英雄再来 第十三話 魔王14

誰が王に相応しいか。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

暗い…。
ここはどこだ…。
どうして暗闇だけが続くんだ…。
おかしい…。体に力が入らない…。
そうだ、わたしは害虫退治をしていたんだ…。
この世界に巣食う害虫を退治して魔法使いの仇を討つ途中で…。
どうなった…?あの戦いの結末はどうなった…?わたしはどうなってしまったんだ…?



暗闇の中、一人であったペリドット。その視線の先に微かに光が灯った。そして、そこには四つの人影が見えた。その影の内、一番左の影が動き出した。

『「僕達は生きる!生きるために戦う!戦わなければ生き残れないなら、戦うしかないんだ!」』
ペリドットはその幼さの残る少年の声に聞き覚えがあった。そして、影の背丈の小ささ、細さから、背中だけであっても同じジュールズの仲間の雷の国の大魔法使いを瞬時に連想した。
(トル!?トル君なのか!?生きていてくれたのか!?)
ペリドットは声をかけようとしたが、喉は潰れていて風の通るような音しか出なかった。そして、近付こうと走っても一向に距離が縮まらなかった。

『「僕達が戦い続ければ、いずれペリドットさんが救援に駆け付けてくれる!戦闘を開始します!!」』
人影は後ろを向くことなく、そう言い残して闇の中に消えていった。
(待ってくれ!トル!トル君!トール!!)
そして闇の先で巨大な火柱が立ち上がる。ペリドットが風の国の上空から見た光景と酷似していた。ジュールズの国々の全てから炎と黒煙が立ち上る、あの悲惨な光景と。ペリドットはあまりのことに心が凍り付き、叫ぶことすら出来なかった。



今度は先程動き出した一番左の影の隣の影が動き出した。

『「炎の国を滅茶苦茶にしやがったマチネの外道共を一匹残らず斬り殺す!」』
ペリドットはその声も聞き覚えがあった。女性であって凛とした強い声。スラリと高い身長に、手に持っているのは長い剣。後ろ姿からでもペリドットは炎の大魔法使いを想像した。
(ガーネット!?ガーネットなのか!?ガーネットー!!)
ペリドットがどれだけ呼びかけても、その人影には届いていないようだった。

『「もし、わたしが志半ばで果てたとしてもペリドットが必ず仇を討ってくれる!出撃だ!!」』
その人影の背中が小さくなり闇の中へ消えていく。
(ガーネット!待ってくれ!わたし一人では…!)
その影も闇の中に消えていく。そして、闇の先で巨大な火柱が立ち上る。ペリドットは自分の心の焼け焦げる臭いを感じた。



次に残った人影の内、左側の影が動き出した。

『「マチネ軍が来てしまったというのなら迎え撃ちましょう!」』
気丈に振舞ってはいるが若干幼さの残る女性の声。手に持っているのは巨大な槍。若くして水の国の大魔法使いとなった彼女の顔が頭に浮かぶ。トル・マリンの姉の姿が頭に浮かぶ。
(アクア!アクア君なのか!?)

『「決死の覚悟で戦えば、わたし達に勝機が必ず訪れます!そして必ずペリドットさんが来てくれます!迎撃開始!!」』
そして、その人影も闇の中に消えていく。
(駄目だ!アクア君!行っては駄目だ!アクアー!)
どれだけペリドットが叫んでもその声が届いている気配はなかった。ただ風が吹き抜けて、闇の奥で火柱が立ち上る。ペリドットは自分の涙がもう枯れ果てているのに気が付いた。



そして、最後に残った人影も動き出す。

『「皆さんは必ず助けます!すぐに治療の準備を!」』
優しげで、普段なら聞くだけで癒される声が響く。後ろからでも裾の広い服を着ているのが分かる。彼女が祈りを捧げる時のいつもの服装。土の大魔法使いは毎日欠かさず皆の幸せを祈っていた。
(ムーンストーン!?ムーンストーンなのか!?)

『「いずれペリドットさんが必ず駆け付けてくれます!それまで土の国は持ちこたえなければなりません!」』
その人影は覚悟の篭った言葉を残して闇の中へ消えていく。
(待ってくれ!ムーンストーン!その先に行ってはいけない!その先には――――――!!!)
ペリドットが潰れた喉でどれだけ叫んでも彼女の歩みは止まらない。そして、闇の奥で巨大な火柱が立ち上った。



「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


ペリドットは叫んだ。怒り狂ったように、悲しみを吐き出すように。そうしなければ本当に心が潰れてしまうと本能が叫ばせた。全てを失う悲しみを受け止めきれない分、ペリドットは叫んだ。闇の中でただ一人、ひたすら叫び続けた。










どれぐらい時間が経っただろう。ペリドットが事件も忘れ叫び続け、声が枯れ果てて、静寂が辺りを支配し始めた時、闇の中から声が聞こえてきた。
『「ペリドットさん、あなたには王になって欲しい…。」』
『「ペリドット、全ての魔法使いを導く王になれ。」』
『「魔法使いの王になってわたし達の仇を討って…。」』
『「ペリドットさん、王になって皆が幸せになるために退治しなければならないものを打ち倒して。」』



『『『『ペリドット、魔法使いの王、魔王になってこの世界を救って。』』』』



ペリドットは誰かに背中を支えられている感触を確かに感じた。そして、ペリドットはゆっくりと立ち上がるとフラフラとした足取りで闇の中に消えていった。









魔法とは何か。
それは世界を平和に導くための力である。
神がこの世界をより良き方向に導くために人間に与えた力が魔法である。
魔法使いは神から選ばれた人間なのだ。
魔法使いはこの世界をより良くする責任がある。
それを怠ったツケがこの結末である。
我々魔法使いはもっと真剣に世界平和を希求するべきだった。それが例え、人間の姿をした者達を殺すことになろうとも。
我々魔法使いはもっと真剣に非魔法使いを研究するべきだった。そうすればあれらが人間の姿をしていても人間の心を持たない世界の害虫だと早くに気が付けただろうに。
魔法という力ある者達には責任がある。この力を正しく使う責任がある。それを開祖カトレーアは捻じ曲げた。使うべき力を使わないようにと、間違った道を示した。
魔法使いの間違いは同じ魔法使いが正さなければならない。わたしが正さなければならない。
わたしの持ち得る魔法の力を全て使い、世界を正しい方向へと導く。

たった今から、わたしが魔王だ。

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この記事へのコメント

2015年05月26日 15:19
コング「ベリドットは夢を見ているのか。トル、ガーネット、アクア、ムーンストーン」
火剣「叫ばなければ心が潰れる」
コング「よくわかる。女の子がアノトキ、『あああん! あああん!』と叫んでしまうのは、叫ばないとおかしくなりそうだかららしい」
ゴリーレッド「いらない情報だ」
コング「じゃあ、いる情報。ネットで『小島瑠璃子ノーパン始球式』と見て、何! と即クリック。すると、ノーパンではなく『ノーバン』。NOバウンドという意味だった」
ゴリーレッド「で?」
コング「魔法使いベリドットも間違っている」
ゴリーレッド「ほう」
コング「人間は害虫。そこから思考停止してそれ以外の評価は聞く耳を持たないとなってしまったら最後、殺戮しかない」
火剣「山羊と狼のようにはいかないか」
ゴリーレッド「あらしのよるに、か」
コング「ここまで争ったら無理だ」
火剣「悲しい」
2015年05月27日 23:56
互いに自分たちを人間と称し、相手を人間でないと考える。これがカトレーアの恐れていたことなんですね。
夢が単なる走馬灯めいたものではない、物的な力の暗示だとすれば、今のペリドットは大魔法使い5人分の力があるということでしょうか。

山田「平和の希求を怠っていたというのは、そうかもしれない。だが、その後からが間違っている。」
維澄「そんな結論しか出てこないようなら、およそ研究などという言葉は空文句でしかない。真剣に研究していれば、全く逆の結論が出てきただろうし、あの黒い魔法使いの存在も明らかになっていただろうね。」
神邪「しかし僕には、どことなく共感する部分もあるんですよ。もっと早く、相手を“話の通じないゴミ”だと理解するべきだった。人間として接し続けた結果が、一方的に傷つけられて、その傷が膿んで、今も苦しみ続けている。」
佐久間「まあ、個人と集団では違うけどな・・。しかし同じ部分もあるのは確か。」
山田「ジェゼナやソルディエルたちは人間だが、大虐殺やらかして軽々しく暴言を吐いていた奴らは、害虫だな。」
神邪「僕の思う平和とは、加害者が許される社会ではないんです。今でも僕の精神を蝕み続けている、害虫と言うことさえ生温いようなゴミどもが、処分されなければ、とても平和とは思えない。ペリドットさんは、まだまだ全然まともですよ。“害虫駆除”なんて、心優しい人の物言いです。“ゴミ処理”、それが僕の感覚ですから。」
八武「ということは、どこかでペリドットは、自らの論理が破綻していることを感じているのかもしれないねぃ。」
神邪「なるほど。無意識にですか。」
佐久間「魔王ペリドットか。オネに目をつけられないはずはない。どうなるかな。むしろ神邪は、オネの気持ちの方がわかるんじゃないか?」
神邪「言われてみれば・・・。」
2015年06月07日 19:28
>火剣獣三郎さん
トルもガーネットもアクアもムーンストーンも死んだはずの人々がいるこの光景は夢か悪夢か幻か。大切な仲間達が死ぬ場面をもう一度、夢の中で見せられるペリドット。心をギリギリで保つためには叫ばずにはいられなかったようです。
現在のペリドットは思考停止、もしくは思考の迷宮で同じところを回っているのかもしれません。マチネの人々を害虫だと思い込んだから、そこから派生する思考はどんな形であっても最終的に殺戮へと繋がる。なぜなら、害虫を殺すことに躊躇する必要はないから。そして、マチネの人々が害虫であると決めた前提が間違っていることを疑うことが出来ない。それを疑い、マチネにも『人間』がいると考えることが出来ないほど深く争い、深く傷つけ合ってしまった。もう誤解を解く機会すら訪れはしないと思うと、悲しいです。
とある狼と山羊のように本来は争う種族同士であっても分かり合い、共に生きてゆくことが出来る、そんな未来もあったかもしれません。一体どこでボタンの掛け違いがあったのか。
2015年06月07日 19:28
>アッキーさん
魔法を使える者と使えない者、どちらも人間ではありますが、出来ることと出来ないことの差が非常に大きい。それこそ種族が違うほどの差になる時がある。それを差と感じず、心に壁を作らず互いに接することが出来る者は多くはないでしょう。魔法がなくとも他人との差を見つけて人間同士で争い合う歴史がこの世界にはあったのですから。カトレーアは魔法を使えない幼少期を過ごしてから魔法が使えるようになったので、最初から魔法が使える者が魔法を使えない者の心を理解出来ない側面も理解出来た。そして、生粋の魔法使いが当たり前と思っていることや感覚が魔法を使えない者と大きく隔たっていることも分かっていました。カトレーアの時代では強い魔法使いが他の魔法使いや魔法の使えない人間を従えるのが当たり前の時代です。その力の集中が結果としてアルドンパカ召喚の温床になったと考え、魔法使いとそうでない者の平等を実現しようと筒姫と共に色々と奔走したようです。最終的にチュルーリの体内から出てきた五つの宝玉を封印し、魔物の影に怯える必要もなく、国同士が争うこともない平和な世界を実現したはずでした…。しかし、千年近くの時が流れ、世界は魔法使いとそうでない者が真っ向から争う状況になってしまった…。
2015年06月07日 19:29
封印された魔物達は次々と解き放たれ、ついには魔法使いの中から魔王が現れる始末。ジュールズがマチネの存在にもっと早く気が付いていれば例の魔法使いにも辿り着いたのでしょうが、マチネは魔法使いを恐れ、ひたすら自分達の存在を隠しながら力を蓄えていました。ジュールズからすれば突然、中央の土地に巨大な国家が登場し、それがいわれのないことで自分達に牙を剥くのだから研究も何もなかった。気が付けば戦う以外に道がなくなっていました。
オネはペリドットの出現に気が付いていますが、現在はソルディエルと交戦中。ソルディエルとの戦いの後、こちらに向かってくるかもしれません。その時にはこの戦いにも決着が付いているのか。

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