英雄再来 第十三話 魔王17

人の意志は奪わせない。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「そうやってまた奪うか…。」

『…!?』

「そうやってまたオレ達から意志を奪おうってんだな!?魔法使いらしい汚ねえやり口だな!」

地面に倒れたオウが叫びと共に立ち上がった。それに呼応してユウも立ち上がる。

「オレ達を虫ケラ扱いして散々いたぶって自分達の都合のいいように転がす…!魔法を持っているだけでそうでない者よりも優れていると勘違いし、人の心すらも思い通りに操れると思っているのか!」

重傷だったはずのビィやキュウ、ティイも痛みを堪えて次々と立ち上がった。

「残念でしたね!ここには貴方に屈する者はいません!」
「魔法使いの、そのやり口は知っている!」
「人の意志は奪わせはしません!絶対に!」

ペリドットは重傷の特務隊達が放つ謎の気迫に一瞬、気圧された。この状況下で未だに戦う意志を持ち続けられることに一種の狂気を感じた。
(『戦うことしか考えていないのか…。ここまでの傷を負ってもなお戦うことを止めようとしないのか…。やはりこいつらは世界の害虫だ…!こいつらは生き残れば必ず殺戮を繰り返す…!ここで殺しておかないといけない!さもなければまた悲劇が繰り返される!』)



ペリドットは知らなかった。

特務隊の前身である特攻隊の隊長ジェゼナは魔法使いに手足すら奪われて、かろうじて生きてはいるが何も出来ない状況下から、ひたすら思考し続けた結果、魔法を持たない人間が魔法使いに唯一勝てるものは人の意志であるという結論を出した。その結論を出す際に、ジェゼナは王道具の存在も知らなかったし、マチネは今と違って各地から逃げてきた者達がただ集まっているのに近い状態で、組織としても国としてもそれほど機能していなかった。何一つ出来ることなどないと思われていた状態から必死で探し出した希望の欠片が人の意志だった。そのジェゼナの思想はソルディエルやエクスを初めとした特攻隊の多くの者へと受け継がれた。そして、特攻隊が特務隊となった後もジェゼナの思想は受け継がれていった。
どれだけ優秀な機械でも自分から動くことはない。どれだけ鍛えた体でも意志がなければ動かない。どんなに苦しい状況でも自分の意志があれば何か出来ることがある。腕一本でも、指一本でも動かせるかもしれない。その指一本で拳銃の引き金を引けるかもしれない。それが逆転の一手に繋がるかもしれない。ジェゼナの思想は意志の力という、見る人によれば非常にか弱い力を主軸に構築されている。しかし、人の意志は誰であっても持っている力であり、誰であっても魔法使いに勝つことが出来るという大きな希望であった。腕をもがれても、足を失っても、それでも勝つ道筋があるということをジェゼナの思想は示していた。そして、それを自らが体現した。それは、同じく戦闘での怪我で手足を失い、他の者達と同じように戦えなくなった者達にとって特に大きな希望となった。

ペリドットは知らなかった。特務隊が「人の意志」という言葉に込めた特別な想いを。



『それほど戦いが好きなのならば、その命、奪ってやろう!』
ペリドットは、マチネの人間から反省の言葉が聞きたかった。懺悔の言葉が聞きたかった。本当は先程、一気に止めまでさせたのだが、殺さなかったのは根底にそのような願いがあったからだった。どれだけ謝られても死んだ者は生き返らないし、最後には相手を殺して全てを終わらせるつもりではあったが、それでも自分達が間違っていたとマチネの者が言ったという事実があれば死んでいった仲間達にせめてもの手向けになるかもしれないと思っていた。もちろん、復讐の意志もあった。同じ死ぬでも、とことん苦しめて殺すことで殺された仲間達の無念が少しでも晴れるという気持ちも大いにあった。ただ、今のペリドットを支配する感情は一秒でも早くマチネの人間を抹殺しなければならない、という憤りだった。
『もう二度と魔法使いに逆らおうなどという愚かな意志を持たぬように!』
ペリドット両手の爪を構えた。





瞬間、ペリドットは光を見た。それは風の国で見たのと同じ光だった。あの光を見た瞬間、ペリドットは撃ち落とされていた。そのことをペリドットの体は覚えていて、反射的に上空に舞い上がっていた。

一筋の光がペリドットの足元をかすめた。ペリドットが空に舞い上がらなければ頭を直撃していた軌道であった。マチネの新兵器、光子力放射。光の力を集めて一点に向けて放つ兵器で、その貫通力は今までの兵器を抜いて最大の威力があった。

(『来たか…!やはり来たか!あの時と同じ…!風の国に数多の砲撃を打ち込んで、それに気を取られている間にあの攻撃でわたしは撃墜され、風の国は滅びた…!貴様らのことだ、同じ手で来ることは分かっていた!同じ手は食わん!この攻撃は来る前に光を収束させる溜めの時間が存在する!一回目の攻撃でそれに気が付いたのは後からよくよく戦況を思い出してからのことだったが、なんにせよもうその攻撃は通用しないぞ!』)

ペリドットはジグザグに飛びながら空中で風の結界を張り、光線が飛んで来た方を見た。ペリドットはそこに光線を発射する大掛かりな移動砲台のようなものがあると思っていた。しかし、そんな大掛かりな兵器はどこにも見当たらなかった。代わりに一つの人影が見えた。たった一人でこちらに向かってくる女性の姿があった。ペリドットは結界の中から、それを注意深く見ていた。



「副隊長…!」
「副隊長だ…!」

息を切らし、全身から汗を流している女性が戦場に辿り着いた。そして、一気に唾と息を飲み込むと、一瞬で呼吸を整えた。そして拳をギュッと握ってから女性は言った。

「アイ、ユウ、オウ、ティイ、キュウ、ビィ。よく、生き残ってくれた。」

その言葉の裏には深い悲しみがあった。この六人以外のこの場にいるべき特務隊の隊員達の姿がない理由を女性は一番よく分かっていた。ここに来るまでにあった奇っ怪な程に大きな穴と、その先に転がっていた多くの死体。隊員達も巡視隊も住民達も皆殺しにあったことを女性は悟っていた。

「全員、離れていなさい。」

「は、はい!」
アイは急いで皆を引き連れて後方へと避難を開始した。



ペリドットは光子力放射を警戒して風の結界を張ったまま上空に留まっていた。今度、自分に光線が飛んできたら風の結界で攻撃を防ぎ、光線を出しているところを破壊しようと考えていた。
女性はそのペリドットを見上げて、歯を噛み締めて睨んだ。そして、一瞬、目を閉じた。次の時には、女性の顔には冷静さの仮面が張り付いていた。その表情は冷静に状況を見極め、敵の攻撃に冷静に対処し、冷酷に敵を屠る『特攻隊』の顔になっていた。

特務隊副隊長のエクスが現れた。

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この記事へのコメント

2015年06月14日 14:57
コング「人の心すら思い通りに操れる。弱い女子なら操られてしまうな」
火剣「人の意志は奪わせない。強烈な意志。もはや屈服するなら生きていないという、壮絶な意志だ」
コング「俺達と口にするのも、女の子特有の弱さを排除する意味もあるのかな。つまり裸にされたら困るとかはなく、全裸にされようが、辱められようが、そんなことはもはや降参や屈服の対象にはならない」
ゴリーレッド「そんなにNGBOXが好きか」
コング「まともな意見だ」
火剣「ベリドットは害虫から思考停止しているから永遠に理解できないのだろう」
コング「死を恐れていない勇敢な女戦士でも、生身の体だ。拷m」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「なぜえええ!」
火剣「ジェゼナの思想はソルディエル、エクスに継承され、見事にほかの者たちにも受け継がれている」
ゴリーレッド「エクス登場。どうなる?」
コング「ここはベリドットの正念場だ。エクスを生け捕りにしたらポイント高いぞ」
ゴリーレッド「あくまでも魔法使いを応援するか」
コング「言論の自由だ。ぐひひひ」
2015年06月14日 23:14
まだ手心を加えていた事実が発覚し、もう駄目だと思った次の瞬間・・・?
この絶望的状況における、エクスの頼もしさ!
不謹慎かもしれないですが、ヒーローは遅れてやって来る的な。

佐久間「ソルディエル以前から戦士だったエクス。その実力は、場合によってはソルディエル以上かもしれない。」
山田「いよいよエクスの能力が明かされたか。まさか1人で光子砲を撃てるとか・・」
八武「ソルディエルの脚も美しいが、光子砲もロマンがある。」
山田「何か微妙に引っかかる言い回し。」
八武「もとい、ソルディエルの蹴りも強力だが、エクスの光子砲も一撃必殺の威力を持っている。」
維澄「よけたということは、ペリドットにも通用するということかな。反射的な回避とはいえ、当たったら流石に無事では済まないはず。」
佐久間「そうなんだけどね。」
山田「何かあるのか?」
佐久間「いや、遠距離戦に向いた攻撃手段を有していながら、接近戦を選んだ理由・・・そしてペリドットが予想以上に冷静であることを考えていたのさ。単純に当たる・当たらないの問題ではなく、水面下で駆け引きが行われていると見た。」
山田「そうだな。お前と違ってエクスは、遠距離用の攻撃を近距離で使うことに快感を覚えるわけじゃないよな。」
佐久間「その可能性があったか。」
山田「だから無えよ!」
2015年06月20日 18:12
>火剣獣三郎さん
人の意志は一度決心してもついつい色々なことで揺らいでしまうものです。どんな時でも強い意志を持ち続けられるかといえばそうではない。しかし、人生の大切な場面では、普段と違って我を通したり、最後まで諦めずやり遂げようとする時があると思います。もっと言えば、決心して取り組まなくてはならない時がある。火事場の馬鹿力とは少し意味が違うかもしれませんが、人間はここぞという時にはなりふり構わず大きな力が発揮出来る。それは本人が、ここは頑張らなければならないと自覚しているからだと思います。
一方のペリドットは、相手を人間と見なさない思考のために全く違う結論に至っています。相手を同じ人間だと思っていたら別の結論が出てきたかもしれないけれども…。
受け継がれるジェゼナの意志が魔王と化したペリドットと対峙する。この思想があったからこそ諦めずに連携攻撃を繰り返していた。そのおかげでエクスが来るまでの時間を稼ぎ切りました。元々、当初の打ち合わせではエクスかソルディエルが駆け付けるまでは班長達で時間を稼ぐのがメインだった。特務隊は見事に作戦を遂行しました。
いよいよ特務隊副隊長エクスとの一騎打ち。ジュールズが勝つか、マチネが勝つか。どのような戦いになるのか…。
2015年06月20日 18:12
>アッキーさん
魔王となったペリドットの力の上がり具合は異常。散漫だった魔力が収束して、100%の力が出せるように体の方が整った。そして、止めを…!そこに現れたのは副隊長エクス!主役は遅れて来るもの?ここに来る前はソルディエルと共にオネの相手をしていたので、エクスにとっては連戦となるか。
特務隊の隊長副隊長は実力よりも適正重視で決まりましたので副隊長となったエクスがソルディエルよりも弱いとは限りません。エクスの能力は、その能力の使用の結果として光子力放射が撃てるといった感じでしょうか。オネ相手にもぶっぱなしてましたし。
ペリドットは以前に受けた光子力放射で敗北を喫しているのでかなり慎重になっています。風の結界を張ってはいますが、光子力放射はマチネ軍の目玉新兵器の一つ。その威力は折り紙つきです。さてさて、数々の魔法使いを倒してきた元特攻隊のエクスと魔王となったペリドットの一騎打ち。遠距離戦から近距離線、そして水面下での心理戦?既に攻防が始まっているか。

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