英雄再来 第十八話 再会15

答えよう。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

嗚咽と共に涙を流すアールの前で、ツヲはゆっくりと口を開いた。

「…果てしない昔…。まだ、この人間の世界も精霊の世界も誕生していなかった時の話をしよう…。『誰か』が一粒の涙を溢した。それが、世界になる前の材料が混ぜ込ぜになっている場所に落ちた。そこから光と闇が、精霊達が、魔法が、生き物が、二つの世界が生まれた。そして、人間が生まれた。
精霊の世界の奥底にある記憶を言葉にすると大体、このようになる。この人間の世界にとって精霊の世界というのは深層心理や無意識という世界の根底に当たる部分だ。真実を求めて、その水底を這いずり回ればこの原初の言葉に辿り着く。全ては『誰か』の涙から始まったんだ…。」

ツヲの言葉がゆっくりと水に沈むような重さを伴って紡がれていく。

「この世界に生まれた人間は時に愛し合い、時に争い合い、時に助け合い、時に奪い合った。そうして栄枯盛衰の数千年が過ぎて、気が付けば人間は他の生き物である魔物に根絶やしにされつつあった。その時に現れたのがハイジマバイカという『英雄』だった。ハイジマバイカは魔物を全て殺して人間を救った。故に『英雄』となった…。だが、母さん…我々の母親であるチュルーリが言うにはハイジマバイカは『英雄』になりたかった訳ではないというのだ…。今から話すことの多くは母チュルーリの言葉を借りたものになるのだが…。」

ツヲはそう前置きをして話を続けた。

「ハイジマバイカは『英雄』になったのではなく、『英雄』に『しか』なれなかったのだという。人間を救ったのではなく、人間『しか』救えなかったのだという。
一人救えば『善人』。半分救えば『英雄』。全員救えば『神』。ハイジマバイカは『神』に成り損ねて『英雄』になった存在だというのだ。そして、ハイジマバイカの言った『人間同士が争うことのない世界』とは、魔物を駆逐した後の世界で人間同士が争うことのない世界を実現する『ということではない』。」

「え…?」

アールは驚きと戸惑いの感情の入り混じった声を上げて、ツヲの次の言葉を待った。

「ハイジマバイカは人間でありながら人間の力を遥かに超越した力を持っていた。それこそ、今まで誰も成し得なかった光大神霊(チュルーリ)の召喚を成し、魔物という世界の半分を斬り捨てる程の力を持っていた。それ故にハイジマバイカにとっては人間と魔物の間の差など無いに等しかった。ハイジマバイカは魔物も人間も等しく同じ救うべき存在と見なしていた。故に『人間同士が争うことのない世界』の本来の意味は、自分自身が成し得られなかった『全ての生物同士が争うことのない世界』の実現である。そして、魔物を駆逐した後にハイジマバイカが残した「争うな」という言葉の真意は「『これ以上生き物同士で』争うな」ということである。」

ツヲはギュッと拳を握った。

「ゼロ。さっき、ゼロは、この世界が英雄ハイジマバイカの目指した世界と一番遠い世界にあると言ったね。………その通りだ。全く、その通りだ。この世界では今まで一度たりとも、一瞬たりともハイジマバイカの目指した世界が実現したことなど、ない…!」

その時、ツヲは全身に力を込めて震えていた。力を込めないと立っていることすらままならなかったのだから。

「ゼロの疑問の一つに答えよう…!何故、今この世界は英雄ハイジマバイカが目指した『人間同士が争うことのない世界』から最も遠いところにあるのかと言えば、『今までその理想世界が実現した試しがないから』だ…!」

(もし、ハイジマバイカの理想が実現していたのなら、僕は彼女を失うことはなかっただろう…!)

ツヲの全身から悔しさという感情が溢れ出ていた。

アールもまた、服の裾を強く握って真っ直ぐ向き、ツヲの言葉と全身に篭った感情を受け止めようとしていた。



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この記事へのコメント

2015年09月28日 00:50
今まで実現したことが無い。確かにその通りなんですよね。
確かに存在しうる理想、しかし実際に存在したことが無ければ、そこへ至る具体的な道のりが人跡未踏。言い換えれば、そのビジョンが万人に見えるものではない、となるでしょうか。

ジュールズの人々には見えていなかった。
マチネの人々には見えていなかった。
あるいは見えていた者がいるかもしれない。

ゼロには見えていない。
ツヲには、見えていたのかもしれません。だからこそ激しく憤った。
オネは、見えていても実行する気は更々ないでしょうね。あるべき本質は争いであると、たとえ争いを回避するビジョンが見えていても戦うと思います。

佐久間「闇の世界も同じだな。」
山田「ふむ。」
佐久間「ネイメイスの“観察”から、闇の世界は始まった。巨大な目が混沌を観察し続けて、世界は生まれた。」
山田「やがてモンスターは衰退し、人間の時代がやって来た。人間同士で争う時代が。」
八武「君たちには、その頃からの記憶があるんだよねぃ。」
山田「おぼろげながら。」
佐久間「人間としての状態に慣れすぎたせいもあるが、随分とモンスターの感覚を失ってしまった。だが、まあ、それも悪くない。両方の視点を持てるという意味でな。」
2015年09月28日 23:55
>アッキーさん
理想を掲げずして理想を成すことは出来ない。梅花さんはまず先駆者として理想を掲げた。しかし、彼女はその理想を実現することは出来なかった。では、自分では理想を実現出来ないと悟った彼女は何を行ったのか。追々、小説の中で明かしていければと思います。
見えていなければ理想を実現出来ない。しかし、見えていてもそれを実現する力がなければ実現出来ない。ジュールズもマチネも、全てを見ることは出来なかったし、ひょっとすると見えないところまでは見ようとしなかったのかもしれません。それと、全て見えていた者はいなかったかもしれませんが、他の者より多く見えていた者はいたかもしれません。
今のところ、ゼロにはまだ見えていません。かつてオネが評したように綺麗な世界だけ見てきたゼロですが、今回のことを通じてようやく色々な世界を見れるようになりました。なので、今はまだ観察途中で暗中模索の状態でしょう。それでも、自分が感じている気持ちを糧にこの暗闇をもがきながらも進もうとしている。
ツヲやオネにはどんな世界が見えているのか。それぞれが理想とする世界は持っているようですが、それを実行する力と気持ちと全て見えているかというのはまた別なのかもしれません。理想を実現するためには何と多くのことが必要であるか…。
かつては魔物と人間が争っていた時代も、今や昔。人間同士で争う時代となり、そしてその行き着く先は…。魔物と人間、両方の視点があればどちらか一方だけの時よりもたくさんのことが見えてくるかもしれません。これに精霊と、魔法使いと、魔法使いでない人間の視点が加われば更に広いものが見えるかも。
2015年09月29日 13:28
コング「仮面ライダードライブが最終回になり、次は仮面ライダーゴーストか」
ゴリーレッド「何の話をしている?」
コング「ドライブが最終回に気付いたんだ。悪の怪人どもを全滅させて平和が訪れると思ったら、そうではなかった。悪の怪人を生んだのは『人間の悪意』。つまり人間の悪意がある限り、争いは永遠に続くのだ」
火剣「深いな賢者コングー」
コング「あたぼーよ」
火剣「大人でそんなに真剣に仮面ライダーを観ているとは」
ゴリーレッド「ヒロインの霧子を見ていただけだろう」
コング「何で知ってんの」
火剣「人間の悪意が悪の根源か。人間が悪いとか魔法使いが悪いという次元じゃねんだ」
ゴリーレッド「もののけ姫も、村人も悪ではないし、獣たちも悪ではない。やはり悪はジゴボー始め『悪意のある人間』だった」
火剣「根っこは深いな」
コング「大事なことは仮面ライダーゴーストも霧子に負けないセクシーヒロインを登場させるかどうかだ」
ゴリーレッド「ゴーストになりたいか」
コング「待ちたまえ」
火剣「ハイジマバイカの死闘は壮絶だった」
コング「争いを防ぐのはEROSUだ。今こそプリスターの出番」
火剣「魔法使いと悪魔の関係も微妙だ」
ゴリーレッド「プリスターは悪意を持った悪魔・・・当たり前か」

2015年09月29日 22:45
>火剣獣三郎さん
仮面ライダーシリーズもまた一つが最終回を迎えましたか。思えば、昔、戦隊物やロボット物なんかを見ていましたが、いつの間にか最終回になって、また新しい戦隊が出てきて…。そんなことを繰り返しているうちに正義の味方の戦隊って100人は超えているような気がします。仮面ライダーも今は何人目なんでしょうかね。
何か一つの悪を倒したり、誰か一人の悪人を倒して世界に平和が訪れるような、単純な作りに世界はなっていない。何故なら世界はあまりにも広く、個人で出来ることには限界がある。となると、世界を覆う悪というのは個人ではなく、何かの集合体なのかもしれません。その一つの形態が人の悪意。魔法使いやそうでない人間というカテゴリーで分けたところで問題の解決にはならず、むしろ問題を深めてしまうのかもしれません。誰の心の中にも存在する悪意。ちなみに闇大神霊(アルドンパカ)なんかは、人間の悪意が大好物です。
最初に悪意のあった人間や、未だに悪意に取り憑かれ突き動かされている者が生きているかは分かりませんが、少なくともその悪意の目的が世界を平和から遠ざけることであったのなら、その目論見は残念ながら達成されてしまったようです。
魔法使いと悪魔を比べれば、魔法使いの方が人間の側であることは明らか。世界を救った梅花さんがそもそも魔法使いでした訳ですし。梅花さんの壮絶な戦いの後に何度も争いは起こってしまった。この争いを防ぐためには一体どうすればよかったのか…?

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