英雄再来 第十一話 ソルディエル32

皆にありがとうと伝えたい。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ジェゼナは少したどたどしい手つきで上半身の服を脱いで肌を見せた。女性特有の柔肌はほとんどなく、火傷の跡が広がっていた。
だが、大火傷に関しては特攻隊の者ならば誰でも知っている話である。魔法使いに襲われた時、両手両足以外を失う他に全身に大火傷を負った。現在、仮面をかぶっているのは顔の火傷を隠すため。
特攻隊にいる者ならば、誰でも知っている話である。問題は、その火傷の跡のそれなりの程度の部分が金属のようなものに変わっていることだった。

『王道具使いの中で、唯一ボクだけに現れている症状だ。ボクの体のほとんどは金属に変わっていて、近々見た目が人の形をした物言わぬ金属の塊になるそうだ。大博士に言わせればこうして意識が戻ったこと自体が奇跡らしい。これがボクの王道具『侵食統一(ジェゼナ・グルード)』の固有の能力の結果なのか、両手両足を王道具に変えた結果なのかは分からない。元々、王道具は体に埋め込めば欠損部分を補うように血が通い、成長し、あるべき腕や足になってくれる。普通はそこで成長が止まる。でも、ボクの場合は欠損部分が多かったみたいだ。王道具の成長…この場合は侵食というべきだろうか。ボクの体はもうほとんどが金属なんだ。』

ジェゼナはそこまで言って服を着直した。特攻隊の誰もが言葉を発することが出来なかった。

『それでも、ボクは感謝している。この体に、この王道具に。何故なら王道具『侵食統一』があったから、君達と共に戦えた。』

ジェゼナは右手を強く握った。

『君達に感謝している。今までボクと共に戦ってくれたこと。同じ夢を見て、同じ志を掲げて、同じ道を歩んでくれたこと。ありがとう、そう言わずにはいられない。ボクについてきてくれてありがとう。ボクの考えについてきてくれてありがとう。ボクと共に戦ってくれてありがとう。今も、ボクの身のことを案じてくれていてありがとう。今、こうして、この同じ時間を過ごせていること、ここに集まってくれたこともありがたいことだ…。』

言葉を紡ぎながらジェゼナの頬から涙が滴っていた。

『今後、特攻隊はボクなしで活動していかなければならない。現在の班を一つの部隊として、そのまま軍部の一部隊として活動することになるだろう。新しい職場ということで最初は慣れないことも多いだろう。それでも、君達ならすぐに慣れて目的達成のための活動に邁進しているんだろう…。ヴィーセ君、シン君。』

「は、はいっ!」
「はいっ!」

『全てを斬り裂く切っ先と全てを見通す眼光が揃えば斬り開けない道などない。近距離班の皆を率いて未来を斬り開いてくれ。』

「「はいっ!」」

『イルル君、クリメ君。』

「おうっ!」
「はい。」

『激情の炎と冷静の氷が揃えばどんな状況でも必ず突破出来る。遠距離班の皆を率いてあらゆる障害を薙ぎ払ってくれ。』

「おうよっ!」
「はい!」

『ソルディエル君、エクス君。』

「はいっ!」
「はいっ!」

『魔法使いが手を奪おうと足を奪おうと君達は屈しなかった。王道具はそれを示す象徴的存在だ。王道具班の皆を率いて希望の光を灯し続けてくれ。』

「「はいっ!!」」


『それから…。』
ジェゼナの体が揺ら揺らとし始めた。激しい睡魔がジェゼナを襲っていた。
(『まだだ…。まだ、話しておきたいことがたくさんあるんだ…!このまま眠ってしまえば永遠に話す機会を失う…!もう少し…!あと少し…!あと少しだけ…!』)

『ボクはこのまま物言わぬ金属になるけれども、王道具『侵食統一』の能力は残る…!他のものに活力と動力を与える能力だけは残り続ける…!これでもってマチネ中に動力を送り続け、機械を動かし、工場を回し、武器や兵器を作り続けられる…!ボクはもう君達に何も出来ないけれども、残すことは出来る…!頼む…!マチネを!この世界を!平和を!この世界に神様などいない!ボク達のための神様はいない!いるのは魔法使いのためだけの神様だ!神様は欲しいものは絶対に与えない!そんな神にはもう頼らない!ボク達が頼るべきは人間!同じ人間だ!機械を生み出したのも人間!兵器を生み出したのも人間!頼るべきは機械であり、兵器であり、神様などでは決してない!そして、機械や兵器を生み出した人間の意志こそ一番頼るべき、一番強い武器だ!誰もが持っている武器だ!全てを奪われても唯一、魔法使いが奪えない武器だ!全てを失っても戦う意志だけは奪えない!奪わせてはいけない!その意志を持ち続けることが魔法使いに勝つために一番必要なものだ!どんな状況でも諦めずに意志を持ち続ければ状況は必ず変わる!魔法使いと我々の間に歴然とした実力差があるにも関わらず今日まで我々が生き残り、戦い続けることが出来たのは意志の力に他ならない!その意志を貫き通し、魔法使いとその神が決めた未来が変わった時、それを奇跡と呼ぶ!人間の意志は奇跡を呼び、未来を変える!!もし、もう一度奇跡を起こせるのならボクは何年かかろうとも必ず目覚めてみせる…!その時、まだ世界に平和が訪れていなければもう一度、共に戦おう…!ボクは…!ボクの意志は…!君達と…!!!』

「隊長っ!」
「ジェゼナ隊長!!」
「隊長ー!!」
「隊長っ!!」
「隊長!」
「隊長!!!」

そこまで言ってジェゼナは眠るように倒れた。そして数年間、一切目を覚ますことはなかった。その間にマチネはジュールズと何度も戦争を行うことになる。

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この記事へのコメント

2015年04月04日 21:16
ゴリーレッド「ジェゼナ。やはり寿命だったか」
火剣「意志の力か」
ゴリーレッド「ジェゼナを目の上のたんこぶと思っていた人間もいると思うと厄介だ」
火剣「マチネは団結しているとは言えない」
ゴリーレッド「その指導者を全員が尊敬しているというのが理想的な組織だが、ジェゼナの厳しい態度に反発している者もいる」
火剣「そうなると、ジェゼナが永遠の眠りに落ちたと聞けば」
ゴリーレッド「孔明が重い病と知り、ひたすら孔明の死を待ち、孔明が死んだら威張り出した反逆者もいる」
火剣「魏延だ」
コング「待ちねえ、マチネー。不真面目な話ばかりで入り込めないではないか」
ゴリーレッド「真面目な話しかしていない」
コング「ジェゼナがいなくなったことで、俄然ソルディエルがリーダーシップを発揮するわけか」
ゴリーレッド「真面目な話ができるではないか」
コング「新しい時代が来る」
火剣「でも機械信仰も気になる。かなり傾倒している」
ゴリーレッド「ジェゼナがいなくなることで、ますますそこの部分が悪いほうへ進む危険性も考えられる」
コング「可能性」
ゴリーレッド「危険性でいいんだ」

2015年04月04日 23:58
ジェゼナとしては、話しておきたいことの100分の1にも満たなかったことでしょう。
たとえ全てを話せたとしても、全てを伝えられているとは限らない。何度でも繰り返し話さねばならない。しかし、長い眠りに落ちてしまった。
ここからマチネの歪みは加速するのだと思うと、やるせない気持ちになります。
特攻隊の全員を集めたというのは、逆に言えば、それ以外のメンバーを集めなかったということ。それ以外のメンバーには、短い時間で意識を変えることは出来ない。メンバーを峻別せざるを得なかった時点で、ジェゼナは大きな無念を感じていたんですね。
2015年04月05日 09:10
>火剣獣三郎さん
人間としての寿命を全うしたジェゼナ。体は機械になってしまいましたが、いつか目覚める日が来るのか。最後に人間の意志の力を皆に託した。一方で、人の心は分からないもの。誰もがジェゼナの考え方に賛成している訳ではないし、逆に疎ましく思っている者もいるかも知れません。特攻隊も、軍部も、技術部も、マチネ全体も決して一枚岩ではない。反旗を翻すのは誰…?
マチネには解決しなければならない問題が山積しています。機械信仰もその一つ。ジェゼナが伝えたことをそのまま受け取れば人の意志を無視した機械信仰には走らないのですが…。否応なく訪れる新しい時代。どのような時代が来るのか、それはその時代に生きる者達が作り上げるでしょう。
2015年04月05日 10:58
>アッキーさん
今までもずっと対話を繰り返し、たくさんのことを話してきた。それでも話す内容は尽きない。思っていることの100分の1だけ話せて、その内で相手に伝わるのはどれだけかと考えれば、更に少ない。そして時間切れ。ここでジェゼナは肉体的な意味で、人間としての寿命が尽きてしまいました。これから先、機械として仮面の者として復活するのにはまだ時間がかかります。それでも時間は待ってくれない。戦力の整ったマチネはジュールズへの戦争を開始。戦争ほど人の心が歪む出来事もないでしょう。ジェゼナが目指した理想もまた戦争の渦の中に飲み込まれていくのです。本来ならジェゼナはマチネの者、全員に気持ちを届けたかったでしょう。しかし、数という壁がそれを阻む。こっちの世界で考えると、もし70億人全員と一人ずつ一秒だけ話したら、合計で225年。時間の壁はジェゼナにとって大きかった。

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