英雄再来 第十一話 ソルディエル8

戦場での迷いが導くものとは。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ソルディエルは動く茂みに対して足元の石を蹴りつけた。王道具『世界一蹴』によって蹴り出された石は弾丸のような速さで茂みを直撃した。

「ひいいいぃぃいい!!」
茂みから飛び出してきたのは二人の魔法使いだった。ソルディエルが距離を詰める前に二人の魔法使いの内の一人が叫んだ。

「お願いします!殺さないでください!お願いします!」
そう言って、涙を流しながら地面に膝を折り泣き叫ぶ女性の魔法使い。茂みに隠れていたから服は薄汚れ、葉っぱがいくつもくっついていた。親子だろうか、もう一人の魔法使いは見ればまだ小さな子どもで男か女かも分からないぐらいだった。硬直して何も言葉を発しないが、目を見れば恐怖に全て支配され、動くに動けないので母親に抱き抱えられているしかないという状況だった。

「どうか!どうかこの子だけは殺さないでください!お願いします!どうか!どうか!見逃してください!お願いします!この子だけはー!!」


その一瞬に、多くのことがソルディエルの頭の中をよぎった。

魔法使いは殺さないといけない。ここで見逃すという選択肢は有り得ない。自分が魔法使いからどんな仕打ちを受けたのか。そして、逃がすということは自分達の首を締めて息の根を止める、自殺と同義の行為ある。
しかし、目の前の魔法使いはまるで無力で、あの日の自分と重なった。自身と魔法使いは違う。被害者と加害者が同じなどということはあってはならない。だが、今の目の前で起こっている状況は、まるで今の自分があの時の魔法使いと同じ立場のよう。
こんな状況は想定していなかった訳ではない。魔法使いにも家族はいる。その者と対峙した時はどうする?無抵抗の魔法使いと対峙した時はどうする?ということはジェゼナが出撃前の問答で既に何度か行っている。その時は、殺すと答えた。自分が受けた苦しみは魔法使いのせいなのに、のうのうとしている不公平を正すのだと言い切った。しかし、どんなに想定しても実際に目の前にした時に完全に迷いがないかと言われればその時にならないと分からない。
今までも似たような場面はあった。殺したと思って後で確認したら小さな子どもだったとか、懇願してくる相手を一瞬の迷いの後に恨みを原動力に殺したとか。しかし、ここまで過去の自分と似た場面、似ていると感じた場面はなかった。
ひょっとすると最近の体調不良が心にまで影響を及ぼしたのかもしれない。以前は迷わなかったことでも、二度目に同じ場面になった時に全く同じことが出来るのか。一度目を経験しているからこそ、行動が変わることもある。
正解は分かっている。魔法使いは、殺す。自分から全てを奪った魔法使いへの復讐は当然の権利で、自分以外の死んでいった者達の分まで魔法使いに因果応報しなければならない。しかし、それでも、ソルディエルは躊躇した。


その瞬間だった。
「雷(スンデル)!!」
背後から電撃が飛んで来た。

「がっ!!」
ソルディエルはその攻撃をまともに受けた。前にいる親子の魔法使いに気を取られていて、後ろから近付いてきていた別の魔法使いに気が付かなかったのだ。

「お前達、逃げろお!!」
背後から攻撃してきた魔法使いが叫んだ。その瞬間、前にいた女性の魔法使いは物凄い形相で子どもを抱えて立ち上がった。

「悪魔め!!地獄に堕ちろ!!」

ソルディエルにそう吐き捨てたと同時に女性の魔法使いは子どもを抱えたまま凄まじい速さで走り去った。

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この記事へのコメント

2015年01月07日 21:37
火剣「これは凄いテーマを突きつけられた気持ちだ」
ゴリーレッド「敵が命乞いした時にどうするか」
コング「命までは取らないが体は諦めろと犯s」
ゴリーレッド「浴びせ蹴り!」
コング「があああ!」
火剣「ジェゼナはそういう事態を想定して問答をしていた。なるほど出陣前の問答は大事だな」
ゴリーレッド「泣きながら命乞いして相手が油断した瞬間に反撃されることもある」
火剣「ソルディエルは非情に成りきれなかった。過去の自分と重ね合わせてしまうとは。優しさと強さ。どっちを選択するべきか」
コング「マチネは機械が得意なら巨大洗濯機を製造し、魔女をスッポンポンにしてそこに入れ、あーれー」
ゴリーレッド「卍固め」
コング「わかった、わかった」
火剣「目の前で命乞いされ、しかも幼い子どもだと迷うのが人間というものだ」
ゴリーレッド「しかし背中を撃たれてしまった。そして母親は感謝なんかしていなかった。きついな」
火剣「心が読めれば」
コング「僕も女子に哀願されると弱い。許してしまうな」
ゴリーレッド「ちょっと次元が違うような」

2015年01月07日 23:36
こうした状況までも想定していたんですね。難しい局面のことを、きちんと考え、曖昧にしない。それをベースにして、ようやく現場での判断が生きてくるわけですね。惨劇でありながら、学び取ることも多いです。
しかし、去り際の捨て台詞はまずかった・・・。立場を考えたとき、そう言いたくなる気持ちはわかるのですが・・・。

山田「今後のソルディエルの方向性を位置付けるだけでなく、単純に今の状況を悪化させてしまう。これでソルディエルが死ぬはずがないわけだから・・・。」
佐久間「3人ともソルディエルに殺される。」
山田「そうなってしまうな・・・。」
維澄「年末の新聞報道で、イスラムの過激派が敵軍関係者の学校を襲ったことが報じられていた。敵の家族を、どう考えるか。」
佐久間「同罪でなくても、攻撃対象にされる覚悟は義務だと言わざるをえない。その点においては、連中の主張は正しい・・・だが、女を見下しておきながら偉そうに語るなと思うがね。」
神邪「ああ、そうか。戦う相手を間違えているのに、後のマチネ兵と違う感じがするのは、そこなんですね。ジェゼナさんも、ソルディエルさんも、他者を見下す感じが全然ない。あくまで僕の感覚ですが・・・。」
佐久間「まあ、これを酷い、許せないと思う人も大勢いるだろうし、その感覚も否定されるべきものでもない。同時に、神邪が考えを変えることもない。」
2015年01月08日 23:22
>火剣獣三郎さん
世の中には正解が見えないような難しい問いがいくつもあると思います。そんな問題に出くわしたら、自分ならどうするか。それを考えることは自分自身の内面を磨くことに繋がるかも。ジェゼナは数え切れない程の想定を繰り返してきたから、今まで生き延びたともいえます。そして、それを特攻隊の他のメンバーにも伝授しようとしています。当然、ソルディエルにも。
それでも、実際には問答通りとはいかないことも多いです。想定していても足がすくんだり、情が湧いたり。しかし、その一瞬が命取りになるのが戦場。ソルディエルは非情になりきれなかった。優しさを取った結果、反撃を受けたソルディエル。そして、侵略者相手に感謝をする者はいない。心が読めれば相手の虚偽に惑わされることなどありませんが、心が読めればそもそも、この戦争も起こらず、誤解が解けていたと思うと…。
もしここで強さを取っていれば、ひょっとするとそれは人間らしい心を失うことになっていたかもしれません。ただ、その代償はかなり大きいものになるかも…。
強さか、優しさか。大きくて重いテーマですね。その優しさは甘さとは何が違うのか。その強さは正義か悪か。考え始めると夜も眠れない…。
2015年01月08日 23:24
>アッキーさん
想定したとしてもその通り動けるとは限らないけれども、想定していなければ絶対に動けない。何度も想定と実践を繰り返してこそ身に付くことも多いです。特攻隊の場合、実践で死ぬことが多いですが…。
去り際の一言。自分の命が助かったと思った瞬間など、人には本音をポロリと口走る瞬間があると思います。例えば脅されている立場の時には従うフリをして、助けが来て立場が逆転した時にはその恨みを返すということは気持ち的に当然か。
しかし、この一言はソルディエルに取って大きいですね。自分の躊躇したという行動が間違っていたということをこれが決定付けた訳ですから。ソルディエルが生き残った場合、彼女は二度と躊躇しなくなる。しかし、突然攻め込まれた魔法使いの方にそんなことを考える余裕がある訳ないし、何より自分達を殺しに来た奴相手に口汚く罵ることの何が悪いという感じですね。感情的に行動することが自分達の不利益に繋がる。しかし、もしそれを客観的に理解したとしても止めることが出来るかどうか…。
そして、これはソルディエルの回想であり、過去の話。当然、ソルディエルは生き残ります。となると必然的に導かれる未来は…。
2015年01月08日 23:24
もし、自分の家族が争いごとに加担していれば、それを知っている時点で加担していることになるのかもしれません。しかし、家族がそれを知らない場合はどうなるのか。更には、今回の襲撃の発端は魔法使いではありますが、その魔法使いとこの村の魔法使いがどの程度の関係なのか。どの程度の関係まで責任が降りかかってくるのか。そうなると、ひょっとすると自分はどこか知らぬところで恨みを買っているかもしれない、と覚悟する日々を送らなければならないのか。
ソルディエルもジェゼナも魔法使いを見下すなんてことは絶対にしない。何故なら魔法使いの方がずっと強いと思っているから。下に見た時点で負けて死ぬ。そうでなくても、必死で戦っても特攻隊の誰かが死んでいく日常。そして、仲間を見下すことも絶対にない。そんなことをすれば、結束力を欠き、即敗北に繋がる。もちろん、大量虐殺をしていることには変わりはない。あるのは悲劇…。

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