英雄再来 第二十二話 過去のツヲ3
目標が、出来た。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ある日のことだった。いつものように母さんはオ姉さんを連れて住処を離れ、戦いに適した遠くの場所へと向かっていった。二人の戦いは、住処の近くで行えばこの辺り一帯が住めなくなるほどの激しさを持っていたからだ。留守番の僕はいつものように彼と一緒に畑を耕していた。
その時だった。遠くの茂みの方から人の気配と声がした。
「おい、これ実を付けてるぜ!」
「く、食えるのか!?マジか!?」
現れたのは武装した三人の男だった。三人はすぐにこちらに気が付いた。
「ちっ。やっぱ人がいるよな~。」
「こんなのが自然に出来たら苦労しねえってーの。」
三人は躊躇無く武器を構えた。いわゆる盗賊の類だと理解するのは一瞬だった。
「だが、老いぼれとガキだけとは好都合だぜ。」
「他は出かけてるってか?」
殺そう。僕はそう思った。こいつらは作物を荒らしに来た害虫だ。退治大決定。
「悪いな、恨むなら――――。」
魔法で殺すか、武器で殺すか。僕なら、こいつらを一瞬で殺せる。そう思った次の瞬間だった。
「―――――!?」
三人の内、二人の首が宙を舞った。何が起こったのか、僕も、殺された盗賊も分かってはいなかった。彼が一瞬の内に間合いを詰めて、通り抜けざまに二人の首を斬ったと分かった時には、三人目の首も剣で貫かれていた。
三人はあっという間に絶命した。
「ツヲ様、穴を掘りましょう。」
彼は顔色一つ変えず、息を切らすことも無く、そう言った。
「埋めて畑の肥やしにいたしましょう。」
僕は、その瞬間、心の中に一つの目標が出来た。
「ミッド。僕は――――。」
その言葉を言い終わる前に僕は凄まじい殺気を感じで振り返った。
次の瞬間に、そこに顔面蒼白の少女、母さんが現れた。
「おい、ミッド。」
「はっ。」
「何があった?」
「チュルーリ様の住処を荒らす害虫が現れました故に排除いたしました。」
「…そうか。」
母さんは一瞬、安堵の表情を浮かべた。僕には、おそらくオ姉さんにも見せたことの無い顔だった。ただし、すぐにいつもの表情に戻った。
「ミッド、こんな連中相手に本気を出すな。お前の寿命が縮むだけだ。お前の寿命も私のものだ。私と共に永遠を歩むことを拒んだのだから、せめて命尽きるまでは私のそばにいるという約束を違えるなよ。いいな!」
「はっ!」
僕はこの時、ミッドをこれほどまでに意識したことはなかった。三匹の害虫退治は僕でも出来た。しかしミッドは一瞬で、しかも周りに一切の被害を出さず最小の力で成すべき仕事完璧にこなしたのだ。今までの僕は心のどこかでミッドを見下していたのだ。人間だからと、老人だからと、自分よりも弱い存在だと思っていたのだ。だが、違った。能ある鷹は爪を隠すという言葉通りだった。ミッドは自分の実力を隠していたのだ。常に近くにいたのに、そんなことにも気が付けないほどに僕は未熟だった。
「おっと、オネを置いてけぼりにしてしまった。ミッド、また後で戻る。」
「はっ。行ってらっしゃいませ。」
「目標が、出来ました…。」
僕の言葉にミッドは振り向き、母さんも足を止めた。この時の僕はどんな顔をしていたのだろうか。
「僕は、一度もミッドと本気で戦っていない。」
ついに自分に欠けている何かを見つけた高揚感で少し笑っていたように思う。
「僕は、ミッドの本気を今まで見たことがなかった。」
だが、それ以上にオ姉さんや母さんと同じ狂気の滲んだ目をしていたのだろう。血は争えない。
「ミッドを超えたい。今、初めて、強く、心の底から思っています。」
ひょっとすると、僕はミッドに嫉妬していたのかもしれない。当時の僕に持っていないものを持っていたから。それを得たいという想いで僕の頭の中は一杯だった。
「ミッド、僕と殺試合(ころしあい)をしてくれませんか?」
今から思えばもっと別の言葉や別の方法があったと思う。でも、その当時の僕は戦ってミッドを殺すことのみがミッドを超えた唯一の証明になると思い込んでいた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ある日のことだった。いつものように母さんはオ姉さんを連れて住処を離れ、戦いに適した遠くの場所へと向かっていった。二人の戦いは、住処の近くで行えばこの辺り一帯が住めなくなるほどの激しさを持っていたからだ。留守番の僕はいつものように彼と一緒に畑を耕していた。
その時だった。遠くの茂みの方から人の気配と声がした。
「おい、これ実を付けてるぜ!」
「く、食えるのか!?マジか!?」
現れたのは武装した三人の男だった。三人はすぐにこちらに気が付いた。
「ちっ。やっぱ人がいるよな~。」
「こんなのが自然に出来たら苦労しねえってーの。」
三人は躊躇無く武器を構えた。いわゆる盗賊の類だと理解するのは一瞬だった。
「だが、老いぼれとガキだけとは好都合だぜ。」
「他は出かけてるってか?」
殺そう。僕はそう思った。こいつらは作物を荒らしに来た害虫だ。退治大決定。
「悪いな、恨むなら――――。」
魔法で殺すか、武器で殺すか。僕なら、こいつらを一瞬で殺せる。そう思った次の瞬間だった。
「―――――!?」
三人の内、二人の首が宙を舞った。何が起こったのか、僕も、殺された盗賊も分かってはいなかった。彼が一瞬の内に間合いを詰めて、通り抜けざまに二人の首を斬ったと分かった時には、三人目の首も剣で貫かれていた。
三人はあっという間に絶命した。
「ツヲ様、穴を掘りましょう。」
彼は顔色一つ変えず、息を切らすことも無く、そう言った。
「埋めて畑の肥やしにいたしましょう。」
僕は、その瞬間、心の中に一つの目標が出来た。
「ミッド。僕は――――。」
その言葉を言い終わる前に僕は凄まじい殺気を感じで振り返った。
次の瞬間に、そこに顔面蒼白の少女、母さんが現れた。
「おい、ミッド。」
「はっ。」
「何があった?」
「チュルーリ様の住処を荒らす害虫が現れました故に排除いたしました。」
「…そうか。」
母さんは一瞬、安堵の表情を浮かべた。僕には、おそらくオ姉さんにも見せたことの無い顔だった。ただし、すぐにいつもの表情に戻った。
「ミッド、こんな連中相手に本気を出すな。お前の寿命が縮むだけだ。お前の寿命も私のものだ。私と共に永遠を歩むことを拒んだのだから、せめて命尽きるまでは私のそばにいるという約束を違えるなよ。いいな!」
「はっ!」
僕はこの時、ミッドをこれほどまでに意識したことはなかった。三匹の害虫退治は僕でも出来た。しかしミッドは一瞬で、しかも周りに一切の被害を出さず最小の力で成すべき仕事完璧にこなしたのだ。今までの僕は心のどこかでミッドを見下していたのだ。人間だからと、老人だからと、自分よりも弱い存在だと思っていたのだ。だが、違った。能ある鷹は爪を隠すという言葉通りだった。ミッドは自分の実力を隠していたのだ。常に近くにいたのに、そんなことにも気が付けないほどに僕は未熟だった。
「おっと、オネを置いてけぼりにしてしまった。ミッド、また後で戻る。」
「はっ。行ってらっしゃいませ。」
「目標が、出来ました…。」
僕の言葉にミッドは振り向き、母さんも足を止めた。この時の僕はどんな顔をしていたのだろうか。
「僕は、一度もミッドと本気で戦っていない。」
ついに自分に欠けている何かを見つけた高揚感で少し笑っていたように思う。
「僕は、ミッドの本気を今まで見たことがなかった。」
だが、それ以上にオ姉さんや母さんと同じ狂気の滲んだ目をしていたのだろう。血は争えない。
「ミッドを超えたい。今、初めて、強く、心の底から思っています。」
ひょっとすると、僕はミッドに嫉妬していたのかもしれない。当時の僕に持っていないものを持っていたから。それを得たいという想いで僕の頭の中は一杯だった。
「ミッド、僕と殺試合(ころしあい)をしてくれませんか?」
今から思えばもっと別の言葉や別の方法があったと思う。でも、その当時の僕は戦ってミッドを殺すことのみがミッドを超えた唯一の証明になると思い込んでいた。
この記事へのコメント
しかし、これは・・・何だかとんでもないことになってしまった?
山田「なるほど、ミッドの強さは戦闘力だけではないのに、戦いで殺しても超えたことにはならない。」
佐久間「人間を見下すのは、人間だけだ。たとえ肉体が精霊であってもな。」
八武「・・・ある意味、見下してる方が何とかなるけどねぃ。」
佐久間「皮肉か?」
八武「滅相も無い。」
維澄「ミッドは死んでしまうの?」
神邪「嫉妬ですか・・・。どうも嫌な感じになってきましたね。不穏です。」
佐久間「チュルーリの反応が気になるな。」
八武「ふむ。」
老いても軍人、ミッド強し!しかし、その行動が悲劇の幕を引き上げてしまったか。
強さというのは色々あって、戦闘力だけではありません。しかし、チュルーリが二国を滅ぼし、秩序も何もなくなった世界では生きるということこそが至上命題。知恵も知識も技術も技も武器も道具も全ては勝って生きることに繋がる。つまりは、強い者が勝ち、勝つことが強さの証明である弱肉強食の世界なのです。
欲しい物があるのなら奪って手に入れても誰も非難しない世界。その代わり、自分自身がいつ奪われる立場になるか分からない世界でもあります。ミッドを殺しても何かが手に入る保障はありませんが、それは戦わない理由にはなりませんでした。ツヲさんもまた精霊である故に、人の倫理の外にいるのです。
さて、その場に駆け付けていたチュルーリの反応は如何に。