英雄再来 第二十二話 過去のツヲ6
全力で、全霊で。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「水(ワーテル)!」
残り59秒。僕は地面も簡単に穿つほどに圧縮された水の塊を何十個と出して高速で撃ち出した。当時、銃など存在しなかったが、それよりも殺傷力が圧倒的に高い技だった。
ミッドは僕が水(ワーテル)を放つや否や一気に向かってきた。身を屈め、ほとんどないはずの水(ワーテル)の嵐の隙間を潜り抜け、僕の懐まで踏み込んだ。面としては隙がなくても、三次元空間としてはそうではなかった。無数の水(ワーテル)の発射の僅かな時間差によって生じた僅かな安全地帯をミッドは通ってきたのだ。
残り57秒。ミッドの長剣が僕の胴体を斜め下から上に向かって斬り裂いた。だが、僕は斬られたのではない。剣を通したのだ。僕の体は普段は人の形を保っている。しかし、僕の本当の姿は…水そのものだ。一定以上の衝撃に対しては僕の体は水となり、一切の物理攻撃を受け付けなくなる。そして、即座に戻って反撃することも出来るし、そのまま相手の顔に纏わり付いて溺死させることも出来るし、先ほどの水(ワーテル)のようになって相手を貫通するのも、集まって水圧で押し潰すのも自由自在。僕は一番早く殺せる水圧死を選択した。剣によって飛び散った僕の一部と合わせてミッドの胴を押し潰して千切る。それで終わりだ。
ところがだ。水となった僕が集まるより早く、ミッドは僕の水と化した切断面に掌を当てていた。
「剛ぉぉお!!」
今までに感じたことのない衝撃に襲われた。ミッドの掌から衝撃波が発生したのだ。ミッドは魔法が使えたのか?いや、違う。これは技だ。技術によって放つ勁という名の技だ。その衝撃で僕はバラバラになって飛び散った。
だが、これは逆に好都合だった。今のミッドの周囲には水となった僕が飛散した状態。剣も勁も当てる対象がいなければ話にならない。既にミッドは僕の大きな手の中にいるも同然。このまま高速で集まればミッドを圧死させるか貫くか出来る。
残り54秒。一気にミッドに向かって僕の体の一部だった水滴が集まる。ミッドは長剣を捨てると同時に古びた衣の中に頭を引っ込めて猛然と走り出した。
僕が次々に弾かれる。何故だ。あんな衣の一つや二つ、あんな速度での突進で何故。水滴になっても僕が弾き返される理由は一つしかない。あの古びた衣は水を弾く魔法効果のある魔道具だ。
そうか、ミッドは魔法を使えない。でも、魔法を使えない人間が苦心して作り上げたのが魔道具だ。僕とミッドに魔法使いかそうでないかという違いはなかった。ミッドはその差を既に埋めることに成功していたんだから。
僕はすぐに一箇所に集まって体勢を整えようとした。瞬間、ミッドは腰の後ろにある短剣を引き抜いて地面に付き刺した。
「雷(らい)っ!!」
残り50秒。地面から、集まった僕に向かって雷が届く。僕は、それを前方に作り出した水の塊で受け止めた。その攻撃を受けはしない。もう十分だ。ミッドの動きは見切った。
さあ、儀式を始めよう。ミッド、見て欲しい。僕の力を。僕の強さを。ミッドが育ててくれた僕の力を!!!
ミッドが短剣を突き刺した地面から水が噴き出した。その時にはミッドは数歩離れていた。噴き出した水は地面を砕き、辺り一帯から次々と水が噴出する。同時に、天空から容器を引っくり返したかのような勢いで雨が降り出した。先ほどまでは多少曇ってはいたが、雨を降らすような天気ではなかったにも関わらず。ツヲが魔法で雨を呼んだのだった。
足元に雨水が溜まっていた。その水位はすでにふくらはぎにまで達していた。普通はあり得ない。地面に染み込むか、周りへと流れ出すかするはずだ。ここは平原。この場所は窪地などではない。では、何故水が溜まっているのか。
『捕まえた。』
ガシリッ、という音と共にミッドは自分の足に鉄の塊が纏わり付いたような感覚に陥った。見れば水が巨大な腕のような形になっていて五本も六本もあるではないか。それら全てがミッドの両足をまとめて掴み、包み込んでいた。
残り45秒。ツヲは精霊としての力を解放し、巨大で変幻自在の意思を持つ水そのものへと変化していた。その高さは木々を越え、その広がりは周囲一帯を水没させるほどだった。
水魔物ツヲが現れた!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「水(ワーテル)!」
残り59秒。僕は地面も簡単に穿つほどに圧縮された水の塊を何十個と出して高速で撃ち出した。当時、銃など存在しなかったが、それよりも殺傷力が圧倒的に高い技だった。
ミッドは僕が水(ワーテル)を放つや否や一気に向かってきた。身を屈め、ほとんどないはずの水(ワーテル)の嵐の隙間を潜り抜け、僕の懐まで踏み込んだ。面としては隙がなくても、三次元空間としてはそうではなかった。無数の水(ワーテル)の発射の僅かな時間差によって生じた僅かな安全地帯をミッドは通ってきたのだ。
残り57秒。ミッドの長剣が僕の胴体を斜め下から上に向かって斬り裂いた。だが、僕は斬られたのではない。剣を通したのだ。僕の体は普段は人の形を保っている。しかし、僕の本当の姿は…水そのものだ。一定以上の衝撃に対しては僕の体は水となり、一切の物理攻撃を受け付けなくなる。そして、即座に戻って反撃することも出来るし、そのまま相手の顔に纏わり付いて溺死させることも出来るし、先ほどの水(ワーテル)のようになって相手を貫通するのも、集まって水圧で押し潰すのも自由自在。僕は一番早く殺せる水圧死を選択した。剣によって飛び散った僕の一部と合わせてミッドの胴を押し潰して千切る。それで終わりだ。
ところがだ。水となった僕が集まるより早く、ミッドは僕の水と化した切断面に掌を当てていた。
「剛ぉぉお!!」
今までに感じたことのない衝撃に襲われた。ミッドの掌から衝撃波が発生したのだ。ミッドは魔法が使えたのか?いや、違う。これは技だ。技術によって放つ勁という名の技だ。その衝撃で僕はバラバラになって飛び散った。
だが、これは逆に好都合だった。今のミッドの周囲には水となった僕が飛散した状態。剣も勁も当てる対象がいなければ話にならない。既にミッドは僕の大きな手の中にいるも同然。このまま高速で集まればミッドを圧死させるか貫くか出来る。
残り54秒。一気にミッドに向かって僕の体の一部だった水滴が集まる。ミッドは長剣を捨てると同時に古びた衣の中に頭を引っ込めて猛然と走り出した。
僕が次々に弾かれる。何故だ。あんな衣の一つや二つ、あんな速度での突進で何故。水滴になっても僕が弾き返される理由は一つしかない。あの古びた衣は水を弾く魔法効果のある魔道具だ。
そうか、ミッドは魔法を使えない。でも、魔法を使えない人間が苦心して作り上げたのが魔道具だ。僕とミッドに魔法使いかそうでないかという違いはなかった。ミッドはその差を既に埋めることに成功していたんだから。
僕はすぐに一箇所に集まって体勢を整えようとした。瞬間、ミッドは腰の後ろにある短剣を引き抜いて地面に付き刺した。
「雷(らい)っ!!」
残り50秒。地面から、集まった僕に向かって雷が届く。僕は、それを前方に作り出した水の塊で受け止めた。その攻撃を受けはしない。もう十分だ。ミッドの動きは見切った。
さあ、儀式を始めよう。ミッド、見て欲しい。僕の力を。僕の強さを。ミッドが育ててくれた僕の力を!!!
ミッドが短剣を突き刺した地面から水が噴き出した。その時にはミッドは数歩離れていた。噴き出した水は地面を砕き、辺り一帯から次々と水が噴出する。同時に、天空から容器を引っくり返したかのような勢いで雨が降り出した。先ほどまでは多少曇ってはいたが、雨を降らすような天気ではなかったにも関わらず。ツヲが魔法で雨を呼んだのだった。
足元に雨水が溜まっていた。その水位はすでにふくらはぎにまで達していた。普通はあり得ない。地面に染み込むか、周りへと流れ出すかするはずだ。ここは平原。この場所は窪地などではない。では、何故水が溜まっているのか。
『捕まえた。』
ガシリッ、という音と共にミッドは自分の足に鉄の塊が纏わり付いたような感覚に陥った。見れば水が巨大な腕のような形になっていて五本も六本もあるではないか。それら全てがミッドの両足をまとめて掴み、包み込んでいた。
残り45秒。ツヲは精霊としての力を解放し、巨大で変幻自在の意思を持つ水そのものへと変化していた。その高さは木々を越え、その広がりは周囲一帯を水没させるほどだった。
水魔物ツヲが現れた!
この記事へのコメント
しかしツヲは人知を超えたモンスター。ミッドは己の命を教育に捧げるつもりなのでしょうか?
それとも・・・。
八武「むうっ、勁か・・・これは相当のクンフーだぞ!」
山田「ツヲを弾き飛ばすほどか。しかしツヲも全力。人間らしい場面が多くて忘れそうになっていたが、あらためて人外の魔物だということを思い知らされる。」
佐久間「それでも人間だ。あくまでミッドはツヲを、話の通じる人間として見ている。だから教育者なんだ。」
山田「そうだったな。相手を話の通じない化物と思ったら、教育者ではなくなる・・・。人間は誰しも、小さな教育者でなければならない。それを忘れたとき、己も人でなくなる。」
八武「・・・ところで、この形態でオネと勝負すればどうなる?」
佐久間「同じ事をオネも思っただろうな。」
山田「なるほどな、そこにも繋がっているのか。チュルーリは、ミッドは、どこまで先を読んでいるんだ?」
老人になってもミッド強え!というか、チュルーリと出会って魔法や魔道具に深く触れるようになって強さが格段に上がった気がします。しかし、その根底を支えているのは人間的なものであり、チュルーリへの気持ちであると思います。果たして、人智を超えた化け物と化したツヲ相手にミッドはどこまで出来るのか。
八武さんも得意な勁も使うし、魔道具もたくさん身に付けています。とにかく強くなるため、勝つためには何でも取り入れていくスタイル。全てはチュルーリに付き従う者として強くありたいという気持ちによって強くなっている感じです。
人とは何か、人外とは何か。一つの目安として意思疎通があるかもしれませんね。人間の言葉を話せるのならば「人間」だと思おうという感じ。見た目よりも中身とするならば、会話しようとする心が大切。
さて、この形態でオネと勝負するとどうなるのか。それはオネも精霊の姿に戻ってフェニックス状態になり、大空から爆炎の塊を雨やあられと振り撒きまくるでしょうね。地上にいるツヲさんはある程度の反撃は出来ますが最終的にはオネが勝つでしょう。
さて、勝負の行方を見守るチュルーリは何を考え、いざ魔物を目の前にしたミッドは何を思うのか。