英雄再来 第十一話 ソルディエル19

醜さとは、心で決まる。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ソルディエルの突然の出産は特攻隊隊長のジェゼナの緊急連絡によってマチネの他の人間の知るところとなった。その知らせを聞いて技術部の科学者や研究者達に衝撃が走った。そして、十名近くの技術部の者達が我先にと現場に向かった。

その目的はソルディエルを助けるためではなかった。技術部には医者に近い者もいるが、治療は専門ではない。技術部の専門は『追求』である。より強い武器を作ることも、新しい兵器を考えることも、機械の性能を追求した結果でしかない。そして、技術部は魔法使いに関しても多くの研究を行っていた。
マチネでは魔法使いを毛嫌いし、死体などは焼却して、この世界に髪の毛一本であっても残さないというのが一般的だった。敵を知ることは後々の戦いを有利に進められる材料になるが、大き過ぎる恨みがそれを拒んでいた。
そのマチネにあって技術部は積極的に魔法使いを調べようとしていた。研究のために魔法使いの生体もしくは死体を欲していた。しかし、魔法使いは死体であっても仲間を呼ぶ、病気になる、呪いをかけられるといったことがまことしやかに信じられていて、魔法使いの身体を手に入れることは難しかった。その技術部に魔法使いと人間との子どもが出来たという知らせが伝わった時、彼らの知的好奇心は爆発した。

技術部の者達が霊安室に到着した時には、もうソルディエルは医務室に運ばれていて、廊下に広がった血なども片付けられた後だった。技術部の者達は落胆した。しかし、一人が霊安室を開けてみると驚くべき発見があった。特攻隊の死体しかないはずの霊安室の中に小さな子どもの死体があったのだ。
その未熟児の死体は他の特攻隊の死体と同様に下に布が敷かれてあり、丁寧な扱いを受けていることが伺えた。微かに温かさは残っているが死んでいることは間違いなかった。特に外傷がある訳でもない、典型的な死産であった。
しかし、技術部の者達にはそんなことは関係なかった。研究の材料が目の前にある、それだけで心踊った。

魔法使いの体は人間とそっくりだが、どこかに違いがあるのか。内部構造に違いはあるのか。体の中に魔法を使うための器官があるのではないのか。魔法を使うための道具があるので、そのような魔法の石が体内にあるのではないか。どこが弱点はないのか。欠点はないのか。病原体を持っているのか。呪いはあるのか。
今まで魔法使いに関して考えられてきた多くの事柄を証明出来るかもしれないまたとない機会。技術部の者達は小さな未熟児の死体の周りに集まって、ああだ、こうだと言い合っていた。

魔法使いと人間の子どもの死体を運び出すための担架や手袋などの道具を取りに行っていた技術部の者達が戻ってきて、いよいよ死体を運ぼうとしていた時、霊安室の扉が開いた。


「君達、何を騒いでいるんだ!?ここは霊安室だぞ!?」
霊安室に来たのはジェゼナだった。ソルディエルを医務室に運び、後のことを医者達に任せてきたジェゼナは、霊安室の方に何人かの技術部の者達が道具を持って行くのを見て不審に思い、やって来たのだった。

「あ、ジェゼナ隊長?」
「済みません、お騒がせしております。」
「すぐに出ていきますので。」
技術部の者達は未熟児の死体を運び出す作業を急いだ。

「待て!君達、何をしている!?その子をどうする気だ!?」
ジェゼナは技術部の者達が明らかに奇っ怪な行為をしているのに対し声を上げた。それに対し、技術部の者達は平然と、むしろ嬉々として答えた。

「何って、この実験体を技術部に運ぶんですよ。」
「魔法使いの子どもなんて滅多に手に入りませんから。」
「後は我々でやります。実験体を傷付けないようにしますんで。」
「世紀の大発見ですよ、これは!」
「ソルディエルさんはよくやってくれました。不謹慎かもしれませんが勲章ものですな。ハハハ!」
「すぐに解剖して、実験します。結果はすぐに報告しますんで。」

ジェゼナは顔面蒼白になって叫んだ。
「君達、正気か!?その子は人間だぞ!!」

「人間?何を言っているんですか?」
「聞いてますよ、ソルディエルさんのことは。」
「特攻隊にいる間、恋人はいない。魔法使いに孕まされたのは間違いないのでしょう?」
「そもそも、この死体は人間の形をしているようで色々違うじゃないですか。間違いなく魔法使いですよ。」
「このことに関しては専門家である我々に任せてください。」


技術部の者達が何だかんだと言って作業を止めない。ジェゼナは無表情になって技術部の者達の方へと近付いていった。
「?」

そして、右手で平手を作ると近くにいた技術部の者の頬を思いっきり引っぱたいた。
「ぎゃっ!!?」

ジェゼナはそのまま間髪入れず、次々と技術部の者達の頬を叩いていった。
「ぐあっ!?」
「ぎゅへっ!!」
「何をっ!?」
「ふべっ!!」
「ぐへっ!!」
「あうっ!!」
「うわっ!!」
「痛いっ!!」


全員の頬を叩いた後、ジェゼナは叫んだ。

「何が魔法使いだ!その子は人間だぞ!!ソルディエルの子どもで、人間だぞ!!今の自分達の行いを見ろ!!魔法使いよりも醜いぞ!!!」

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた

この記事へのコメント

2015年02月08日 23:47
火剣「まさか本当に闘魂注入ビンタだったとは」
コング「見よ、賢者コングーの推理力を、敬えー、敬えー」
ゴリーレッド「闘魂ビンタ!」
コング「なぜえええ!」
火剣「知的好奇心か」
ゴリーレッド「ジェゼナの言う通り、これでは悪魔と同じではないか。人の不幸を悲しみもせず、満面笑顔で好奇心を満たす」
火剣「人間の陥りやすい部分だ」
ゴリーレッド「マスコミも何か事件は起きないかなあと思ったら人として終わりだ」
火剣「カメラマンがスクープほしさに、わざと・・・って事件もあったな」
コング「ソルディエルに聞かせられないわけだ」
火剣「ジェゼナのような良識のある将がいて良かった」
ゴリーレッド「しかし部下の多くにこういう考えの者がいるのは良くない。心から過ちに気づかせないとまた同じことをしようとする」
火剣「今度は黙ってするかもよ」
コング「勲章はいくら何でも不謹慎だった。ジェゼナが怒るのも無理はない」
火剣「人間の子どもか」
コング「こういう科学研究者が将になったら、わざと女戦士を危地に追いやり、魔法使いに孕まされるように仕向けるかも」
ゴリーレッド「悪魔の発想だ」

2015年02月09日 00:50
謎の一端が明かされましたが、予想とは異なるベクトルで、えげつない真実。
特攻隊の面々は、同じ咎を背負っているという自覚から、ジェゼナ隊長のビンタを受けたのでしょうか。だとすれば何と心清き者たちか・・・。
しかし科学者連中も、一概に悪と論じれないところに、この問題の根の深さを感じます。敵を知ろうとする追求を、感情的な力で妨げられる無念が、彼らを歪ませていったのでしょうか。

佐久間「気になることは幾つかあるが、ひとつは、ソルディエルの子供は畸形か、それとも・・」
維澄「歪んだ認識が事実を歪めて見せているとしたら、恐ろしいことだね。」
八武「私は、この科学者たちを非難できないねぃ。」
神邪「僕もです。やはり自分は悪魔の側なんだと思い知りました。」
山田「非難できなくても、同類ではないと思う。」
八武「うんにゃ、知的好奇心を倫理観より重く見ている点では同じことだ。ゆえに私も、ジェゼナのビンタを甘んじて受けよう。」
佐久間「それが狙いか。」
神邪「確かに、ジェゼナさんにビンタされてみたいと、僕も考えなかったわけではありません。僕は悪い子です、叱ってください。」
八武「きっとツヲも同意してくれるだろう。」
山田「何か話がブレた気がする・・・。」
佐久間「別にブレてない。要するに、同類でない理由は、死根也や神邪は自分をきちんと悪党だと理解しているが、この科学者連中は自分たちを正義だと思っているところにあるんだな。」
山田「こんな行いをして、そう思っているのか。」
佐久間「そういう人間は多い。“人間性”には2種類ある。平和の為に武器を捨てるのも人間性なら、平和の為と称して残虐になるのも人間性だ。」
2015年02月09日 20:27
>火剣獣三郎さん
という訳で、アウトマの頬の怪我の理由はこれです。これではジェゼナがビンタをするのも無理のないこと。知的好奇心を満たすために人として大切なものを技術部の者達は忘れてしまっています。しかし、一方で人間として陥りやすい事柄でもあります。魔法使いの研究は、魔法使いを相手に戦うマチネにとって有益であることは間違いない。しかし、そのことを優先するあまり、大切なことを忘れては本末転倒。なぜ魔法使いと戦うことになったのかを考えれば、人の命や尊厳、倫理観を軽んじるべきではないことは明らか。
マスコミが人の不幸をネタに欲するのと、警察官が事件を欲するのはどちらも不謹慎。消防士が活躍の場が欲しいと自分で放火し、自分で消火という事件もあった気がします。
ソルディエルが気絶している間にこんなやり取りがあったなどとは、到底聞かせられない。ジェゼナは特攻隊隊長として、また人間として良識のある人で本当に良かった。ただ、問題は技術部の者達が心から反省しないと意味がないということですね。この者達を真に反省させることは出来るのか。
技術部の人間は研究職なので表立ったりすることは多分ないとは思いますが、将になったらかなり危険だと思います。将の器ではない者が、その場所に立つことだけは避けなければなりません。それはとんでもない悲劇をもたらすのですから。
2015年02月09日 20:27
>アッキーさん
これでアウトマの頬の怪我の理由が明かされましたが、特攻隊の面々に関してはまだ明かされていない。そっちの方は別の時に語るとして、産まれてすぐに死んだ赤ん坊を嬉々として解剖しようとする技術部の面々というえげつない真実が明かされました。
実の話、技術部は概ね人間の道を外れても魔法使いを倒せるのならそれでいいと考えている者が多いです。そして、特攻隊にもそういう考えの者は結構います。一方、ジェゼナは魔法使いに唯一勝てるものは心の強さであるという考えで、あくまでも人間の道を外さず人間の力で魔法使いに勝とうとしています。どちらかと言えばジェゼナは少数派です。
基本的には魔法使いを倒すことには協力的な技術部ですが、実際の戦闘を行っている特攻隊とマチネに篭って実験と開発を繰り返している技術部の間には温度差や感情の隔たり、考え方や物の見方に大きな違いが出ています。その辺りの環境も彼らが歪む要因になったのかもしれません。
ソルディエルの子どもは未熟児なので、畸形と捉えられる可能性もあり。しかし、その点を考慮すれば通常の人の範囲内。技術部の者達は魔法使いだと決め付けてかかっているので真実が歪んで見えております。
2015年02月09日 20:28
ツヲ「確かにジェゼナちゃんのビンタは受けておきたいね。」(キリッ
白龍「カッコつけてもカッコ悪いですよ。」
ツヲ「僕も悪い奴には違いないから叱ってもらおう。」
白龍「ツヲさんは悪い人か、どうか…?うーん…。」
ツヲ「少なくとも天国には行けない。その時点で極悪人だよね。」
白龍「それは少々極端だとは思いますが。」
ツヲ「で、この男共は自分達を正義だと思っているのかい?」
白龍「そうですね。自分達の魔法使いを研究するという行いが、マチネのためになると信じています。もちろん、その中には個人的な知的好奇心を満たす側面もありますが、それだけではないです。ただ、感覚が普通の人間よりも麻痺したり変になっていると思います。色々、危ない実験とかしてますし、王道具の製造も彼らが行っているので。」

この記事へのトラックバック