英雄再来 第十四話 エクス11

何かが、変だ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

――――――――――――――――――

「はあっ…!はあっ…!」
暗闇の中、ペリドットは走っていた。
(何かがおかしい…!何かが変だ…!)

暗闇の先にある小さな光。その光に照らされて微かに見える四つの影を目指してペリドットは走っていた。

『「殺せ…!」』
『「恨め…!」』
『「殺せ…!」』
『「憎め…!」』

(おかしい…!何かがおかしい…!)
ペリドットは辺りに響き渡る仲間の大魔法使い達の声を聞きながら、激しい違和感を覚えていた。
(明らかにおかしい…!)

『「殺せ…!」』

(そうだ…。トル君は、自らが病弱であることで他人の痛みをよく分かっていた。戦えばどちらも傷付くことを一番分かっていた。それが戦なんだと分かっていた。だからずっと戦を避ける方法を考えてきたんだ。争えばどちらかしか生き残れない。だから、どちらも生き残れるように雷の国はずっと陽動と攪乱を続けて、マチネを近寄らせない戦い方をしてきたんだ…!)

『「殺せ…!」』

(そうだ…。アクア君は、病弱なトル君の世話をよく焼いていて他人に気を遣う術を身に付けていた。水の国の首都を更に海岸まで下げて、マチネとの戦を極力避けた。それが背水の陣である危険性を承知の上で、出来るだけ戦わないという方針を掲げたんだ。自己犠牲、更には水の国の民も巻き込んだ決断だったが、それでもマチネと争わずに済む可能性に賭けたんだ…!)

『「殺せ…!」』

(そうだ…。ガーネットは、戦いの中でしか分かり合えないこともあることを知っていた。自ら先頭に立ち、剣を交え、敵であっても分かり合えないかどうか、日々挑戦し続けていた。何を言っても通じず、こちらの言葉に耳を貸さないマチネに対して、戦という名の会話を試みていたんだ…!)

『「殺せ…!」』

(そうだ…。ムーンストーンは、自分の持つ癒しの力でこの長く続いた戦を終わらせようとしていた。マチネの者達も同じ人間であるという信念の元に、敵を治療したことも多々あった。一人ひとりを癒していけば、いつかマチネは分かってくれて戦を止めてくれると信じていた。憎しみに対して憎しみを返しても無限の連鎖が続くだけだと分かっていたんだ…!)

『「殺せ…!」』

(そうだ…!皆が、皆!自分のやり方で誇りを持って平和を希求した!それが正しかったかどうかなど、後の歴史が答え合わせをすればいい!先代の大魔法使い達もそうだった!誰もが自分達のやり方で平和を作ろうと努力した!その中には和平のためにマチネに出向き、騙され殺された者もいた!しかし、それでも我々は決めたのだ!平和のために出来ることをしようと!例え、ジュールズが滅ぶことになっても、最後の一人になっても平和を求め続けようと!生半可な覚悟で大魔法使いになった訳ではない!先代達の意志を継ぎ、それぞれの国を率いる大魔法使いになったのだ!開祖カトレーアが目指した理想郷とは、血を分けた親子兄弟姉妹で争わなければならない世の中だからこそ、他人同士であっても争わずに済む世界のこと!分かり合うのが難しいからと言って、分かり合おうと歩み寄らなければ永遠に距離は縮まらない!)

『「殺せ…!」』

「だから問う!君達は何者だ!?トル君でもない、アクア君でもない、ガーネットでもムーンストーンでもない、君達は誰なんだああああああ!!!!」
ペリドットは叫んだ。走りながら四つの人影に向かって叫んだ。すると今までどれだけ走っても縮まらなかった影との距離が急に縮まり始めた。四つの影にペリドットがグングン近付いていく。そして、ペリドットはついに四つの影のところに辿り着いた。










四つの影が振り向いた。それらには顔がなかった。

「う、うわあああああああ!!?!!?」

その四つの影は木で出来た人形だった。ペリドットの叫びと共に四つの木偶人形はバラバラになり、カランカランと辺りに木片が散らばった。

「な、何だこれは…!何が起こっている…!?」

『「当たり前のことが起こっている。」』
ペリドットはその声にハッとして振り向いた。闇の奥から一人の男が現れた。その姿形はペリドットとそっくりだった。
『「この狂った世界で当たり前のことが起こっている。憎しみが憎しみを呼び、恨みが恨みを増幅させ、大きな悲しみが更なる大きな怒りとなって全ての者を傷付け、また憎しみが生まれる。この世界に『平和』は生まれない。」』

「な…!?わたし…!?いや、まやかしだ!この世界に平和は来る!我々が来させてみせる!消えろ、わたしの偽者め!」

『「その言葉こそまやかしだ。この世界に平和は来ない。お前達では平和を作ることすら出来ない。」』

「何っ!!?」

『「その証拠に足元を見ろ…。貴様は既に憎しみという沼に両足を踏み入れておるわあ!!」』

「なっ!!?」
ペリドットの足元はいつの間にか黒いヘドロに変貌していた。そして、ペリドットは沈み始めると同時に黒いヘドロが周囲から包み込むように襲いかかってきた。
「ぐあああああ!!!」

『「憎め!恨め!既に貴様の手は血まみれだ!もう手遅れなのだ!もう恨むしか道はない!もう憎む以外の道はない!ようこそ、憎しみの連鎖へ!憎め!憎め!憎め!憎め!憎め!トルを、アクアを、ガーネットを、ムーンストーンを殺した者達を憎め!魔法使い達を殺した者達を憎め!この状況の根源を作り出した開祖カトレーアを憎め!既に血で汚れた貴様はたくさんの恨みと憎しみの囲まれているのだ!貴様も憎しみに囚われ、憎しみに沈め!世界を憎め!ペリドット!」』

「ああああああああ――――――!!!!」

ペリドットは黒いヘドロに飲まれて意識を失った。

――――――――――――――――――


『ギャギュガギャギャギャアアアア!!!』
ペリドットの姿が変貌する。爆煙の中で変貌する。黒いヘドロが集まり、巨体となり、ついには人間の姿は消え失せた。

そして、『化け物』が生まれた。

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この記事へのコメント

2015年07月19日 20:19
火剣「開祖カトレーアか」
ゴリーレッド「家族同士で争う悲劇。だからこそ他人同士が争わない世界を築きたいという願望」
コング「僕の願望は美女、および美少女がz」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「だあああ! まだ何も言ってない!」
ゴリーレッド「zでわかる」
火剣「四つの影?」
ゴリーレッド「今度こそペリドットはおしまいか」
火剣「顔がない?」
コング「置いけて堀か。おいてけ~、おいけて~」
ゴリーレッド「火剣、ちょっとコングを冥王星に置いてくる」
コング「待て。1秒で凍死だ。全国のM子が悲しむ」
火剣「化け物が生まれたとはどういう意味だ」
ゴリーレッド「ペリドットは本気で平和を希求していたのか。しかしその方法を誤ると平和と逆行することになる。戦争の先に平和が訪れることは絶対にない」
火剣「マチネにも言えることだが」
2015年07月20日 15:04
>火剣獣三郎さん
思い起こせば『Engagement ring』のカトレーアは父親、兄、姉と命懸けで争いました。結局、全てが決着した頃には家族は全員死亡。国を興したカトレーアは、そんな悲劇を繰り返すまいとして新しい人生を歩み始めました。それがジュールズの始まりであり、魔法で人を幸せにするという魔法使いの永遠のテーマをカトレーアは自身のライフワークにしたのでした。そして時は流れて、現在…。
さて、このほの暗い場所はどこなのか。トル、アクア、ガーネット、ムーンストーンだと思っていた、顔のない四つの影は何だったのか。そして、闇に呑まれたペリドットはついに…?謎ばかりの不思議な空間ですが、ペリドットの精神空間の一種と思われます。ペリドットはどこで道を間違えたのか。はたまた、間違えさせられたのか。
さて、次回の『第十四話 エクス12』で、いよいよ『化け物』の登場です…。
2015年07月20日 23:27
特務隊と対峙していたペリドットは、既にペリドットではなくなっていた・・・!
魔銃の中にいる者の正体とは? 心当たりは幾つかありますが・・・。

佐久間「アルパカ首領・・・!」
山田「アルドンパカだっ!」
佐久間「まあ、闇の大神霊かどうかはともかく、これが違和感の正体か。」
山田「なるほどな。言われてみれば確かにってやつだ。」
八武「あの黒い魔法使い?」
維澄「チュルーリ・・・ではなさそうか。」
神邪「ww(ダブル)・・・も雰囲気が違いますね。」
山田「プリスターを思い浮かべたのは俺だけでいい。」
佐久間「まあ、どれも可能性としてゼロではなかろう。」
山田「いや、プリスターはない。」
2015年07月21日 22:02
>アッキーさん
フォウルに取り付いていたムーンストーンが既にムーンストーンに似て非なる『何か』になっていたのと同様に、ペリドットもペリドットとは違う何かにいつの間にか変質していたようです。以前に佐久間さんが言っていたことが大当たり。このペリドットを乗っ取った者は一体何者なのか…?いくつかの候補者(容疑者?)が上がっております。実はこの中に大正解が…。答え合わせはいずれ小説の中で。
さて、ペリドットが抱えていた違和感の一つが解消(?)されました。もし、死んだ四人がペリドットに力を託したというのなら、その時のメッセージが『殺戮』なのが有り得ない。ずっと冷静になれなかったペリドットですが、時間と共に違和感を抱くようになりました。
アルドンパカ、黒い魔法使い、チュルーリ、WW(ダブル)、プリスター、この中で再登場するのは果たして…?

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