部に届き、その機能を完全に停止させた。その時だった。突然、周囲の床の一部がせり上がり、一瞬にしてガーネットは高くて分…
マチネは全て焼き尽くす!斬り殺す!徹底抗戦だ!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マチネから北東よりやや北に随分行ったところにある休火山の中腹より上の方に炎の大魔法使いガーネットがいる山里、炎の国がある。標高が高く、寒い場所なので炎の魔法がより重宝される場所でもある。ここに辿り着くまでの道のりは険しく、それ相応の準備と体力がなければ難しい…
哀し過ぎて声も出ない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
砲撃の雨がようやく止んだ時、風の国で炎に包まれていない場所はいなかった。爆発と炎は生きとし生ける者の命を全て奪い尽くし、代わりに吐き気を催すような屍の焼ける臭いを残した。
数日後、炎が消えたところを見計らってマチネ軍は無人と化した風の国に侵入していた。攻撃してくる者のいない死…
魔法使いに未来などあるものか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(一体、何と言えばいい?わたしは皆に何と言えばいい?)
戦え?
(言えるはずがない。どう戦えばいいというのだ。地の利を制して勝ってきた我々が、風の谷以外の場所で戦えるはずがない。ここを出ればマチネの銃火器と呼ばれる『奇っ怪な魔道具』によって、こちらが魔法を使う前…
平和の旋律よ、世界に届け。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マチネの南西と西の間ほどを真っ直ぐに進めば巨大な山と強い風の吹く谷が見えてくる。その風の吹く谷の奥に風の大魔法使いペリドットが住む風の国がある。風の国の中心には教会があり、五つの大きな鐘が風に吹かれて朝や夕方などの時間を告げる。それと共にペリドットの美しいテナーの声が響き渡る。…
人間には、もう期待しない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
土の国の首都で見つかった巨大な土の塊。マチネの兵士達は、最初は慎重に手作業で破壊しようとしたがどんな武器で攻撃しても固くて全く歯が立たなかった。そこで銃火器も使用したがそれでも土の塊はビクともしなかった。それならとついに超近距離から爆弾を爆破させて破壊することにした。数多の爆薬…
魔法使いは化け物だ。魔法使いを駆逐する。これは聖戦である。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
額に汗が滲む。呼吸が乱れる。ムーンストーンは必死の形相で治療に当たっていた。魔法は代償を必要とする。何かを得るためには何かを失わなければならない。誰かの傷を癒せば、その分だけ自分に負担がかかる。次々と運ばれてくる怪我人、しかも重傷者ばかり。軽症者…
どうか、大地に生きる全ての者達に安らぎを。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マチネから南に随分行くと広大な森が見えてくる。この森の中に魔法使い連合ジュールズの一角、土の大魔法使いムーンストーンが収める土の国がある。もう少し正確に言えば、この広大な森の中に何十もの村や町が存在し、そのどこかにムーンストーンのいる土の国が存在する。しかし、数…
誰かが一粒の涙を落とした。それが光と闇を生んだ。神霊が生まれた。精霊が生まれた。魔法が生まれた。生き物が生まれた。人間が生まれた。
世界が弾けて数千年。異世界から英雄が来た。英雄は世界の半分を切り取った。魔物を全て切り取った。
英雄が死んで数百年。英雄の子孫は世界の半分を切り取った。人間の半分を切り取った。
英雄の子孫が封印されて…
ツヲ「僕の小説、僕の小説…。」
チュルーリ「かかっ。上機嫌だな、ツヲ。」
ツヲ「もちろんだよ、チュルーリちゃん!僕のあんな活躍やこんなシーンが出てくるんだよ?」
チュルーリ「ところが白龍の奴、まだ途中までしか書けてないみたいだぞ?」
ツヲ「えーーーーーーー!!!!!」
チュルーリ「このまま自転車操業するとヘマやりそうだから発表…
白龍「特別賞ということで日野さんの過去を少しだけ。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「この大馬鹿者がああああああああ!!!!!!!」
親戚一同が集まる年に数回の大きな会合で、若かったわしは大婆ちゃんのドロップキックを受けて壁まで叩き付けられた。大婆ちゃんの拳骨なら食らい飽きていたが、キックを繰り出されたのは先にも…
白龍「人気投票もいよいよ残すところはあと五人!」
パルナ「それじゃあ行ってみよー!」
白龍「同率、3.5票で第四位が二人!翼ちゃんの“唯一”、一枚の羽根、翼ちゃんを想う心は誰にも負けない、小悪魔な白木羽異さん!魔法世界の英雄、善と悪の狭間で悩み続けた心優しき戦士、全ての魔物を相手に戦い勝利を収めた女神、拝島梅花さん!」
羽…
白龍「さて、特別賞の10位を含めて順番に発表していきますよ。」
パルナ「まずは10位、エクソシスト組織『教会』のトップ!異能力者の一族だ!大司教、日野光一!」
光一「わしがまさかの10位で特別賞かいな。ビックリやわ。まあ、もらえるもんはありがたくもらうで。」
シークレット「大司教、言葉が砕けております。」
光一「わっ!シーク…
パルナ「昨日は七夕だったね。でも雨…。皆は何かお願い事出来た?パルナはね…うふふ、やっぱり秘密
」
白龍「皆様、お待たせしました。人気投票結果発表、ここからは一票以上入ったキャラクターが出演します。」
パルナ「それじゃあ同率15位、一票獲得の皆の登場だよー!」
白龍「まずは特級エクソシスト“ジェ…

投票リストはこちら。
パルナ「みんな~!お待たせ~!第四回人気投票の結果発表だよ~!」
千花白龍「アッキーさん、火剣獣三郎さん、表裏さん、ビスケット太郎さん、きむらのほうしさん、すずなさん、皆様、投票ありがとうございます!」
パルナ「今回はキャラクターが多かったから投票も混戦したかな?」
白龍「そうですね。そんな中で…
パルナ「人気投票は今日までだよ。まだの人は急いでね。」
白龍「トップページのリンクから飛べますよ。」
パルナ「今回はパルナの出番なしだけどね…。ケーッ!」
白龍「ごめんなさい…。荒れないで…。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
前回までのあらすじ:ツヲとパルナの両方にデュエルを挑まれてタジタジの白龍。そこに現れたのは…?
…
二週目突入。最初からで、アイテムとかがごそっとなくなった。残ったのは青字のアイテムのみか。こんな事ならもっと魔石を合成しておくんだった。まあいい、やってやろうじゃん。ここまでの時間が22:56か。約一日。
一番最初のオープニングから見直していると新しい発見がある。
ガデス「破壊と混沌、殺戮と恐怖の時代が始まるのだ。」
この時すでに…
イドゥラ「ウッフフフフフフフ、お久しぶりですねえ。」
私的にはそろそろ来てくれると思っていたんだ。そしてラルフを誘拐、まさに外道。さるお方はやはりガデスではなかった。古の洞窟へ来るように言った後ワープで消えた。さて殺しに行くか。パーティはマキシムとセレナの二人だけ。そして二人には一児のパパ・ママのタレントが付いた。ティアは旅行中で、ガ…
白龍「昔に打ってた感想文が3万字か…。」
パルナ「凄いね…。」
白龍「なので三記事に分けておきます。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
注意!
・ゲームが嫌いな人は楽しめないかもしれません。
・このゲームを知らないと楽しめないかもしれません。
・ネタバレだらけです。
・ところどころ改変がなされている部分があるかもしれ…
白龍「2014年7月6日まで人気投票やってます。よろしければどうぞ。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
注意!
・ゲームが嫌いな人は楽しめないかもしれません。
・このゲームを知らないと楽しめないかもしれません。
・ネタバレだらけです。
・ところどころ改変がなされている部分があるかもしれません。
・間違っているところがあ…
パルナ「人気投票やってるから、よかったら投票していってね~。」
ツヲ「それまでは適当に喋って過ごす!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ここは憩いの湖のほとりにある白龍の家。そこには看板娘のパルナちゃんと湖の管理人の千花白龍がいた。
パルナ「はくりゅーはくりゅー、次回作はパルナが主役ね。」
白龍「ん~。」
曖昧な…
千花 白龍「皆様、長期連載にお付き合いいただきありがとうございます。このブログも気が付けば三周年目に突入しているという驚き。まあ、毎日更新は仕事の関係で少ししんどくなりましたが、ブログをするということは大きな楽しみなのでこれからも続けていきます。」
パルナ「はくりゅ~、長期連載お疲れ~。つばさもお疲れ。さて、今回は混線…
誰もいない静かな場所。明かりも光もない暗い場所。ひんやりとジットリを混ぜ合わせた澱んだ空気が充満している。そこに逆さまに『立って』いる者が一人だけ。その『頭上の下』には黒い雲がうねりを上げて雷を吐き出し、黒く巨大な山々が連なっている。『頭上のすっと下の方』では瘴気がかかっていて見えないが微かにガヤガヤと音が聞こえてくる。蠢く音、騒ぐ音、…
ここは魔界。悪魔達の世界。澱んだ世界の片隅で数体の悪魔が集まって話をしていた。
『おお!ルシュファー様、申し訳ございません!此度の戦争におきまして悪魔の恐ろしさ、ひいてはルシュファー様の偉大さの欠片も人間共に知らしめることが出来ず全くもって不甲斐ないばかりです!この失態に関しましては、このオルジュホッガス、いかなる罰も甘んじて受け…
鏡の世界が崩れ始める。ハイプリミストの『消滅』で封印自体が機能しなくなったのだ。普通、封印というのは中身がどうなろうとそのまま維持される箱のようなものである。しかし、結界の種類は数多あり、封印するものも含めて結界と成すものもある。中に膨らませた風船を入れて形を保っているような紙の箱は、中の風船の空気が抜けてしまえばペシャンコになってしま…
勝敗を分けるものは何なのか。力の差か、能力の相性か、周りの環境か、助っ人の有無か、偶然の作用か、戦う意志の在り方か。
もし、同じ能力を持つ者同士が戦った時、一方は覚悟を決めて戦いを挑み、もう一方は相手に恐怖して一歩下がったのなら、勝つのはどちらなのか。心が折れるのはどちらか、敗北するのはどちらか――――――――――――。
…
力に溺れてはいけない。
力に頼ってばかりではいけない。
これは私を構成する要素の一つに過ぎない。
力を恐れてはいけない。
力を拒んではいけない。
これは私を構成する大切なものの一つ。
【アハハハハハハ!!アハハハハハハハ…。】
徐々に黒い塊からの攻撃は止み、ハイプリミストの笑い声…
キラキラと輝く世界。光が反射して、またそれが反射して、キラキラと世界を照らす。山も川も林も町も丘も畑も家も海も全てある。しかし、生き物はいない。人の姿は見えないし、木々や草と思われていたものは緑色のただの物体だった。まるで大きなジオラマの中に迷い込んだような不思議な感覚だった。
ここは鏡の中の世界。正確には封印の合わせ鏡の中の世界…
「翼。」
その時、翼の肩にそっと置かれた一つの手。
「よく頑張ったわね。」
ほのかな温かさが伝わってlきた。
結界を張るために力を使っている翼は振り向くことは出来ない。しかし、その手、その声で、誰がそこにいるのか分かっていた。翼の頬に一筋の涙が流れていた。
(お母さん…。)
「霧の悪魔には眠っていてもらいましょう…
「うらああああああ!!!」
翼の大水晶結界が破裂するかしないかの寸前に、とんでもなく巨大な光の手が大水晶結界をおにぎりのように包んで押さえ込んだ。その光の手が伸びている元々の場所を翼が振り向いて見てみると、そこにはミトラをかぶった一人の男がいた。
「あなたは…!」
「や、お嬢ちゃん。初めましてやな。わしは日野光一。『教会』で大司教…
ルビデが笑っている。ハイプリミストが意地悪な顔をしている。ハイプリミストが語っている。そして、ハイプリミストの変身――――――。その時、翼の瞳にだけは悪魔達の姿以外にもう一人の姿が視えていた。翼の耳にはもう一つの声も同時に聞こえていた。
翼の瞳は動揺を示し、小刻みに震える体は狼狽を隠しきれないでいた。
【はぁ…
霧の悪魔ハイプリミストは黒く長い髪を風になびかせ、背中の悪魔の羽根で宙に浮き、両手を自然に広げて、そこにいた。ただいるだけで発せられる強い存在感。その存在感の奥に感じられる重厚な闇の気配は今までのどの霧の悪魔よりも濃いものだった。
「クックックッ…。原初の霧(プリミティブ・ミスト)、全ての霧の悪魔の原点にして頂点、それが霧の悪魔様…
次の瞬間だった。地平線の果てから一筋の光が伸びてきて辺り一帯を照らし出した。『教会』も紋白町も、悪魔もエクソシストも全ての者を等しく照らす光。日の出の時間、太陽が昇ったのだ!
『グアアアアアア!!!』
『ウアアアアアア!!!』
『ギャアアアアア!!!』
その日の光と共に悪魔達は叫び声を上げて消えていった。まるで霧…
認めよう、白木翼。お前は強い。
認めよう、白木翼。お前は美しい。
全ての知識、全ての努力、考えられる限りのあらゆる罠を張り巡らし、入念に準備したにも関わらず、俺との殺し合う運命さえ塗り替えて、俺の心まで変えてしまった。悪魔の総襲撃にも全く動じず、仲間が駆けつけてしまう始末。
だが白木翼よ。
お前が俺を殺さない限り、俺はお…
「――――――バースト!」
タンジェクトが攻撃に入ろうとしたタイミングを完璧に邪魔するように、完璧なタイミングでレーザー砲撃が飛んできた。それを寸前でかわしたタンジェクト。しかし、次の瞬間、その攻撃を受けていた方がマシだと思える攻撃が飛んできた。
「垂直落下正座拳。」
天空から一人の男が正座の姿勢のままで自由落下してきて、…
闇夜に鈍く光る大剣の一撃が、白木翼の背中を斬りつけた。
『剛剣一撃・岩石爆砕!』
途轍もなく硬い何かにぶつかったような音を立てて、翼は落下していく。
『ルビデ、時間稼ぎご苦労だったな。』
「タンジェクト…。」
黒い羽根を広げ、右手には大剣、左手にはハサミ、体中には白い鎧、背中には蠍の尾のような針が見える。羽異が…
その時、俺が感じた感情は何なのか?
侮辱?
白木翼は善の代表だ。その代表が、自分を咎人と称する。それは、殺人鬼が人を殺していませんというのと同義だ。全く俺を馬鹿にした発言。今までお前を闇に堕とすためにあれやこれやと画策してきた俺に対して、自分はもう闇の場所にいると言っているのと同義だ。俺のやっていたことは無駄だったと言うのと同義…
「それからあなたは私が目指す理想の世界についても言及していましたね。私の目指す理想の世界は皆が生きる世界。私は思うのです、もし、誰も傷付けることなく生きていけたら、それは素晴らしいことだ、と。」
「…。クックックッ…なるほど、確かにそれは理想の世界だ…。誰も傷付けず、誰も傷付かず…完成すれば理想郷だろう…。誰も傷付けず、恨みや憎し…
「殺し合うために生まれてきた…?」
白木翼は眉間に皺を寄せて、疑問を口にした。
「つまり、生まれた瞬間から、私達は殺し合う運命だった、と?」
「そうだ。もっと言えば、お前がお前の理想の世界を追求する、そのことが俺を戦争という狂気へと駆り立てた!お前の理想の世界のどこにも俺の居場所は、ない!俺はお前に受け入れられるつもりは毛頭、…
この世界は奪い合う世界。
それは真理。
思い出せ、俺様が何故生まれたのかを。
思い出せ、俺様が何故生き続けているのかを。
白木翼には負けない。
白木翼には絶対に負けない。
白木翼にだけは、絶対に負けられない…!!!!!
ルビデの予想通り爆炎の彼方から白木翼は現れた。背中の羽根は小さくなって、前からだと少し見える…
『白木を倒せ!白木を殺せ!』
『白木を倒せ!白木を殺せ!』
『教会』から発せられる怒号が歌声に包まれていく。
『白木を倒せ!白木を殺せ!』
『白木を倒せ!白木を殺せ!』
次第に怒号は小さくなり、歌の中に緩やかに溶けていく。
『白木を倒せ!白木を殺せ!』
『白木を倒せ!白木を殺せ!』
数々の歌声が調和し…
白木翼の広げた羽根に映っていた者達が各自それぞれに喋り出す。
『さあさあ、皆さんお立会い!今日は世紀の一大イベントよ!』
(あれはエクソシストのローラ・エイル!!?)
『普段は絶対出来ないけど、今日だけは特別…。』
(あっちは妹のリサ・エイル!!)
『一夜限りのライブにようこそ!おれはトランペット担…
『記憶の書架』、その『外』は現実世界。
今、『外』に出ようとする二つの影。真紅と緑鳥。
『全部…消してやるさ…。』
『殲滅。』
その時だった。
「真紅!!緑鳥!!」
その後ろから大きな声がした。飛びきり大きな声がした。真紅と緑鳥が振り返るとそこには息を切らせた白木翼がいた。
『翼!!』
『翼!!』…
死ぬということがどういうことか理解した時、恐怖が止まらなかった。失うことの悲しみ、もう戻らないことの辛さ、永遠に変わらない事実。その時、私は千切れた。
千切れた感情が真紅になった。だから真紅はたいてい怒るか泣くかして過ごしている。
千切れた記憶が緑鳥になった。だから緑鳥には感情を理解する機能がない。
千切れた翼が羽異に…
一番に目を開けた時には全て終わっていた。これが結末。これが私の能力。壊すだけの力。
――――――――――――――――――
九年間。振り返れば長い時間だった。壊すだけの力に意味を与え続けた。理由を付けた。意義を見出してみた。別の使い方を…
ここが運命の分かれ道だ。後から見ればどこが分かれ道だったのか言うのは簡単だ。評論家を気取ってああだ、こうだと言えばいい。だが、その場で分かれ道を判断するのは難しい。ましてや、既に出来ている流れに逆らって自分の望む運命を決めることなど不可能に近いのだ。それこそ、奇跡でも起こらなければどうしようもないのだ。だが、この世界で自分の求める奇跡が…
ここは運命が分かれる場所だ。後々、振り返ればどこで運命が分かれたのかはすぐに分かる。が、その渦中にいれば、その判断は難しい。そして、その運命を自分の望む方に向けるのは更に難しい。なぜなら運命は常に自分の望みとは別の方向を向いているからだ。自分の力の範疇を越えた運命の奔流に飲まれて溺れないようにするのに必死で、それが精一杯。それなのにどう…
ここが運命の分岐点。後から見ればどこが分岐点だったのか判断することは難しくない。でも、その場にいた時、そうだと判断することは難しい。ましてや、その運命を選択することは難しい。自分の良い方に運命を決定するのは大変難しい。それこそ奇跡が起こらなければどうしようもないのかもしれない。しかし、奇跡は起こりにくいから奇跡である。奇跡に期待して起こ…
ほぼ全ての力を使い切って地面に倒れ込んだ古蝶揚羽。実際にかかった戦闘時間よりも遥かに長い時間戦っていたような感覚。マラソンで42.195kmを走り切ったような達成感。古蝶は二体の七つ星悪魔を倒せたことに高揚感を覚えていた。
少しして、その興奮が冷めて、古蝶は思考を巡らせていた。それは現在の状況に関して。ヤックの姿をした霧の悪魔。復活し…
反撃に出ようとする古蝶に対し、クシャラカンの大きな眼から怪光線が放たれる。その光線は爆発を引き起こし、古蝶を巻き込む。更に離れたところから助走で勢いをつけたラシュージャが大きな刃の一撃を古蝶にお見舞いする。
バスッ!
鈍い音と共に古蝶の大きな黒い羽根の一部が斬られて落ちた。
『ぐああああああああ!!!!』
攻撃時の手…
ヤックの姿をした霧の悪魔プリアースを葬った古蝶は、霧からの脱出の前にダニエル達とどう合流するか考えていた。
(『ダニエル達ならどう動く?わしとの合流か、霧からの脱出か、待ちの一手か…?やはり、霧から脱出して体勢を整える方じゃろう。なにせ、霧の中は霧の悪魔の腹の中も同然。奴らのフィールドで戦っては勝ち目なしじゃ。ならば、わしも脱出を…。…
時間は少し遡る。
『お前達!全員無事かえ!?』
古蝶の声が霧の中に響く。しかし、それに返ってくる声はない。
『ダニエル!水鏡!神凪!』
古蝶がどれだけ叫んでも声は虚しく響き渡る。
(『…冷静になれ…。霧の悪魔…あれは九つ星悪魔…。本体が完全に地上に出たなら…!しかし、ルシュファーの結界が九つ星を通すのか?…普通はど…
先程のダメージなどなかったかのように現れた五つ星悪魔達。一方のエクソシスト三人は連戦による疲弊を隠せない。しかも、この戦いを制したところでしばらくすれば悪魔達は復活することは明白。長期的に見れば三人の勝利はどこにも存在しなかった。
それでも戦うしかないと、ダニエル、水鏡、神凪は臨戦態勢でフォーメーションを取る。一方のナイトメア・ビュー…
「水鏡さん!神凪さん!無事ですか!」
「おう!こっちは片付いたぜ…!」
「こっちも何とか、ね…。」
ダニエル、水鏡、神凪はそれぞれに襲いかかった五つ星悪魔、ペーパーゴースト、ナイトメア・ビューティー、コルゴディアを撃破し、再び会うことが出来た。
「しかし、おかしい…。ペーパーゴーストは確かにあの時…『教会』の西側で斬り裂…
『さあ、さあ!どうしたのでごさいますかなぁ!?手も足も出ないようでございますなあ!』
五つ星悪魔のコルゴディアはツタを無数に伸ばして神凪が攻撃する隙を与えない。銃は相手との距離が離れていてこそ効果を発揮する武器。それは相手の攻撃範囲の外から攻撃出来るということに言い換えてもいいかもしれない。その分、構えて、狙いを定めて、引き金を引…
「うりゃあああ!!」
ドレスの悪魔ナイトメア・ビューティーに殴りかかる水鏡。しかし、ナイトメア・ビューティーは空に飛んで攻撃をかわした。
『残念ね。』
「くそっ!降りて来い!」
ナイトメア・ビューティーはケタケタと笑った。
『女の子がクソとか言わない。』
「黙れ!」
『そこまで言うなら行きましょうか。』
ナイトメア・…
突如として襲来した五つ星悪魔達によってダニエル、水鏡、神凪は分断され、強力な悪魔に単独で立ち向かわなければならなくなった。
本来エクソシストはチームで動き、その連携によって悪魔を確実に倒す。本来ならバラバラになる事態は避けるべきだったが、魔力の濃い霧のために悪魔達の襲来を察知するのが遅れた。今までに倒されたと報告のあった悪魔達ばか…
水鏡は拾った河瀬の杖を腰に差して、二人のところに戻った。
「水鏡…。」
「水鏡さん…。」
心配する二人に対して、水鏡は普段の笑顔を見せた。それが空元気も混じっていることは、付き合いの長い二人が見ればすぐに分かった。
「心配すんな。あたしはもう大丈夫だから。あいつは河瀬じゃなかった。河瀬は…死んだ。だから、もう迷っちゃいけない…
「いいのかい?」
水鏡の耳に言葉が飛び込んで来た。大きくなくてもはっきりとした言葉。神凪の澄んだ声だった。
「このままでいいのかい?君の親友が侮辱され続けているのに、このままでいいのかい?」
「え…?」
水鏡は神凪の方を見た。声は澄んでいても神凪の銃を握る拳は震えていた。
「あいつは、河瀬の体で、河瀬の声で、仲間を傷付け、…
「誰だ、お前は…。」
ダニエルは立ち上がり少女と向かい合った。
『ええ~?エクソシストなのに、そんなことも分からないの~?わたし、霧の悪魔…。霧の悪魔プリシード。たった今、さっきの瞬間生まれた霧の悪魔だよぉ。』
少女はケタケタと笑いながら、くすんだ瞳を大きく見開いていた。
「嘘だ…。」
水鏡は動揺した震える瞳で少女…
深い深い霧の中。そこに映るは夢幻か。歪んだ現実か。それとも残酷な真実か。
紫色の気味の悪い霧が辺りを覆っていた。
「古蝶さん!水鏡さん!神凪さん!無事ですか!!」
ダニエルの声が辺りに響く。
「ぼくは無事です!ダニエルさん!」
「あたしも無事だよ!」
神凪と水鏡の声が帰って来た。霧のせいでかなり視界が悪く…
白龍「サーナイトさんから私のところに送られてきた一枚の絵。それがあのとんでもない冒険の始まりだったなんて、その時の私には想像も出来なかったのです…。」
パルナ「ダウト。」
バーニー「うっさ、うっさ~。」
――――――――――――――――――
悲しい夢を見ました。
悲しい夢を見ました。
地球は毒に侵されて、もうそこには居られません。
二人の男女は迫ってくる毒から必死に逃げます。
二人は手を繋いで必死に逃げます。
そして、世界一高いビルの一番上の部屋まで逃げました。
それでも毒はどんどん迫ってき…
「惜しくなどあるものか…。」
『何っ!?』
(惜しくなどあるものか!)
体を貫かれたまま、河瀬は剣を掴んでいるタンジェクトの手を掴んだ。
(敵の盾にされて、仲間の足を引っ張るなんて!)
河瀬を貫いた剣は赤く染まって、血が滴っていた。
(もう助からない命であることぐらい分かる!それぐらいなら、わたしは――――――!!)…
フラフラとした足取りのタンジェクト。しかし、剣を持ち、殺意を放ち、エリークラにトドメを刺そうと神経を尖らせていた。
(『ワタシがレーザー砲撃を食らったのと同時に奴は力尽きて倒れたが、首と胴と手足を掻き切るまでは安心出来ん!』)
エリークラの首をはねようとタンジェクトは辺りを見回した。しかし、不思議なことにエリークラの姿はどこにも…
刹那、タンジェクトの剣が弾かれた。タンジェクトが全く予想していなかった場所からの攻撃だった。
『バースト――――――。』
タンジェクトがその攻撃の正体に思考を巡らすよりも速く、エリークラの連続攻撃エリクラッシュが始まっていた。
カカシのポーズのまま回転し左手でタンジェクトの顔の横を殴り、そのまま回転した勢いで右手の裏拳…
『エンジェルス・ブラスト!!』
放たれたエリークラビームに対して、タンジェクトは左手から光り輝く光線を放った。二つの技は互いにぶつかり、爆発し相殺した。その爆発の煙が晴れた時、タンジェクトの背中には大きな黒い翼があった。
『お前のそれは、天使の力の前では通用しない。』
――――――――――――――――――
…
「ぶんが、ぶんが、どーん、どーん!ぶんが、どーん、どーん!」
突然聞こえてきた奇妙な音。太鼓の音だろうか。ラッパの音だろうか。
「ぶんが、ぶんが、どーん、どーん!ぶんが、どーん、どーん!」
違う、掛け声だ。大きな死体を引きずった男が自分の口で鼓笛隊の真似事をしているのだ。
引きずっている男と引きずられているそれを見てタンジェ…
少女の黒く折れ曲がった羽根が色を失っていく。その髪の毛からも、瞳からも色が消えていく。周りの黒いオーラも消失し、少女は愛の一部を抱えたままゆっくりと前に倒れた。
パキパキと音を立てて少女の羽根が壊れていく。羽根だけではない。髪の毛から始まり、手足の指が白い欠片になってボロボロと剥がれていく。
(『…能力の第三段階解放の副作用…
「!!!???」
次の瞬間、タンジェクトは地面に這いつくばっていた。いや、正確には地面を削りながら吹っ飛んでいた。
(何が、起こったのだ!?)
そう思うか否か、頭に激しい痛みを感じたタンジェクト。そして、相手の少女の左腕が完全に大破していた。
(まさか…!?そういうことなのか!?)
刹那の一撃、少女は向かってくるタンジ…
――――――――――――――――――
力を恐れてはいけない。
力を拒んではいけない。
これは私を構成する大切なものの一つ。
力に溺れてはいけない。
力に頼ってばかりではいけない。
これは私を構成する要素の一つに過ぎない。
羽異、過ぎた力は身を滅ぼすわ。私達は慎重にならなければならない。この力はどれだけ慎重に…
『ッチ…!愛!』
少女は腹を斬り裂かれたにも関わらず手で傷口を押さえながら、朽ちかけたDC・Ⅵ愛の元に一気に駆け寄り、その体を抱き抱えた。
『おい!しっかりしろ!愛!』
『ああ…真紅(くれない)だ…。やっぱり真紅だ…。全部、思い出した…よ…。私は…あの時、あなたに助けられて…でも…結局…。真実は…酷過ぎて…お父さんとお…
白龍「チャラチャチャ~、白龍のパーフェクト春分教室~始まるよ~。」
パルナ「はくりゅ~のような物知り目指して頑張っていってね~。」
白龍「と、言う訳で今日は春分です。昼と夜の時間が同じになる日です。以上!」
パルナ「早っ!短っ!」
白龍「しかし、口で言うだけではすぐに忘れて…
白く長い髪の少女はゆっくりと周りを見渡す。
『ここは…ふむ…なるほど…そうか…。』
そして、右の緑の羽根が光り始めると共に、自身の右目も緑色に染まっていく。
『状況把握完了。脱出開始。』
そして少女は淡々とした口調で何かを呟き始めた。
『解析開始。解析完了。能力発動“簒奪模倣(こぴぃ)”。『地に潜む者』能力=亜空間形成…
地に潜む者が戸惑っていると続けて腹の中から羽異の声が聞こえてきた。
【はーい。お願いタイムです。地に潜む者さん、わたくしに降伏して地上に返してください。】
「餌の分際で我に意見だと?ふざけるな!」
次の瞬間、地に潜む者は胃に痛みを感じた。
「おふっ。」
【はいはーい。そう意固地にならずに考え直してください。お願いします。】…
タンジェクトが数歩ほど歩いた時だった。地面の底から地響きの音が上がってきて、地面から何かが叫び声を上げながら飛び出した。
『グ・ウ・オ・オ・オ・オ!!!』
飛び出した、というより飛ばされたという方が正確かもしれない。投げ飛ばされたか、殴り飛ばされたか、吹き飛ばされたかは分からないが、その巨大な何かは明らかに体勢を崩していた。…
タンジェクトは向かってくる愛の側面に素早く回り込むと長剣を太い大剣に変えて、野球でボールを打つかのように愛の横っ腹目がけて振り回した。その瞬間、愛と目が合った。愛はその大剣を掴みかかると、それに抱き付き軸足一つ残してタンジェクトごと持ち上げた。
『アハハハハハハ!!』
愛がそのまま剣ごとタンジェクトを壁に叩き付ける。しかし、タンジェ…
――――――――――――――――――
特級エクソシストのシークレット達が出払っている間に、一体の悪魔が『教会』を襲った。
その悪魔、細身の体は大きさ的にも形的にも人間に近いが全くの別ものである。右手には長い剣、左手には大きなハサミがあり、蠍のような尻尾が背中の方に見える。
何人もの上級エクソシストとDC・Ⅲ南奈美が守る…
『教会』から外を眺めていた悪魔は天にも昇る勢いの火柱が上がるのを確認していた。
「ふむ…。」
骨のようなものが全身を覆って鎧を形成している細身の体を翻し、その悪魔は辺りに声をかけた。
「エクソシスト諸君、ご苦労だった。諸君らの尊い活躍によって出払っていた特級エクソシスト達は火柱に包まれ天に召されただろう。だから諸君らも迷うこと…
美鯨とハピネス・マーメイドが闇夜に消えるのを見送ってから、シークレット達は一度『教会』に戻って体勢を整えることにした。魔界と人間界を繋ぐ結界を破壊するという当初の目的を達成したので、次は残っている悪魔の退治が一番の急務となる。『教会』にはまだ戦える上級エクソシストも残っているし、少なからず体力を回復させたメンバーもいると思われる。
…
真如の振り上げた杖からほとばしる水は滝のように溢れ出てその場に降り注いだ。
驚くべきことにそれらの雨に打たれた部分の怪我がどんどんと塞がり、治っていく。ハピネス・マーメイドの治療魔法の一つハピネス・レインは指定した範囲に傷を癒す雨を降らす。範囲内なら誰であっても回復させ、回復対象が複数でも広範囲にいても一気に回復させることが出来る…
妹には秘密にしたくて夜中だというのに翼ちゃんの家に押しかけたけれども、翼ちゃんはわたしを普通に家の中に招き入れた。わたしはそこでありったけの思いを告げた。
「わたしは…わたしも戦う!翼ちゃん、わたしも誰かを守る、あなたの戦いに連れて行って!わたしはもう誰かに守られるだけじゃいけないって気が付いた!魔法乙女になるまではお母さんに守ら…
それがわたしと翼ちゃん達『同星同盟』との交流の始まりだった。それからというもの、わたし達の生活は一変した。『同星同盟』と名乗るたくさんの人達が毎日顔を見に来たり、ご飯を作ってくれたり、遊んでくれたり、勉強を見てくれたりと世話を焼いてくれた。
そして何より、敵と戦うことがなくなった。後で敵の正体と共に知ったのだけれども、翼ちゃんが結界を…
わたしは勢いよく階段を駆け下りて、台所に転がり込んだ。台所に人影が見えた。
「お母さん!」
わたしが叫ぶと、人影は振り向いた。
「は~い~?」
「えっ?」
それは知らない女の人だった。
「おはようごさいます。」
更に台所から白く長い髪の女の子が顔を出した。
「えっ!?」
「目が覚めたんだね。体の具合はど…
魔法乙女になって20日間、奇跡なんて一度もなかった。物心着いた時から魔法使いだった人生の中で、奇跡だって思えることなんて一度もなかった。でも、この日、奇跡は起こった。わたしの目の前で。
どこからか飛んできた巨大な水球。それは見事に命中し、黒い巨人を吹き飛ばした。更に体勢が崩れた巨人の周りに結界が張られて、身動きが取れなくなって…
次の敵は大きかったけど、動きは遅かったし狙いを定めやすかったので殺すのは楽だった。
その次の敵は一撃当てて怯んだところを最大火力で一気に殺した。段々と魔法と杖の使い方が分かってきた。
更に次の敵は張り巡らした罠で動けなくしたところを魔法で止めを刺した。魔法が自分の手足のように感じられた。
ふと、わたしは自分が笑って…
今まで何も知らなかったけど、その日は突然やって来た。
魔法が使えるなんて悪いことばかり。魔法使いの魂は美味だそうだ。魔法使いの魂を喰らうと寿命が延びたり、力が上がったりするそうだ。だから『敵』が次々と襲いかかってくる。でも、それを知ったのはもっと後の話。
魔法が使えるなんて悪いことばかり。訳の分からない戦いに巻き込ま…
パルナ「明かりをつけましょ、ぼんぼりに~♪」
白龍「お花をあげましょ、桃の花~♪」
パルナ「五~人囃子の笛太鼓~♪」
白龍「今日は楽しいひな祭り~♪」
パルナ「今日はひな祭りだよ~。女の子のお祭りだよ~。」
白龍「そんな訳で今日はひな祭りに関する豆知識やクイズをだらだら語っていくよ。題して…。」
パルナ&白龍「教…
――――――――――――――――――
あの日、翼ちゃんがわたしをギュッと抱き締めて、わたしはチーム『ナイチンゲール』の一員になった。
わたしの名前は阿久根 真如(あくね まじょ)。先祖代々から続く魔法使いの家系。魔法使いなんて言ってもたいていの人は信じないでしょうね。真面目な顔をして言っても笑われるだけだし、…
少しの間、思考を巡らせていたシークレットだったが我に返り、自分達の危機を救ってくれた二人に声をかけた。
『…寝屋川美鯨と真j―――。』
「魔法乙女ハピネス・マーメイドです。」
『…寝屋川美鯨とハピネス・マーメイド、助太刀感謝する。』
「二人共、ありがとう。」
「本当に助かりました。」
「ホント助かったぜ。あんたら、マジで…
オルジュホッガスが大爆破を起こす寸前、美鯨は飛び退いてハピネス・マーメイドを大きなヒレで包んだ。そして、オルジュホッガスの方に向かって技を放つ。
「深海の大津波、その猛き牙は大地も砕く、ディープ・シー・アタック!」
高圧力で圧縮された水がどこからともなく吹き上がり、オルジュホッガスを覆い尽くす。その瞬間、大爆発が起こり、大量の水によ…
突然現れた二人は何者なのか。一人は寝間着姿の女性で、もう一人はアニメに出てきそうなド派手な衣装を身に付けた少女。シークレットと四人の上級エクソシストは状況を把握出来ていなかったが、古蝶は分かっていた。古蝶もまた『同星同盟』の一人だからである。
『同星同盟』の中でも五本の指に入る実力者、寝屋川 美鯨(ねやがわ みく)。
一族が代々…
『グリモスが…!馬鹿な…!!!』
上空から声がする。見ればコウモリのような黒い羽根といくつもの目玉を持つフードを着た悪魔が浮かんでいる。先程吹き飛んで来た七つ星悪魔のオルジュホッガスだった。
『人間共め…!我ら悪魔をコケにしよって…!許さぬ!!』
その悪魔は両手を広げていくつもの魔法陣を展開した。
『吹き飛べ!マッドファイヤ…
「古蝶様!我々のことは放ってシークレット様に加勢を!」
『馬鹿者!そんな真似が出来るか!』
「ぼく達だけでも何秒か持たせます!その間に外にある邪悪な結界を破壊してください!」
『駄目じゃ…!この瘴気は強過ぎる!お主らの結界は一瞬で溶け出す…!』
「でもこのままじゃシークレット様が…!」
その時、古蝶の懐の通信機に誰かか…
グリモスの体から吹き出す大量の瘴気、それは一気に魔の結界内に広がり、そこにある全てのものを溶かし、腐らせていく。
『ちいいいい!!!』
古蝶は高速でダニエル、水鏡、神凪、河瀬の前に立ちはだかり、古蝶の体についている黒蝶が四人を包むようにして広がった。古蝶の式神蝶は魔力の籠った瘴気を吸収する。それでも吸収しきれないほどの大量の瘴気…
古蝶が神降ろしを使った後、瘴気を一度全て吹き飛ばして道を作った段階で上級エクソシストのダニエル、水鏡、神凪、河瀬はグリモスに気付かれないようにシークレットの装甲から降りていた。古蝶とシークレットがグリモスと戦っている間に四人は魔界の門のすぐ下まで来ていた。全て作戦通りだった。
「さあ、始めましょう。」
「おうよ。」
「うん。」…
大きな口を開けて飛び込んでくるグリモス。それに向かって古蝶とハグルマは予測していたかのような反応速度で迎撃攻撃を放った。
『天空の偉大なる十字架(ぐらんど・くろす)!』
竜巻のように吹き荒れる風の刃と斬り刻む真空の刃の混合に魔力と霊力、それにエクソシストの聖なる力を、互いの力が相殺し合わないように絶妙に融合させた古蝶の大技。神降…
魔界の門の真下に座っている巨大な緑色の七つ星悪魔グリモスは、楽しいことを待ちきれない子どものような様子で、貧乏ゆすりをしてみたり、顎を触ってみたり、頬をかいてみたりとソワソワしていた。
(まずは瘴気の中をどうやって来るか。ボクちんの体から吹き出た毒の霧は半径数キロメートルぐらいにまで広がっているかな。感知はそれ以前の距離で出来るし、そ…
巨大な緑の悪魔グリモスは魔界に繋がる魔法陣の下で寝そべりながら遠くを見ていた。
(…あ、ラシュージャの気配が消えた。もう死んだのか、ホント弱いなあ。)
グリモスはゆっくりと体を起こした。
(さて…そろそろ来るかな、特級エクソシスト。楽しみだなぁ…。)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ガリガリガリ。ギチギチギチ。ギリ…
白龍「うちに幸福の遣いが来たと思ったら風邪も一緒に来たよ!ちくしょう!」
パルナ「それでも更新するんだね。」
白龍「この機会を逃したら更新再開が難しくなる気がしたので。皆さん、ご心配おかけしました。仕事がまだまだ忙しいけど私は何とか元気です。」
パルナ(魔女の宅急便のパロディやるだけの余裕はあるんだ…。)
…
――――――――――――――――――
話は少し遡る。ハグルマ・シークレットが出撃する少し前に…。
ここは悪魔退治を専門とするエクソシストの組織『教会』日本支部。激しい悪魔との戦闘に一時的に区切りが付いたので負傷者と共に全てのエクソシストを『教会』の中心部に帰還させていた。
本来の指揮系統のトップである大司教、日…
突然、悪魔ジャが連れ去られた。何が起こったのか分からない。残りの悪魔シューが驚きのあまり一瞬、固まったその時、別方向からエクソシスト達が飛び出した。
「ハアッ!!」
聖なる剣で魔を斬り裂く上級エクソシストのダニエル。更に他のエクソシスト達も次々にシューに襲い掛かった。
「古蝶さんに何しやがるんだい!」
巨大な合金グローブを付…
二体の悪魔の同時攻撃。古蝶はその瞬間を待っていた。相手を吹き飛ばしたことにより出来た一瞬の時間、そして、相手の攻撃のタイミングが同じになる瞬間を。
(秘術、黒蝶分身をもう一度喰らわせてやる!蝶の数が少ない分、肉や骨は持っていかれるが、お前らの命は頂く!)
「キッ…!」
「キキッ…!」
それは古蝶の想定外の行動だっ…
「速いが単調…。」
(いや、速さゆえに単純な攻撃にならざるを得なかったか。攻撃の太刀筋が至極読みやすい。)
「キッ…?」
ラシュージャの巨大な剣が古蝶の心臓を貫いた次の瞬間、なんと古蝶の体がたくさんの黒い蝶になって分散した。
「秘術、黒蝶分身。」
(かかったな。狩人と獲物、立場が逆転だ。)
バラバラになっていく古蝶の…
もし、人生が選択だとしたら、わしはどこで間違えたか。
もし、人生が運命だとしたら、わしに出来ることは何か。
『教会』日本支部に配属されている“蝶”の称号を持つ特級エクソシスト、古蝶揚羽は橘六花を安全な場所に送り届けた後、全速力で魔界の門に向かっていた。古蝶は感じていた、先程魔界の門から更に莫大な魔力を持つ者が現れたの…
世界は、突如として変わる。
世界は、突然に牙を剥く。
空に開いた魔界の入口から災厄の鼓動が響き渡る。魔界の門から数体の悪魔が地上に降り立った。
「…ここが人間界?息苦しいなあ…。」
山ほどもあろうかという巨大な緑の体の悪魔が周りを見渡しながらそう呟いた。
「根本的に魔力が少ないのだ。魔神ルシュファー…
――――――――――――――――――
「城流水(しろながす)~…じゃなかった、寝屋川 美鯨~、いっきま~す~わ~。」
紋白町のとある家。そこでパジャマ姿の美鯨は通信機に向かって返信を終えたところだった。
「美鯨さん…。」
酒を片手に、晩酌をしている彼が少し呆れ顔で呟くように言った。
「あら~、あなた~、どうした…
――――――――――――――――――
『●● ●、悪魔は全て斬る!』
『●●● ●●、徹底防戦に入ります!』
『●● ●●●、了解じゃい。』
『●●●~…じゃなかった、●●● ●●~、いっきま~す~わ~。』
――――――――――――――――――
悪魔を祓うエクソシスト達の組織『教会』日本支部の北東…
さあ、魔物退治と行こうじゃないか…!
この世界は二つに分かれる。善か悪か。天使か悪魔か。神か魔か。
では人間はどちら側だろうか。
答えは悪の側だ。なぜなら最初の人間は神様の楽園から追放されたのだから。
つまり、人間の支配する地球も悪魔の側に属している。もっともそれは語るまでもない。どれだけの悪が地球を覆っているのか、どれ…
パルナ「みんな~、明けましておめでとうございま~す!」
白木 翼「今年もよろしくお願いします。それから絵を描いていただいたサーナイトさん、ありがとうございます。」
パルナ「あれ?はくりゅーは?」
翼「本日は私達だけで進行してほしい、とのことです。新年ということで華やかに看板娘達を前面に出したいみたいですね。」
パ…
「クックックッ…クックックッ…。」
木霊する木霊する。薄暗い霧の悪魔の城の地下に木霊する。
木霊する木霊する。一体の悪魔の笑い声が不気味に木霊する。
「上機嫌だな、ルビデ。」
「タンジェクトか。」
ルビデは笑みをこぼしながら、話しかけてきた細身の悪魔タンジェクトに語りかける。
「下準備を含めれば、もう何十年越しに…
悪魔達が地上に現れてからおよそ一時間。戦況は当初よりもエクソシスト側に有利になっていた。五つ星悪魔のコルゴディアは『教会』大司教の日野 光一(ひの こういち)が殺害、クッシルとシルドは『同星同盟』のヨーコの炎によって焼失、ナイトメア・ビューティーはエリークラによって浄化され、ペーパーゴーストは見習いエクソシストの小岩井 博人(こいわい …
「あ、あ…。」
変身し、より禍々しくなったガルギオッドを見て、六花は怯えきっていた。その瞳に映るのは恐怖の色。その瞳に宿るのも恐怖の色。見開かれた瞳から感じられるのは恐怖の感情。体は恐怖に支配されて小刻みに震え、叫び声すら上げられなかった。
その時、六花はほのかに温かい白衣に包まれた。六花に素早く脱いだ自分の白衣をかけながら…
ルビデ「クックックッ…。計画通り…。」
パルナ「抜き足差し足忍び足…。」
ルビデ「そろそろ秘密兵器を投入する頃合か…。」
翼「えいっ!」
ルビデ「も、もがあ!?」
――――――
――――
――
―
白龍「ってなれば、翼ちゃんの勝利で終わるんですけどね。」
ルビデ「ふざけ…
石になっていた女性がみるみる内に元に戻っていく。体に張り付いていた触手のようなものは聖水によって浄化され、肌の色は血液が流れて薄らとピンク色に戻っていった。
(これで助かる…。)
四郎は安堵した。そして石化が完全に解けて、その女性は目覚めた。
その瞬間。
「嫌あああああああああああああああああああああああああああああああ…
――――――――――――――――――――――――
物心着いた頃から既に、わたくしはエクソシストだった。
悪魔祓いを生業とする一族、橘家の長女として生まれたわたくしは両親や一族などからの英才教育を受け、立派なエクソシストになった。どんな悪魔であっても必ず倒す。エクソシストの名門である橘家の人間として恥ずかしくない行動、立ち振る…
時間は少し遡る。
トルーゴーとヨーコの戦いが始まった時、チーム『ナイチンゲール』の薮 四郎と五つ星悪魔のガルギオッドは睨み合ったまま動けなかった。
四郎は戦闘が得意ではないのでメスを構えながら相手の隙を伺っている。相手が隙を見せれば筋を切れるが、そう簡単に隙を見せるガルギオッドではない。かといってガルギオッドは石と化した…
――――――――――――――――――――――――
『【――――――――――――――――――。それでは皆様、何があっても全員必ず生き残りましょう!この緊急放送はわたくし●●がお送りいたしました。】』
――――――――――――――――――――――――
【はーい。】
美しい白い髪。あどけない表情。小さな手足。その…
夜の闇の中、二体の獣がお互いの命を削り合う。
美しい毛並みの大狐が飛び上がり、月明かりに映える。その前足の大きな爪が鋭く突き出されるのをかわし、太い腕が向かってくる。それをもう一方の前足でいなし、更に上を取る大狐。
『狐火!』
大狐は口から炎を吐く。
(『目くらまし!』)
『そっちか!』
魔の巨獣は視界を…
そうだ。あの時、あたしは直感した。白木なら、きっと仲間を大切にして、よりよい未来を作ってくれると。白木は本気であたしに向き合って、世界に向き合って、きっとよりよい未来を作ってくれると。
あの時、あたしは白木様について行こうと決心したんだ。どこまでもついていこうと思ったんだ。例え、行き先が地の果てでも、地獄の底だとしても…。
…
白木は再び左腕を構えた。
「ヨーコさん、あなたに誰も殺させない。それがあなたを守るために私が出来る唯一のこと!だって、私とヨーコさんは似ているんだから…!」
『あたしを、守るため、だと…?』
「…私の旅の始まりは、私と同じ人を助けるため。私は救われたから、今度は私が助ける番。私と同じ異能力や似たような境遇で悲しんで苦し…
更に数日が経った。あたしは完全に回復した。それどころか、以前よりも妖力が増していた。体中に力が溢れるのが感じられる。死んでいった仲間の魂の一部があたしに乗り移り、妖力の許容量を底上げしたのかもしれない。人間に殺された仲間がくれた力。これは人間を殺すための力だ。あたしは、人間を滅ぼす。
白木が食料の調達のために外に出た。こうなるとし…
あたしが目覚めて、最初に考えたのは、人間の皆殺しだった。
目を開けた瞬間に飛び込んできたのは、座ったまま寝ている白髪の少女だった。長い髪の毛を地面まで垂らし、こっくりこっくりと頭が動く。瞳は完全に閉じていて、よくも器用に座ったまま寝ているものだと思った。吹雪の音は止んでいて、塞がれた雪の先から太陽の光が滲んでいた。あたしは少女…
あの日、人間共に負けたあたしは雪山の中を逃げていた。
逃げていた、というのは語弊がある。正確には山の斜面を転がり落ちていたのだ。
なんだかんだ言っても結局、人間は弱い。それが今までのあたしの認識だった。確かに厄介なところはあるだろう。だが、それだけだ。叩けば簡単に潰れるし、炎で包めばあっと言う間に消し炭になる。
だ…
その巨体から想像出来ないほどの素早い動きでトルーゴーが突進してきた。しかし、直線的な動きだったので距離をとっていたヨーコはキリギリでかわした。
第一波は。
(『速いっ…!』)
横にかわしたヨーコの目の前に短いが黒くて太いものがぶつかった。
『ガッ…!!?』
それがヨーコを空中に跳ね上げた時に、ヨーコはそれが尻尾だと気が…
四郎は戦闘向きではないのでガルギオッドの動きを牽制しようと身構えている。一方のガルギオッドは六花の奪還を恐れて攻め込めずにいた。
膠着状態の四郎とガルギオッドを放って最初に攻撃を仕掛けたのはトルーゴーだった。
『うおおおおお!!!』
考えてみれば当然で、四郎がいるために迂闊に攻撃出来なかった先ほどの1VS2の戦いと違って、…
トルーゴーの拳の一撃が地面を叩く。衝撃と地響きがそこを中心に広がり、地面の表面が削れて石つぶてとなってヨーコと四郎を襲う。ヨーコが石つぶてをかわしながら素早く側面に回り込み攻撃を仕掛けようとした時、トルーゴーの鋭い眼光がそちらを向いた。
『うおおおお!!』
『ちっ!!』
無理矢理体勢を変えて攻撃を向けるトルーゴー。ヨーコは…
『教会』の北から一つの影が走ってくる。
狐目の女性のヨーコが白衣の男性の薮 四郎を抱えて走り続けていた。
「これでよし、っと。」
四郎は抱き抱えられながらも器用に自分の腕に刺さった矢を抜いて治療した後、包帯を巻き終わった。ヨーコはその傷を見ながら苛立ち混じりに言葉を吐いた。
『全く劣悪種共めが。四郎をキズモノにしやがって…。…
『教会』の南側では悪魔達が集まり結界を次々と破壊していった。壊すたびに仕掛けられた罠が発動し、数体は爆発などに巻き込まれて死んでいくが、悪魔は後から後から押し寄せて来る。西側から撤退してきた悪魔も加わって攻撃は激しさを増す。そして、ついに最後の結界が破られ、悪魔が一斉に『教会』内部になだれ込んだ。
「殺せー!エクソシストは皆殺しだ…
『教会』の中心部ではDC・Ⅰ(ディキューブ・ファースト)で“械”の特級エクソシスト、ハグルマ・シークレットが各戦場の報告を受けていた。
『シークレット様、報告します!東側、大司教様の活躍により完全に戦線を奪回!現在、五つ星以上の悪魔が攻撃に来ていないので防衛ラインを維持!悪魔の数が少しずつ減りつつあります!』
「いいぞ、そのまま…
(アンナ奴ラ…敵ジャナイ…。サッキノハ…偶然…。)
ペーパーゴーストは再び姿を消した。
(今マデ…姿ヲ消シテ見ツカッタノハ…今ダケ。ダカラ偶然…。サッキモ…タマタマ当タッタダケ…。)
再びペーパーゴーストはコースを回り始めた。
実は、ステルス中のペーパーゴーストはステルス精度を高めれば高めるほど、自分自身も周りがよく見え…
実は博人はあることに気が付いていた。それは戦場に見えない悪魔が存在するかもしれないということ。一番後ろから一番長く一番全体を見ていた博人だからこそ気が付いたことだった。
エクソシストもだけではなく悪魔も見えない攻撃を受けていることを発見したのだ。
(さっきはあそこにいた悪魔が。今度はあっちにあった結界。その次はあそこにいたエ…
『教会』の西でも戦いは繰り広げられていた。DC・Ⅴ量産機のカラクリウスが全滅し、悪魔達は勢い付いていた。しかも、エクソシスト側にとって不利なのはカラクリウスの大半を倒した悪魔が分からないということだった。
近くに悪魔の姿はないのに突然爆発するカラクリウス。何らかの攻撃を受けていることは明らかだったがそれがどんな悪魔によるものなのか…
今の自分はコンクリート漬けにされて東京湾に沈められる寸前の状態に等しい。手足の感覚などは既になく、ただ石の冷たさが重さと共に迫り来る。心なしか呼吸をするのも苦しい。
「本当に、どうなっちゃうんで、しょうに…。」
ガルギオッドはペロリと舌を出して、六花の耳たぶを舐める。
「や、止めろ…!」
「どう、なっちゃ、うんで、しょう…
「…世迷言を。わたくしがそんな誘いに乗ると思っているのですか!?」
六花は倒れた状態から閃光弾を放った。
「うお!眩し!」
「グランド・クロス!」
「ぐええええ!!」
六花はグランド・クロスでガルギオッドを吹き飛ばすと石になった聖剣を杖代わりにして立ち上がった。
「わたくしは橘 六花!誇り高きエクソシストの一族!悪魔…
ガルギオッドは六花の後ろを狙うように動き始めた。六花は後ろを取られないように立ち回るが足の一部も石になっている。戦いはかなり辛いものになっていた。
「一人で突っ込むなんて六花お姉さんも無茶し過ぎでしょうに。」
「黙りなさい!」
「わざわざ命を捨てに来ることもないでしょうに。ん?そうか、オレのお嫁に来たに違いないでしょうに!」
…
『教会』の各地でエクソシストと悪魔による激しい戦闘が繰り広げられていた。東側、北側に比べて南側、西側はDC・V量産機のカラクリウスが善戦したがそれでも悪魔の数が多く、ついに各方面全てで全滅。エクソシスト達は直接悪魔と戦うことになった。
『教会』の南側では一体の悪魔を軸に激しい攻撃が行われていた。
「こんな結界、役に立…
妖気を全身から吹き出したヨーコは体の一部が妖狐に戻っていた。その姿は悪魔に取り憑かれた人間か、人間の皮を被った悪魔の一部がはみ出して見えたものによく似ていた。
エクソシスト達は、剣を、弓を、魔法を、銃を、聖水をヨーコに向ける。憎悪と怒り、恐怖と嫌悪、様々な表情がヨーコに向けられる。それは悪魔に向けられるはずの表情、悪魔に向けられる…
『あたしが人間?馬鹿め。だからヌルイと言っているんだ。』
次の瞬間、ヨーコの体から青白い炎と莫大な妖気が吹き出した。ここでようやくクッシルもシルドも気が付いた。相手が人間ではなかったということを。霧の悪魔の力を得ていない状態なら、もしくは冷静に分析する気があればすぐにでも人間ではないということは分かっただろう。しかし、先入観と興奮…
『何だ、てめえラ。』
クッシルはヨーコを睨み付けた。その時、シルドが思い出したように言った。
「チーム『ナイチンゲール』?あ、ルビデが言ってた悪魔の邪魔をして回ってる連中か。トップがシラキツバサだっけ。」
『ああ、なるほド。あんな小娘にいい大人が二人も付き従ってんのカ。』
馬鹿にするような態度で言い放つクッシルにおどけた調子…
時間は少し遡る。
『教会』の北側ではエクソシスト達と二体の悪魔が交戦中だった。斧を持つ三本角の悪魔クッシルと盾を持つ三つ目の悪魔シルドのコンビ悪魔。シルドの盾は強力で、エクソシスト達の攻撃を全く通さず、クッシルの斧も強力で、エクソシスト達を次々となぎ倒していた。しかし、その快進撃もDC南 奈美のレーザー砲によって斧が大破したことに…
「エリークラさん、ありがとうございます…。」
奈美はゆっくりと起き上がった。まだ損傷は激しいが、何とか立つことが出来るまでに自己修復した。DC特別機は、人間がゆっくり休めば傷が治るのと同様に、少し休めば本来の機能の何割かが戻る。これもまた特別機ならではの機能だった。
「いつもいつも、あなたはピンチの時に駆け付けてくれる…。ど…
次の瞬間、ナイトメア・ビューティーは吹き飛んだ。高速蟹歩きをしてきたある人物がぶつかったのだ。
『きゃあ!!何なの!?』
「みなみなみなさん、おはようさん。南 奈美さん、こんばんは。」
まるで蟹のように両手でハサミを作っている男が現れた。奈美は地面に倒れながら、その男の顔を見た時、涙が溢れそうになった。
「エリークラ…
ナイトメア・ビューティーのドロップキックで『教会』の屋根から転げ落ちる奈美。しかし、ただ攻撃を受けた訳ではなかった。
「えいっ!」
奈美の両腕からワイヤーが飛び出してナイトメア・ビューティーに絡みついた。
「一緒に来てもらうわ!」
「ぐっ!!」
ナイトメア・ビューティーは踏ん張ろうとしたが、落下の勢いを得た奈美に引かれ…
クッシルの斧が弾け飛んで砕けた。
「クッシル!」
「おのれえええ!!人間ごときがあああ!!」
斧を持っていた腕と頭に傷を負ったクッシル。しかし、戦闘不能にはなっていなかった。すんでのところで斧で自分の頭をガードしたのだった。それでも以前のクッシルならやられていたかもしれない。
『この程度で…この程度デ、オレ様を殺せると思…
時間は少し遡る。
『教会』の北側では、DC・Ⅴ量産機の戦線を突破した二体の悪魔が迫っていた。
「ひゃ、はー!!!」
奇声と共に三本角の悪魔が斧を振り下ろす。その馬鹿力で結界にヒビが入った。そこにすかさずもう一体の悪魔が盾で斧を殴った。
「おうらああ!!」
結界の割れ目が広がって穴が開いた。その穴から二体の悪魔は侵入して…
五つ星悪魔コルゴディアの真の姿を見て、光一はハアッと息を吐いた。
「ほんと、悪魔ってウザいわ。けどな、一個勘違いしてるで。」
『ほウ?ロウソクの燃え尽きる前の最後の輝キ。最後の無様な足掻きでございますカ?まあ遺言ぐらいは聞いておきましょウ。あなたが更に無様になるようニ!』
「わしはな、『教会』日本支部のトップ、大司教や…
その場の雰囲気が一瞬で変わった。悪魔達が気持ちの面で一歩も二歩も下がったのだ。そこに光一が突っ込んだ。悪魔達の足並みが乱れた。
日野一族は裏の世界では超能力者の家系で知られている。一族の血を引く者は一定の年齢になると光に関する何かしらの超能力を発現する。一族ではその能力を“光冠”と呼んでいる。“光冠”は発現した者によって、形も…
『教会』の東側では三つ星、四つ星の悪魔達が大暴れしていた。DC・Ⅴの量産機75体はすでに全滅。各エクソシストの混成チームが協力して攻防を繰り広げていたが、戦況は不利になるばかり。確かに悪魔を倒してはいるのだが、後から後からやって来る。特に三つ星悪魔の数が尋常ではない。それらが全て四つ星クラスの力でかかってくるのだから戦いは苦しくなる一方…
刻一刻と変化する戦況。特級エクソシスト、ハグルマ・シークレットは各戦場の状況の報告を受けながら指示を出していた。
『シークレット様、報告します!北方面、DC・Ⅴ量産機が75体中52体大破!悪魔二体が第一戦線を突破し、『教会』本部に向かっています!外見からクッシルとシルドと思われます!』
「討伐リストの悪魔か…!」
シークレ…
『教会』の結界を破壊し、進撃する悪魔軍団。その悪魔達を最初に出迎えたのはたくさんの機械兵だった。
悪魔の破壊のみを目的とした兵器、DC・Ⅴ(ディーキューブ・フィフス)の量産機カラクリウス。背中にはミサイル、右手は遠距離用のレーザー、左手は近距離用のアームハンド。足はキャタピラーで荒い道でも高速で移動し、その場で方向転換も出来る。『…
「大司教。」
光一のところに一人の老婆がやって来た。
「お、古蝶さん。」
彼女の名前は古蝶 揚羽(こちょう あげは)。特級エクソシストで“蝶”の称号を持っている。白木 翼とも懇意にしており、彼女と共にいくつかの悪魔事件を解決している。また自身も普通の人間にはない特殊な能力の持ち主で、純粋なエクソシストとしての能力と合わせて現在…
紋白町郊外の上空に開けられた大きな穴。そこから降り注ぐ悪魔達。下は一つ星から上は六つ星悪魔まで。空を飛ぶ者、ふわふわと落ちていく者、地上に向かって突撃する者。武器を持つ者、凶暴な筋肉を持つ者、雄叫びを上げる者、角を尖らせ、目をギラつかせ、舌なめずりする者。その多くは『教会』に向かった。
全く予測されていなかった今回の悪魔の大軍団の…
2003年7月26日0時0分、紋白町近郊の空に穴が開いた。
そこから災厄が降って来た。
遠くから見れば、空から何か黒い物がたくさんゆっくりと落ちてくるように見てただろう。その一体一体が悪魔と呼ばれるものだと、当初誰が理解出来ただろうか。その数はあっという間に千を越え、まだまだ増え続ける。
それらの悪魔の多くが、地上…
2003年7月25日深夜、いや日付が変わっているから26日になって間もない頃、ある特定の通信機を持っている者、全てのところに同一の放送が入った。それは『同星同盟』と呼ばれる者達のところであった。
『同星同盟』とは、白木 翼が提案したある同盟を結んだ者達の総称である。同盟の概要は、それぞれが独立性を保ちつつ必要時には協力し合うという…
ハロウィン、それは悪魔や悪霊を追い祓う儀式…。
今日はハロウィン!たくさんのポケモン達を引き連れて湖の看板娘達がやってきた!
湖にいらっしゃっている絵師サーナイトさんから力作が三つも送られてきました。ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!
…
[駅のトイレ]
「ハア、ハア…!」
男は走っていた。
「ハア、ハア…!」
ただただ走っていた。湧き上がる痛みを堪え、額に滲む汗を振り払い、走っていた。駅のトイレを目指して。そう、彼は腹痛と戦っていたのだ。
(ヤベえ!このままだと…。しかし、必ず間に合わせてみせる!営業の田中、腹痛には負けません!)
田中は駅の男子トイ…
[神社]
『お~、暇じゃ暇じゃ。ヨーコ、ヨーコや?』
夜とは言え、このクソ暑い日に十二単を来た大柄の女性がふかふかのソファーに座って足をパタパタさせていた。見た目は普通の女性だが、背中の方にある九つの巨大な狐の尻尾が人間でないことを物語っていた。
『お呼びでしょうか、クーコ様。』
すぐに狐目の女性がやって来た。彼女の名前…
人口約15万人の町、紋白町。交通の利便性などはそこそこで、全くの田舎ではないが、高層ビルがずらずらと立ち並ぶ町でもない。昔の大きな古い家や屋敷もあるが、近代的な家やマンションもある。スーパーやコンビニがある一方で、商店街や飲食店にも活気がある。田んぼや畑が残っている場所もあり、自然もそれなりに豊かである。町の中にある小さな山の頂上には神…
私は一体何をしたのでしょうか。
私は一体何をしていたのでしょうか。
戦争が始まりました。
引き金を引いたのは誰でしょう。
引き金を引かせたのは誰でしょう。
人間と悪魔の戦争が始まりました。
きっと止める機会はいくらでもあって。
きっと止める地点をいくらでも通り過ぎて。
今に至る。
もし、私が人間では…
プリスターは嬉々として語りだした。
『2003年7月26日0時ちょうどに一つ星から六つ星悪魔の混成大部隊が人間界を襲撃する。そう、戦争の始まり…!悪魔と人間との戦争の始まり!シラキツバサが不在の日本を蹂躙するのは、さぞかし悪魔達にとって楽な話…。』
顔面蒼白。茫然自失。白木 翼は目玉をひん剥いて、プリスターを見つめた。
…
『…。』
義手型結界の中のプリスターは黒い霧の体に目玉や口が浮いている格好になっていた。そして目玉が一箇所に集まって翼を見つめる。
『シラキツバサ…!』
「はい。」
『悔しい…!悔し過ぎる…!お前をハメようと罠を何重にも仕掛けて、勝ったと思った瞬間、負けてるとか…!
しかも!!!ミストタイプの悪魔にとって捕獲されるとか!!…
「アアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
叫び声を上げながら、のたうち回る翼。プリスターは勝利を確信していた。
(『このまま体の中を這いずり回って脳に侵入して神経系を乗っ取る!その後、体全体をゆっくり乗っ取ればいい!』)
だが、プリスターは突然の違和感を覚えた。
『!??!』
進まない。進めない。プリスターは進めなか…
翼がスカートのホックに手をかけようとした時だった。
ポタッ。
何かがプリスターの銃のところに落ちた。プリスターがそれに反応したのが1の何分の1秒か。それが鳥の糞だと分かったのも1の何分の1秒か。そして、プリスターが持っていた銃が叩き落されたのも1の何分の1秒か。プリスターにはそれぐらいの感覚だった。
プリスターは気が付…
『しかし、リサの体を乗っ取るのに苦労したわ…。だって、さっきから三人の体を乗っ取ろうと見えないぐらい薄い霧を近付けようとしてたけど、全部暴風結界で防がれたり何かの力で近付けなかったり…。多分、シラキツバサが微弱な重力結界を張っていたのよね。』
翼は真剣な表情で答える。
「そうです。」
プリスターは人差し指を二本立てた。
…
その瞬間、白木 翼は背後に、いや、地の底から嫌な感覚を感じた。
「暴風結界!」
翼が結界を張るのとほぼ同時に地面のあちこちから黒い霧が吹き出した。魔力のこもった危険な霧。すんでのところで暴風によって霧は防いだが、辺りは今まで以上に濃い霧に包まれた。ローラも臨戦態勢で構えている。
その時、リサが苦しみの声を上げた。
「ああ…
「Shut up….」
次の瞬間だった。リサが翼よりも一歩前に出た。
「はん?」
プリスターはそれを小馬鹿にしたように笑った。
「黙・り・ま・せ~――――――。」
「Shut up!!!!!!!!!!!!!」
リサは修道服の中から取り出した小瓶をプリスターに投げ付けた。中身は聖水、悪魔にダメージを与えられる水だ。
…
いつまでたっても攻撃に転じない白木 翼。プリスターはついに痺れを切らした。
『だっタら…!!』
プリスターは急に方向を変えた。ローラとリサの方だ。
『人質作戦に変更ダ!お前らヲひん剥いテ、ボロ雑巾にしてヤるよお!!!』
地面を這いずり回るゴキブリのような速さでプリスターはローラとリサに迫った。
「暴風結界。」
次の瞬…
プリスターは黒くて大きな腕を伸ばして翼を捕まえに出た。次々と伸びてくる黒い腕。しかし、翼は軽やかなステップでそれらをかわす。
『逃がさナい!』
翼は手や目の死角に素早く入ったり、瓦礫を間に挟んだり、微妙な距離を取りながらプリスターの周りをチョロチョロと逃げ回っていた。
『ちょろちょろト逃げるばかりしか能がないノカ!?』
…
「はい、何ですか?」
翼は首を傾げた。それはプリスターを更に激昂させるのに十分だった。
「あああああああああ!!!!おのれ!おのれ!!おのれ!!!よくもよくも、よ、く、もー!キー!!思えば、ヤック殺しでエクソシスト共を疑心暗鬼にさせようと色々細工したのに、お前が全部見破りやがった!!」
プリスターは頭をかきむしり、血管を浮き出…
ローラの全魔力を込めた一撃で古城の三分の二が吹き飛んで、辺りは火と瓦礫の海と化した。翼が張っていた暴風結界と追加で張った結界で三人は無事だったが、古城は見る影もなくガラガラと崩れていく。炎は燃えるものがなくなって次第に消えていった。
だが、炎が消えていくのに連動するように辺りに黒い霧が立ち込め始めた。そして霧の向こうから声…
銀髪の少女はくるりと振り向いた。一瞬、翼はギョッとした。
「よおおーうこそー!エクソシストの皆。遠いところまでよ、く、ぞ、お越し下さいま・し・た♪長い旅でしたねえ、ローラちゃん、リサちゃん、そして、白木 翼あああああああ!!!!」
少女は目玉をひん剥いて翼を威嚇した。その瞬間、リサが機関銃をぶっぱなした。
ガルルルルルルル…
2003年7月25日 午前6時。ローラ、リサ、翼の三人はプリズムシティの郊外にある古城の前に立っていた。
朝日に包まれて、おどろおどろしい雰囲気はあまりないが、それでも寂れた古城だった。空高く突き出したいくつもの塔は悪魔が持つ槍に似ていた。城を囲う城壁は蔦に巻き付かれて表面がほとんど見えない。城の色々な部分が雨風で壊れて、酸性雨で…
「ローラさん、リサさん。行きますよ。」
朝日を背に、公園のベンチによっかかっているローラとローラの膝の上に頭を横たえているリサに翼は声をかけた。
「ツバサ…。」
ローラもリサもすっかり声が枯れていた。
「あなたもたくさん歌ったのに、顔色良いわね…。」
「それよりも霧が晴れましたよ。リサさん。」
リサはハッと気が付いて…
翼とアンディ、二人はステージの裏手でマイクとエレキギターを握った。
「『いつでも、僕は一人ぼっちだってカッコつけて歩いていた。
いつでも、僕は一人ぼっちだってカッコつけて歩いていた…。
One, Two, One, Two, Three, Four!!!
いつもいつでも、一人ぼっち。仲間なんていらないって言い…
サムは歌い終わった翼の目の前まで行って、しゃがんで言った。
「嬢ちゃん。」
その表情は真剣そのものだった。
「おれ達と奏でてくれ。頼む。」
「はい!是非とも!」
翼は満面の笑みで答えた。
サムはサッと立ち上がると他の男達に声をかけた。
「お前ら!仲間全員に連絡だ!たった今からここで一代セッションの始まりだ!」
「…
サムは翼の歌を聴きながら、父親のことを思い出していた。
物心ついた時から自分の手元にはトランペットがあった。自分の近くにはトランペットの音楽があった。父親はサムにトランペットの吹き方の最低限のことを教えて、後は何もしなかった。吹けとも吹くなとも言わなかった。その代わり、何かにつけてトランペットを吹いていた。そして時々、サムに聞いた…
煮え切らないアンディに仲間達は茶化すように奏でろと言ったり、断るなんて男らしくないぞと言ったりしていた。すると、今まで一番後ろで見ていただけの男が声を上げた。
「おい、嬢ちゃん。」
その男は他の男達やアンディを押しのけて前に出た。
「リーダー…?」
「Sam(サム)…?」
サムと呼ばれた男は体付きが他の男達よりも屈強で…
「奏でて頂けませんか?」
アンディの台詞が遮られた。
「え?」
アンディが少し視線を下にやると、ローラの前に長い白髪の小さな少女が自分を見上げていた。
「私達が歌って、皆さんに奏でて欲しいんです。この街一杯に音楽を。」
突然のことだったのでアンディも周りも、ローラやリサも目をパチクリさせていた。
「それ、エレキギ…
「広い範囲で霧に魔力が含まれているから、上手く探索出来ない…。何だか全部ぼんやりしてる感じ…。近くまで行けば分かると思うけど…。」
リサは少し不安そうに言った。
「そうね…。まずは街を巡って悪魔の根城を探しましょ。」
ローラは鋭く周りを見回しながら歩き始めた。
「この街のどこかに…必ずあるはずよ…拠点が…!」
独り言のよう…
「なるほど、キャンピングカーですか。」
「ええ。悪魔退治用の移動要塞よ。」
裏のガレージに停めてある白い大きな車に三人は乗り込んだ。運転席にはローラ、助手席にはリサ、後ろに翼が座る。用意していた二つの大きな鞄を詰め込んで出発の準備が完了した。
「で、大まかな場所の見当はついているんですか?」
「霧の街、プリズムシティ、辺…
「じゃあ出発するわよ。」
ローラは椅子に掛けていた修道女の服をひったくると一分もかからないうちに着替えを終えてしまった。そして、スッと、まるで日が沈んで夜になるぐらいの自然さで、ローラの目付きが変わった。
獣の目。野獣の眼。狩人の瞳。特級エクソシスト“ジェミニ”の攻撃担当ローラ・エイル。彼女は『教会』に拾われた後、し…
『カンカンカンカンカーン』
悪魔を退治する人々、エクソシスト組織『教会』に所属する特級エクソシスト姉妹、ローラ・エイルとリサ・エイルの住む家のチャイムが鳴ったのは2003年7月24日の日暮れ頃だった。
「Here!」
待ってましたとばかりにドアが勢いよく開いて、金髪碧眼の女性が飛び出した。
「待ってたわよ!シラキ…
古蝶は黙って、だたローラの言葉を聞いていた。そして、一息の溜息を吐いた後、ゆっくりと喋り始めた。
「全く…本当にワガママが過ぎるね、ローラは。『教会』への申告義務を放棄した上に、独断行動、独断出撃の計画まで話して助っ人が欲しい?助っ人に行く翼ちゃんの予定や日本にいる家族の気持ちを少しは考えな。しかも、翼ちゃんはまだ九歳なんだよ?そ…
が、やがてローラはゆっくりと話し始めた。
『………。シラキツバサは、グリーンタウンでヤックのおっちゃん逮捕したんだよね?』
「…。」
古蝶は息を飲んだ。それがあるから、翼とローラを合わせるのは危険だと思っていた。
ヤックはグリーンタウンに異動する前は、『教会』の最前線で活躍するエクソシスト集団『クインテット』の一員だ…
『誰も彼もワタシ達には合わせられないわ。『教会』は完璧を目指し過ぎるとか、相手に合わせろとか、言うけれどそんなことしてたら悪魔に負けちゃう。』
「妥協と協調は違うけど、あんたは妥協するぐらいがちょうどいいかもね。」
『もう、コチョーまでそんなこと言って…。』
「あんたらは二人で一つの特級エクソシスト。同じ特級エクソシストじゃな…
時間は少し前に戻る。
日本在住のエクソシスト、古蝶 揚羽(こちょう あげは)がその電話を取ったのは午前二時のことだった。
「誰だい、こんな時間に非常識な…。エリークラかい?」
古蝶が寝ぼけ眼で電話に出ると若い女性の声が聞こえてきた。
『Hello、コチョー。』
「?この声はまさか…。」
『そうよ、コチョー。ワ…
2003年7月24日夕方。
悪魔によって襲撃を受けた町グリーンタウンの近くで携帯電話を手に取り会話をする一人の少女。その白い髪はとても長く、小さな体を包む羽織のようであった。
「もしもし、古蝶さん、白木 翼です。現地調査完了しました。ええ、古蝶さんもお疲れ様です。事件の大筋はこうです。―――――」
少女は電話口で調査結…
トルーゴーは、今回の戦争の話を聞いた時、チャンスだと思った。
あれ以来、人間を殺していないし喰ってもいない自分を悪魔としてどうなのかと自問自答する日々の中で、喰わない生活も苦ではないという思いが消えなかった。最初はトラウマが過ぎるために喰えないのかと思っていたが、喰おうと思えば喰えるような感じはする。しかし、どうにも進んで食べよう…
オレは声を上げることも出来ずに、その場に膝をついた。
すると急に眠気が襲ってきた。一体何日寝ていない?何日全力で殴り続けた?戦うことも逃げることも出来ない。何をしても、どうにもならない。そんなジクリと気持ち悪い感情が腹の奥から広がった。
ふと周りを見るとエクソシストが集まっていた。全員が戦闘準備を完了していて中には称号持ちの…
「危ない!逃げるんだ!」
エクソシスト共が少女に向かって叫ぶ。だが手遅れだ。オレの攻撃は一般人にはかわせないぜ。
「あ、大丈夫です。」
少女はエクソシストの方を見て、にこやかに手を振った。その瞬間にオレは渾身の一撃で少女に殴り掛かっていた。
ぶっ潰した…。そう思ったが、そんな感触はなかった。少女はオレの方を向かずに、手を…
『どうした?勇敢な戦士よ…。』
霧の悪魔は、トルーゴーのその怯えた態度をたしなめるように言った。
「霧の悪魔様!あいつは!アレは、ヤバい!アレは、正真正銘の、化け――!!!」
「待て、トルーゴー。」
ルビデがトルーゴーの言葉を遮った。
「言いたいことは分かる。あの戦いは、一部だが俺も見ていたからな。白木 翼の強さは間違…
「あと、それと今回の裏番組のことも話しておこうか。」
ルビデは少しばかり姿勢を正した。
「裏番組?」
「何の話だ?」
「諸君らはここ数年、世界各地の悪魔が仕掛けた魔術や呪いを解除したり、悪魔退治をしているエクソシストとは別の集団をご存じだろうか。チーム『ナイチンゲール』と称しているが、この中には名前を知らずとも被害に…
『では、今回の戦争の提案者であるルビデから、ルールを説明してもらおう。』
悪魔達は口々に疑問を呈する。
「ルール?」
「何のことだ?」
ルビデはマイクを手に取って説明を始めた。
「簡単に言えば二点。霧の悪魔様からの褒賞の話と仲間割れ防止の取り決めだ。これだけ大規模な悪魔が動くんだ。当然手柄の取り合いや魂の取り合いが予想…
『素晴らしい。』
熱気の籠った会場に黒い霧がうっすらと立ち込めた。
「霧の悪魔様!」
「霧の悪魔様だ!」
『諸君。よくぞ結集し、決心した。それでこそ、悪魔だ。』
ルビデの隣に霧が集まって濃くなり、目と口が現れた。九つ星悪魔である霧の悪魔は、通常は霧の状態だが自らの意志で集まり目や腕を作ることが出来る。
『思えば、…
二日後、霧の悪魔の城にて。そこには多くの悪魔が押し寄せていた。一つ星の下級悪魔から六つ星の中級悪魔まで、強さもさることながら様々な種類の悪魔が集まっていた。しかし、上級悪魔の姿はなかった。これは魔界では普通のことで、強い悪魔になるほど慎重に動くし、九つ星悪魔である霧の悪魔のバックアップがあるとはいえ、はぐれ悪魔の召集で動くのはプライドが…
大昔の話、天使と戦争があった。
壮絶な戦いだった。
負けた者達は全て魔界に墜ちた。
天使達と神が住む世界『天界』。全ての生き物が死んだ後、その魂は天国に行くか地獄に行くか。天界と天国はほぼ同じ世界である。
一方、悪魔達と魔神が住む世界『魔界』。魔界は地獄に近い世界だが、地獄とは違う。地獄にも鬼などの『生き…
プリスターが人間界に行っている間、魔界にはある話が持ち上がっていた。
「おい、聞いたか?」
魔界の一角で、三つ目の悪魔が三本角の悪魔に話しかけた。
「何をだ?」
「ルビデの奴、ついにトチ狂ったとよ。」
「あ?あのはぐれ悪魔?あいつが変なのはいつものことだろ?」
「そうじゃねえ、そうじゃねえんだよ…。」
三つ目の悪魔…
ルビデはしばらくプリスターが地団太を踏み、荒れ狂う姿をニヤニヤしながら見ていた。
「殺すう!白木 翼!絶対に殺すう!!」
「…ああ、是非とも殺してもらおうじゃないか。ただし、俺のプランに乗っかってもらうがな。」
プリスターは息を荒くしてルビデに詰め寄った。
「もちろん!小娘に舐められっぱなしじゃ、ゴスロリ悪魔の名が廃るわ!逆…
「ワタシの偽装工作は完璧よ!?なんで小娘に見破られなきゃいけないの!?」
プリスターは銀の髪を掻き毟った。
「お前がこっちに帰ってくる間にヤックの死体は発見された。その状況を電話で聞いた白木 翼は即座に断言した。盗聴した音声でも流してやろう。」
ルビデが機械のボタンを押すとノイズの入った中で少女の声が聞こえてきた。
…
荒れた大地と毒の沼、魔界の一角に一軒の家があった。
緑の屋根に庭付きの一人暮らしだと少々広いぐらいの人間の家そのもので、人間がいない魔界には似つかわしくない光景だった。その家の主は悪魔ルビデ。触角と羽根と尻尾と黒い体、いかにも悪魔らしい姿をしている五つ星悪魔のルビデは今日も悪魔らしい考えを頭の中で回していた。
今のルビデが考…
プリスターは唇に指を当て、しばらく考えていた。そして、背を向けたヤックにゆっくりとした口調で話しかけた。
「…それにしても『教会』も薄情よね。司祭ヤックといえば昔はあんなに勇敢に戦ったエクソシストだっていうのに。その功績を称えて刑を軽くしてくれてもいいものだと思うわ。『教会』の人間って献身的な性格が多いからだと思うけど、人々の命を…
悪魔を退治する専門のエクソシストの組織『教会』管理のとある地下牢獄。ここに元司祭ヤックはいた。彼はグリーンタウンでの悪魔召喚事件の首謀者として裁判にかけられる予定だった。
地下牢獄には窓がないので太陽の光も入ってこない。光と言えば壁にある蝋燭の明かりと時々巡回に来る者の持つ懐中電灯ぐらいのも。時間の感覚も分からないままヤックは裁判…
白木 翼が九歳の時、知り合いのエクソシストの古蝶(こちょう)に頼まれて、DC(ディキューブ)の黒衣(こくい)と協力し、ある小さな町を悪魔達から解放した。これは、その後の話である。
「もしもし、古蝶さん、白木 翼です。現地調査完了しました。ええ、古蝶さんもお疲れ様です。
事件の大筋はこうです。町の司祭ヤックの悪魔召喚失敗に…
さあて、魔物退治といきますかあ…。
『無傷の大天使』白木 翼(しらき つばさ)。認めよう、お前が強いことを。認めよう、お前が美しいことを。認めよう、お前が俺の一番の障害であることを。俺の生涯において最大の難関であることを。認めよう、エリークラよりも、お前の方が凶悪であることを。
だが、ついにお前の魂は地に墜ちる。お前の白い羽…
小説「正義の味方」について少々。
白龍「この作品は2010年4月6日に書きました。一日で書き上げていますね。」
パルナ「つくねーとジャスティス、いい感じだね。友達以上、恋人未満。」
白龍「実はジャスティスにはモデルがいます。ペルソナっていうゲームのベルベットルームの住人達です。世間知らずというか、ジャスティスの町中での…
しばらくして、周囲が少し騒がしいのに気が付いてあたしは我に返った。
人通りが少ないとはいえ、道の往来で抱き合っている二人組。いちゃつくなら他でやれ、バカップルに幸あれ、と、嫉妬と冷やかしと、ほんのちょっぴりの祝福の言葉を受ける前に築根は真っ赤になりながらジャスティスの手を引いて大慌てでその場を立ち去った。
「ジャスティス、次…
「それは本当ですか?」
少女は首を傾げる。傾けながらも真剣にあたしの方を向いている少女。その少女にもう一人の人が声をかける。
「翼、この人は別に困ってないって。行こう?」
姉と思しき人物が少女の手を引く。しかし、それでも少女は動かない。
「まあ事情は色々とおありでしょうが、困った時はお互い様。イオさん、予備タンクをください。…
大分と町を歩き回り、日も傾いて来た。築根は、そろそろ叔父さんの家に戻ろうか、と進路を切り替えて少ししてからのことだった。急にジャスティスの動きが鈍くなった。
「ジャスティス?」
『築…根……さ………。』
それ以降、築根の言葉にも反応せずジャスティスはその場で完全に停止してしまった。築根がどんなに揺さぶっても、やはり反応はな…
『ジャスティス・アイ!』
ジャスティスの目から出た光が道の段差を照らし出す。
『ワタシとしたことが…。これは町にはびこるバリアの一つ、DANSA(ダンサ)!通行者の行く手を阻む悪夢の遺産!かつて町に敵を寄せ付けないために造られた凶悪な罠!平和を勝ち取った今でも町に残り続ける忌むべき存在!現在は撤去作業(バリアフリー)が進んでいる…
ジャスティスと共にあたしは散歩に出かけた。紋白町内を適当に歩き回るだけなのもなんなので取り合えず駅の方へ行ってみることにした。
ジャスティスはまるで普通の人間のように滑らかに動き、二足歩行も当たり前のようにこなし、話し方も流暢だった。あたしは本当に生きている人間と一緒にいる感覚に襲われた。先ほどの目からの怪光線を見ていなかったら、…
ライトの光が消えて機械音が収まった。築根は恐る恐るジャスティスに近付いた。その時だった。
『おはようございます。』
築根は驚いた。心臓が飛び出るほど驚いた。機械の塊が流暢に話をしてお辞儀をしたのだ。
「おおお、おはよう。え~と、ジャスティスさん、でしたっけ??ああ、あたしは築根(つくね)。よ、よろしく…。」
『初めまして…
「天才と馬鹿は紙一重か…。」
「はっはっは!もっと褒めていいんだよ?」
「………で?」
「え?」
築根の疑問を投げかける声に叔父はびっくりした。
「確かに精巧だ…。驚いた。それは正直に認めるよ、叔父さん。でも、精巧なフィギュアなら他の人にも作れる。そうでしょ?」
築根はその後の説明を目で促した。言葉は冷淡だが、そ…
「おお、築根ちゃん!よく来てくれたね!」
ガレージのドアを開けた築根を叔父は怪しげなガスマスクを外して出迎えた。
「…叔父さん、そのマスクで外に出たら捕まるよ?」
「大丈夫だ。通販生活だからな。」
「そういう問題じゃないと思うけど…。」
ドヤ顔の叔父に対して、築根は呆れながら頭をかいた。
「で、今回の発明は?」
築…
ここは紋白町。都会か田舎かと言われれば都会に近いが、それでも小さな町だから人がそんなに多くないせいか、都会の喧騒というものはそう多くはない。適度に自然が残っていて、もちろんビルも家もたくさんあるのだが、どこかほっと出来る、安心出来る空間がある。紋白町は住んでいる者にとって、どこか心地のいい町なのだ。
そんな町の一角のガレージ付…
小説「薮 零士」について少々。
白龍「この小説は2013年1月4日にパソコンに打ち始めて、2月2日に終わってます。」
パルナ「約一ヶ月だね。」
白龍「四郎さんのお父さんは天才的な医者だったんです。しかし、天才であるが故に普通の人がたどり着けない場所に行き着いて、他から見れば変わった精神構造をしている。ただ、心に秘めた願いは変わ…
8人中7名、奇跡の生還
1971年12月20日、午前2時頃、主要都市間を結ぶ夜行高速バスが山岳地帯を走行中、谷底へ転落する事故が発生した。乗員・乗客は合わせて8名。死亡が確認されたのは開業医の藪 零士さん(35)で、谷底に転落したバスの中から発見された。他の乗員・乗客は重軽傷で病院に搬送されたが奇跡的にも命に別状はなかったという。…
次の瞬間だった。
バスが傾き、斜面を転がりながら谷底へ落下し始めた!バスの中で色々動いたせいで木に引っかかって止まっていたバスがバランスを崩したんだ!ヤバイ!オレは悪魔だが、三ツ星、弱い悪魔だ!バスごと谷に落っこちたら…!!!
次の瞬間、男がオレを掴んで壊れたバスの窓からオレを放り投げた。オレは外に降り積もった雪に突っ込…
…何なんだ、この男は…。
左腕一本で怪我人の体の中のガラス片を取り除いたり、傷を縫ったり、包帯巻いたり…。そして何より速い。オレが乗客を運んできたら、さっき運んだ乗客はもう治療完了してやがる。治した乗客はオレがバスの外の簡易テントへ運んで寝かせる。そしてまたバスの中の怪我人を奴のところへ運ぶ。
そうしている内にバスの中の人間…
宙を舞うカンテラが零士を克明に照らし出す。
「くっくっく。随分と無様な姿じゃないか。全身打撲に出血、複雑骨折…。もって10分といったところか…。分かりやすく言えば、お前の命は風前のともし火。このまま死を迎えることになる…。」
カンテラの言葉に零士は苦い顔をして目を伏せた。
「しかし、だ。ワタシは身なりこそ悪魔だが慈悲の心が…
雪の降る寒い夜だった。
天気予報では全国的に雪らしい。僕、薮 零士(やぶ れいじ)は学会の発表を終えて自宅に帰るため夜行バスに乗り込んだ。車内を見回すともう何人かの乗客が乗り込んでいて、それぞれの席で毛布に包まったり、お菓子を食べたり、穏やかな雰囲気だった。僕は空いていた一番後ろの席に座った。ふかふかの座席に暖房の効いた車内。寒い…
紋白町の大通りから少し横道にそれれば一気に人通りが少なくなる。その道から更なる小道に入れば、そこは昼間でも人っ子一人いないことも多い路地裏。人一人は通れるが二人になると難しい。
そんな道沿いに病院があるなどとは知らない人は誰も知らないし、偶然訪れることも滅多にないだろう。その病院の名前は薮病院。名前だけ聞けば胡散臭そうだが、知る人…