英雄再来 第十三話 魔王12

憎しみは消えない。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

『グアアアアアア!!!』
炎の中から叫び声が上がる。暴れ、悶える黒い影が見える。炎の中で大魔法使いがのたうち回っているのだ。そのまま大魔法使いは炎に焼き尽くされるかと思われた。だが次の瞬間、天空から巨大な風の柱が降ってきた。その風圧は炎を全て押さえ込んで鎮火させた。

「「「!!!!!」」」

『この程度で…!この程度で勝ったつもりかアアア!!!』

風が収まった代わりに、先ほどよりも身にまとう黒いヘドロのような鎧が増えた大魔法使いが姿を現した。飛び出た腸の部分も黒い鎧で閉じられていて傷口がどうなっているのかは分からなかった。

『流石に魔道具を使うだけのことはある…!だが、貴様らに殺された魔法使い達の恨み、憎しみを討ち滅ぼせると思うなアアアア!!!』

炎の海から生還した大魔法使いを見て、オウ、ユウ、ティイは冷や汗を流していた。オウの捨て身の攻撃、ユウとティイの最大連携攻撃でも殺せなかった。
オウの王道具『大聖砲管(キアノン)』は大破していて、それは両手を失ったことと等しい。つまり現在、戦えるのはユウとティイのみ。しかし、溶解液を弾き返し、砲撃にも炎にも耐える大魔法使い相手にどう戦えばいいのか。
だが、三人に退くという選択肢はなかった。既にマチネ本国でも戦いは繰り広げられている。退けばこの魔法使いを他の魔法使いと合流させることになる。そうなれば万に一つも勝ち目がなくなる。
逆にここで時間を稼げば、それだけでマチネ本国で魔法使いと戦っている特務隊隊長ソルディエルに加勢することになる。それに、この場には副隊長や他の班長も向かっている。三人は目配せをし合った。そして、戦いの方針を「大魔法使いを倒す」から「時間を稼ぐ」に変更した。その方針に決めてすぐに三人は大魔法使いの周囲に散って距離を取った。



『また性懲りもなく三方向か…!』
大魔法使いはグルリと周囲を見回すと今度はユウに向かって突撃を開始した。
『先ほどと同じ戦法が通じると思うなアアア!!』

大魔法使いは黒く鋭い爪でユウに襲い掛かる。しかし、この攻撃も単調であった。ユウは先ほどオウが攻撃を交わしたのと同じように大魔法使いの攻撃を交わした。
このまま攻撃を交わし続けて仲間が駆け付けるまで時間を稼ごうとユウが思った瞬間、背後から声がした。

『キャハ!』
それは風精霊であった。オウやティイが引きつけているはずの風精霊であった。瞬間、ユウの目にはオウとティイを足止めしている風精霊と背後にいる風精霊の二体が映った。
(しまった…!精霊は何体も召喚可能…!)
風精霊の巨大化した両手がユウを拘束する。
「あああああ!!」
風精霊に触れられたところが風の刃で削られる。特攻隊員の光里が風精霊に突っ込んでバラバラになったように、生身の人間が風精霊に触られるというのは削岩機に触れられるのに等しかった。

そして、目の前には大魔法使いが迫っていた。
『死ねえエエエエ!!害虫がアアアア!!!』
その巨大な黒い爪は容赦なく振り下ろされ、ユウを引き裂いた。

「ぐああああああ!!!」
ユウは風精霊と共に大魔法使いの黒い爪に切り裂かれ、大地に自らの血が飛び散った。だが、咄嗟に右手の王道具『灼熱業火(ヤマヤキ)』を防御に回したので致命傷は避けられた。風精霊も今の攻撃で離れたが、それでも体は風の刃によってズタボロにされ、そこらかしこからから血が流れていた。

『死んでしまえエエエエエ!!』
止めを刺そうと大魔法使いがもう一度、鋭い爪を振り上げた。それが振り下ろされればユウの首が切り裂かれることは間違いない。もう、防御する王道具も砕けていて、仲間のオウもティイも風精霊に足止めされている。ユウは自らの死を覚悟した。





その瞬間だった。
『グアアア!!!?』
大魔法使いに太く大きな鋼の針が突き刺さった。同時にユウは抱き抱えられ、その場から運び出されていた。


「大分とやられたな。だが、よくぞ持ちこたえてくれた。」
「キュウ…!?」
ユウを抱えて走っているのは特務隊急班班長のキュウだった。

(じゃ、じゃあ…!)
ユウは抱き抱えられながら後ろをチラリと見るとそこには大魔法使いと向かい合う特務隊蜂班班長のビィの姿があった。
(やっぱり、さっきの魔法使いへの攻撃はビィの王道具『一撃必殺(ハチサシ)』!)

そして、キュウは少し離れたところまで運ばれた。そこにも一人の仲間がいた。
「動かないで、すぐに治療するわ!」
特務隊の治療担当、愛班班長のアイがユウの全身に素早く包帯を巻き始めた。
「キュウ!次はオウも連れてきて!」
「了解。」
キュウはユウを降ろすとすぐにオウの方に向かって走り出した。



特務隊のビィ、キュウ、アイが駆け付けた!



キュウは最初にオネと戦った特務隊である。オネの圧倒的な力の前に王道具である足を斬り落とされたが、特務隊のビィと隊長のソルディエルの援護でその場から離脱出来た。その後、斬られた足を持ってビィと共にアイと合流した。アイは特務隊の中で数少ない治療系王道具『聖母見参(マンサナ)』の使い手であり、応急処置ではあったがキュウは自らの足を繋ぎ戻してもらったのだった。そして、ソルディエルの連絡を聞いてすぐに第二の魔法使いが出たという方向に向かっていたのだ。



「よくも…!よくも仲間達を…!!死ぬ覚悟は出来ているんだろうな!化け物があああ!!」
ビィは右手の王道具『一撃必殺(ハチサシ)』を構えた。それに対し、黒い鎧に包まれた大魔法使いも叫ぶ。
『仲間を殺したのは貴様らの方だろうがアアアアア!!!害虫が言うに事欠いてほざきよるわアアアアアア!!!』

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ガッツ(がんばれ!)

この記事へのコメント

2015年05月21日 00:42
えええええ!? これは死んだと思っていたら、パワーアップして・・・!
増援の攻撃も、まるで効いてない様子。効いてないはずはないのですが・・・?

維澄「佐久間と山田の感覚が正しかったか。」
八武「しぶといというより、異常だねぃ。」
佐久間「どことなく親近感。」
山田「お前は何を言ってるんだ。・・・俺も思ったけどさ。」
神邪「ふと思ったんですが、大魔法使いが死に瀕するほど、魔物が目覚めるということはないですかね?」
佐久間「大魔法使いの肉体を触媒にして、この世に具現化する説か。」
山田「なるほどな。そういう意味でもゼロ・・・アールは特殊な位置にいるわけだ。」
維澄「未だ謎が多いね。暗中だ。」
2015年05月21日 18:30
ゴリーレッド「時間を稼ぐか」
賢吾「その戦略は果たして」
ゴリーレッド「しまった! 風精霊にユウが拘束された」
コング「よし!」
ゴリーレッド「今よしって言わなかったか?」
コング「言ってません」
賢吾「まさかの切り裂き?」
コング「うにょ・・・KOROSUのは待とう、かわいそう過ぎる。KOROSUよりもOKASE」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「NO!」
賢吾「ユウは何とか交わしたか。冷汗もんや」
コング「これでユウも丸腰か。戦う正義のヒロインは丸腰でないと」
ゴリーレッド「黙れ不謹慎男」
賢吾「助っ人が来たか。時間稼ぎ作戦は正しい判断やった」
ゴリーレッド「戦場の極限状態でこの冷静な判断ができるのは日頃の訓練の賜物か」
賢吾「仲間達をよくもという感情はお互いか」
コング「風精霊が拘束して攻撃する作戦は合っている。次は下から、つまり股から切り上げるほうがエキサイティングだ・・・冗談冗談!」
ゴリーレッド「ブレーンバスター!」
コング「脳天!」
2015年05月24日 21:44
>アッキーさん
死んだと思ったら生きていた!炎に包まれた風の国から生還しただけのことはあるということでしょうか。しかし、いくら魔法使いといえども結局は人間。しぶといというよりも異常という言葉がぴったりですね。特務隊の面々は魔法使い=化け物なので、これを「異常」とは思っていませんが。
大魔法使いの面々はそれぞれが封印の要を担っていました。なので、死なない限りは封印は解けないけれども、死に近付けば近付くほど封印は弱くなります。もし、大魔法使いの死によって復活していくチュルーリ一家ですが、ゼロだけは誰かの死で復活した訳ではなさそうです。強いて言えばある一定数の人間が死んだことで封印が解けたといったところでしょうか。未だにこの世界の謎は深い。我々が自分達の住む世界の全容とそれを司っている理を全て把握出来ていないのに似ているかもしれません。
2015年05月24日 21:44
>コングさん
時間を稼ぐ戦略は正しかった。危ない場面もありましたが、ギリギリで救援が到着!服もズタボロで結構あられもない姿になってしまったユウですが、戦闘中なので気にしている余裕は本人にはないでしょう。どうにか風精霊の拘束からも逃れましたが、王道具を失って戦う手段がなくなってしまった。ここからは増援のビィと選手交代で戦闘が続きます。
「大魔法使いを倒す」から「時間を稼ぐ」への方針転換は本当に見事でした。もし、仲間を殺されたことへの恨みで頭が一杯になっていて冷静な判断が出来なかったら今頃は全滅していたかもしれません。心は熱く、しかし頭は冷静に。歴戦の強者達である特務隊班長ならではの判断でした。
魔法使いもマチネも互いに仲間を想い、互いに相手が一方的に悪いと思っている。今現在、真実を知っても引き返せないところまで来てしまったのかもしれませんが、すれ違いは解消されないまま憎しみの連鎖は続く…。

この記事へのトラックバック