英雄再来 第二十話 オネの暇潰し3

オネの探索。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「…取り敢えず、ツヲ兄ちゃん達に隠し部屋があったって言ってくる。」

「ああ、そうしてくれ。ツヲやアールは本好きだしな。」

フォウルは腕の形の土神霊(グノメ)に乗って隠し部屋から立ち去った。



一人になったオネはもう一度、隠し部屋の中を見回した。

「炎(ブラーゼ)。」

オネは目に付いた蝋燭全てに一斉に火を灯した。それは精密な魔力制御の技術がないと出来ない芸当だった。オネの出鱈目な強さの秘密はその魔力総量や放出最大量の大きさも然ることながら、それだけの巨大な力を持っているにも関わらず完全に制御し切っているところにもあった。魔力と技術、オネはその両方を兼ね備えていた。


本棚の間をゆっくりとオネは歩き、本の背表紙をザッと見ていた。本棚に収まっているのは歴史書だったり、資料の塊だったり、小説だったり、様々な本が置かれていたが一番多いのは魔法使いに関する研究報告書だった。

(やはり、ここでは敵である魔法使いに関する研究をする場所だったのだな…。わざわざ壁の中に作ったのは外から持ち帰った情報をすぐに仲間と共有し、戦いを有利に進めるため、か…。)

隠し部屋は天井こそ低いが、横にはそれなりの広がりがあり、隅の方には机や椅子もあった。

(壁の内部、それも内側に近いところに作っているのだから、明かりを取り込む窓を作っても良かったとは思うが…。軍事機密もここで話し合われていたのだろうか。それとも窓を作ることで壁の防御力が減るのを嫌ったのだろうか…。)

オネがそんなことを考えながら辺りを見渡していると、床に積まれた本が目に入ってきた。

(これから整理して本棚に入れる予定の本だったのだろうか。それとも、不要になり処分される予定の本だったのだろうか…。)

オネは無造作に一番上の本を拾い上げて、少し積もった埃を払った。

(何だ、半分ほど破れてなくなっているじゃないか。廃棄予定か…。)

その本の表紙にはマチネで使われていたであろう文字で題名が書かれていた。

(『魔王が死んだ日』か…。単なる小説のようだな…。使われている言葉も文字も案外変わらないものだ…。まあ、封印されている間も色々見てきた訳だし…。しかし、魔王か…。)

オネはそのたった一つの単語『魔王』から昔のことを思い出していた。

(クソババアが何度か言ってたな…。)





―――――――――――――――――――――――――――――――

大昔の光景。まだチュルーリが健在で、オネを産んであまり時が過ぎていない頃の話。この頃のチュルーリはずっとオネを育てていた。ただし、多くの人間が思う「育てる」という内容からするとチュルーリの子どもの育て方は大変厳しかった。チュルーリは毎日のようにオネを野山や草原に連れ出し、戦闘訓練の合間に言葉や思想を教えていた。



「この世界には魔法を使える人間とそうでない人間がいる。ただし魔法を使えない人間は何かのきっかけで覚醒し、魔法が使えるようになる訳だ。別に後天的でなくて、生まれる瞬間や腹の中にいる時から覚醒する例もごまんとあるがな。」

見た目は六歳程度の長い髪の女の子が同じぐらいの少し赤の混じった女の子を前にして講釈を垂れていた。

「だが、もしも魔法を使える人間が更に覚醒したらどうなるのか。それは最早人間とは別種に近い者になる。人間よりも世界の根底を司る精霊に近い存在になる訳だ。そうなった人間を魔王と呼ぶ。最も魔王に完全覚醒した人間は今までの歴史の中でただ一人、ハイジマバイカだけだ。魔王の片鱗を見せた者は何人かいるのだがな。ハイジマバイカは強かったぞ。神に成り損ねたとは言え、英雄には成れたのだからな。」

長い髪の女の子、チュルーリの目の前にいるオネは片目からは血を流し、息は荒く、片膝を地面についていて、全身には擦り傷、切り傷、打撲、出血の跡がいたるところにある満身創痍の状態だった。

「ハアッ…!ハアッ…!ハアッ…!」

それでももう片方の開かれた目はチュルーリを睨み付けていて、戦意が喪失していないことを示していた。そのオネにチュルーリは淡々と言葉を投げかける。

「だから、オネ。今の私にすら歯が立たないお前じゃ、全盛期のハイジマバイカが相手なら一秒と持つまいよ。」

―――――――――――――――――――――――――――――――





(ああ…今、思い出しても腹が立つ…!)

オネの体温がゴトリと上がった。

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この記事へのコメント

2016年01月12日 10:54
もしかして何らかの規則に従って人を灯せば、隠し通路が開かれたりする・・・?
それは謎のままオネの過去回想。チュルーリかあさん強し!

佐久間「オネは自分が決して最強でないことを知っている。だから最強を目指すんだ。」
山田「なるほどな。既に最強なら、勝ちたいとは思わないわけか。確かにチュルーリは、そういう感じがあった。」
八武「そこがオネとの違いかね?」
維澄「今の私にってことは、このとき既にチュルーリは、眠りかけていたのかな。」
神邪「それでもオネを圧倒するあたり、やはり母親は強いものですね。僕も寿命が近い母さんにすら、ボコボコにされました。」
八武「オネは、自分がチュルーリの下位互換でしかないと悩んでいるのかもしれない。」
山田「それが強さを求める理由か・・。それだけではないんだろうけど。」
2016年01月12日 14:06
ゴリーレッド「この部屋で魔法使いの研究をしていたのか」
コング「僕も365日研究を欠かさない」
ゴリーレッド「研究自体が凄いわけではない。何を研究しているかが重要」
コング「僕はどうしたら人間が興奮し感動するかを日夜研究している」
ゴリーレッド「それだけ聞くと素晴らしく聞こえるが内容はわかっている」
コング「バカにしてはいけない。同じHARITUKEでも十字型がいいかX字型がいいか真剣に悩む人間が未来を変える」
火剣「下町ロケットみたいだ」
ゴリーレッド「全然違うと思う」
火剣「マチネも必死に研究し攻略し作戦を立てていたのだろう」
コング「オネを鍛えたのはチュルーリか」
火剣「オネにとっては腹立たしい思い出なのか?」
ゴリーレッド「ハイジマバイカの強さは底知れない」
コング「魔王か」
火剣「チュルーリは思想も教えたのか。きょうだいの中でチュルーリとそっくりなのはオネだけだ」
コング「アールとオネは似ていない。むひひひ」
ゴリーレッド「魔女は人間だが、一線を超えるともはや人間ではないか」
火剣「チュルーリとオネを見て人間と思う人はいないだろう」
コング「ツヲ紳士とアールは実際に人間と間違えられる」
ゴリーレッド「洞窟は気になる。油断はできない。まあ、オネには何が出て来ても関係ないかもしれないが」
2016年01月12日 23:58
>アッキーさん
なるほど、もしかしたら更なる隠し部屋があるかもしれませんね。ゼルダの伝説だったら絶対にありそう。まあ、更なる隠し部屋の探索は土魔法が専門のフォウルの方が適しているかも。
オネが今尚戦闘を欲し、勝利を欲する根源に母親のチュルーリが大きく関わっていました。チュルーリが立ちはだからなかったらオネはどんな性格になっていたのやら…。
この時のチュルーリは次第に力が衰えてきていました。何せ、人を喰わなくなって久しいのです。自分を召還したハイジマバイカからのエネルギーも、彼女の死後から徐々に少なくなり、オネをある程度まで育てて、他の子ども達を産んで、ゼロを産み終わったぐらいに眠りに就きました。
にも関わらず、オネをボコすチュルーリ強過ぎ。英雄の子孫の時から確実に強くなっています。さて、オネが強さを求める一番の理由とは…?
2016年01月12日 23:58
>火剣獣三郎さん
昔の人が「彼を知り己を知れば百戦して危うからず」と言ったように、研究は成功や目的達成のためには欠かせないものですね。常にどこかで、思考を巡らし、考え続けたいものです。一つの物事をとことんまで研究し続ければ、普通では到達出来ないような場所に達したり、ノーベル賞ものの発見や発明をしたりするかもしれません。神は細部に宿るとも言いますし、色々と細かいところまで研究がなされたか。マチネも特攻隊の時からジェゼナ主導で魔法使いに関する様々な研究が行われていたと思われます。
さて、現在は無敵の強さを誇るオネですが、昔を紐解けば母親のチュルーリにボコボコにされた経験あり。そして、そのチュルーリが魔王と呼ぶ梅花さん…。実は英雄招来の後からいくつもの物語を経て、チュルーリを産んでと続くのですが、その過程で梅花さんは更に強くなります。そして、最盛期にはチュルーリをも御すほどの力を手に入れることになります。まさに魔王。
チュルーリの教育を直接受けたのは主にはオネで、とツヲさんは少しだけ、後の四人は起きている母親を見ることの方が珍しかったぐらいの感じです。チュルーリはこの後、少し長い眠りに就きますので。なので、一番チュルーリの教育を受けたオネが一番似ていると思われます。元来の性格的にも。
なので、兄弟姉妹で性格が全然異なります。まあ、六人ともがチュルーリのような性格だったらマジでやばい…。世界の終わりか…?
隠し部屋の中にはまだ秘密が隠されているのか。オネの探索に期待ですね。

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