英雄再来 第十一話 ソルディエル3

ここがワタシの生きる場所。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

当時のマチネには特務隊の前身になるマチネ最強の遊撃部隊が存在した。魔法使いに対抗するための少数精鋭で、その所属隊員は全員が仮の名前で呼び合っていた。それは軍隊として個を捨てるという意味合い以上に、名前を捨てた者、名前を奪われた者、自身の本名すら知らぬ者が多かったためである。魔法使いを殺せるなら名前もいらない。全員が魔法使いに対して強い恨みと憎しみを抱えていた。
最も危険な戦地へ向かうため死傷者も多かったが、それ以上にその強過ぎる憎しみゆえに無茶な戦い方をして死ぬ者が多かった。それでも彼らが隊を成し、一定の戦果を上げる戦い方が出来ていたのは自らを最弱と称する隊長の采配の上手さゆえであった。

マチネ特攻隊隊長ジェゼナ。機械に変えた両手両足を衣服で隠し、火傷を負った顔は仮面で隠し、その奥底に灼熱の憎悪を隠す者。特攻隊では任務中に手足を失い、義手や義足になった者も少なくない。その際に義手を大砲に変えたり、剣にした者もいる。入隊当初から義手であった者もいたが、四肢を失っていてもなお特攻隊に志願したのはジェゼナだけだった。


その特攻隊にまた一人、新米の兵士が入った。特攻隊では珍しい光景ではなかった。誰かが死んで、また魔法使いに恨みを持つ誰か入隊する。『日常』の光景だった。

「全員集合!」
ジェゼナの号令で皆が集まる。全員の視線が新米兵士に注がれる。
「今日、新しい仲間が来た。紹介しよう、今日から死ぬまで皆と共に戦う仲間だ。」
そこに立っていたのは両足が義足の少女だった。普通なら戦えるのか、使いものになるのかという野次が飛びそうなものだが、ここではそんなことを言う者はいない。何故なら、両手両足が機械であっても一番の功績を上げているジェゼナが存在するからである。ここに来るということは、ジェゼナが素質か実力を認めたということであり、何であっても戦力として扱われる。

「ソルディエルです。一度死んだ身ですが、魔法使いを殺すためにやってきました。どうぞよろしくお願いします。」

その時に特攻隊の隊員達が見たソルディエルの瞳の鋭さは現在と全く同じであった。ジェゼナが付けた戦士という意味の名を持つ少女ソルディエルが特攻隊の主力で働き始めるのに、さほど時間はかからなかった。

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この記事へのコメント

2014年12月31日 23:47
前回と合わせて感想をば・・。

悪夢を見た後は、目が覚めた後でも幻覚を見る。このあたりは私も体験してきたので、リアルです。
精神病を患って以降は、悪夢でなくても、普通に過ごしながら普通に幻覚を見続けている日々。これが科学的な知識が無ければ、幽霊か妖怪かと思うことでしょう。

当初は崇高な志だったものが、いつの間にか変質している。これは歴史上、何度もありますね。
魔法使いの暴虐に反逆する、怨みと憎悪。それだけではない、百年・千年後を見据えた主体性を形成する大志として成長していた。
なのに、それが後の世代に伝わるときに、本質のブレた伝わり方をしてしまう。
「思想を齧るな」という言葉が頭に浮かびます。そこにある思想に触れるなら触れてもいいが、中途半端が危ないのだと。
理解できていない、自分は弱いと思っている人々が、実は本質を理解していて強い。逆に、早々に理解したと思い込んでいる連中は、あのような状況をもたらした。

ちなみにジェゼナが後のマチネ王だと思っていたのですが、どうやら違う様子・・・?
これから王になるのかもしれませんが、果たして。

ソルディエルの入隊は、アールとデジャビュ。
こういった光景は日常茶飯事なんですね。
あのときソルディエルの勘違いはコントめいた様相もありましたが、こうした背景を知ると、また違った感覚が湧いてきます。
2015年01月01日 15:58
>アッキーさん
最悪の夢を見た時は、目が覚めてもしばらく現実と夢の区別がつかず、先程までのことが夢であったことを実感するまで時間がかかる時がある。しかし、夢であるからまだいい。それが現実にまで及んでくることこそ真の悪夢なのかもしれません…。幽霊や妖怪に人間が立ち向かえない理由の一つは、そういうことなのかも。
マチネの思想は多種多様あり、その根底には魔法使いへの憎悪がありましたが、玉石混交の状態でした。猪突猛進な考えの者は魔法使いに返り討ちにあい、やけっぱちだったり過激な思想も魔法使いの強さゆえに淘汰されました。そして長い年月がかかって、残ったのが物理的な勝負ではなく精神的なところでの勝負になったのです。
ある種の背水の陣のような思想。しかし、意志を貫くという一点に焦点を当て研ぎ澄ました結果、機械大国マチネを形成するほどの思想に発展しました。その思想あっての機械の発展でしたが、後世では機械ありきの世界となったので、マチネの肥大化と合わさって根底の思想は置いてけぼりとなってしまいました。その結果のジュールズ蹂躙。しかし、根底の思想の奥底に流れる魔法使いへの憎悪を考えるとあの結果は起こるべくして起こったのかもしれません。負の連鎖は止めようがないのかもしれません…。
2015年01月01日 15:58
さて、特攻隊のジェゼナ隊長ですが、後のマチネ王なのかどうか。しばらく後に小説内で答えが出てきます。そして、ソルディエル入隊はどこかで見たような光景。各地で魔法使いの被害にあった人々の救助がそのまま特攻隊の人材確保に繋がっています。入れ替わりが日常茶飯事なのでいちいち書類を作ったりしないから、後世に比べてかなり大雑把な人事ですが、やってることは基本的に変わりません。アールの場合、少々ソルディエルの勘違いがありましたが、それでも一応『日常』の光景の範囲内。圧倒的な戦力差のため魔法使いに対して強い恨みがあったり戦う意思があれば戦力に引っ張る訳です。

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