英雄再来 第二十三話 ミッド2

最後の晩餐。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

母さんがゼロを身篭ってから少しして、今まで一言も言わなかったことを言ったのが始まりだった。

「この二、三日はミッドと一緒にいる。お前ら、ミッドに言いたいことがあるなら今の内に言っとけよ。」

フォウルとフィベは何のことだか分かっていないような顔をして肉を頬張るミッドの方を見た。ツレエは少ししてピンと来たようだった。オ姉さんは全て分かっているようで表情を変えることはなかった。


ミッドの死期が近いのだ。


元々、ミッドには魔法使いとしての素質は無いに等しかった。だからこそ、かつての戦の続く時代では体を鍛えて軍隊の人間になるという道を選んだのだと思う。そのミッドが母さんと出会い、付き従う中で魔法や魔道具を深く知り、それの研究にも力を注ぐことになった。僕と戦った時にミッドが使った数々の魔道具は全てミッドの手作りだということは後で知った。
魔法は使い手の魂を削って発動する。それは魔道具も多少共通する。魔道具を使う者はそれを使わない者と比べれば寿命が短い。その中でミッドは随分と長生きした。目的があったからだ。
魔道具を使う者は大概の場合、明確な目的を持っている。その目的が達成されるまでは魔道具に宿る魔力が生命を維持し続けてくれる。しかし、目的が達成された段階で魔道具はその役割を終え、使用者もまた強引に伸ばしてきた命のツケを払うことになる。

ミッドはおそらく目的を達成したのだ。いや、満足したと言うべきかもしれない。自分の愛するチュルーリ母さんとたくさんの子ども達に囲まれて大陸の真ん中の土地で長きに渡り暮らしてこれた。最近、思ったのだろう。自分は何て幸せで、もう思い残すことはない、と。


「ミッド。」
僕が真っ先に思ったのは母さんのお腹の中にいる子どものことだった。「その子の顔を見ていかなくていいの?」と口に出したかったが、多分ミッドの表情を曇らせるだけだろうと思って言葉を引っ込めた。

「庭の野菜がまたいい感じに育ってきたよ。」
代わりに出た言葉は、何の変哲も無い日常会話。

「ツヲ様が毎日の世話を欠かしていませんからな。」

「僕だけじゃなく妹達も手伝ってくれるからね。ちなみに害虫は毎日オ姉さんが見回って摘んでくれてるよ。」

ブッとオ姉さんが水を吹いた。僕は何か変なことを言ったかな。

「え?毎日?オ姉ちゃん、そうだったの?」
フォウルは目をパチクリさせて聞いた。

「私も初耳だな。」
母さんはニマニマしながらオ姉さんの方を見る。あ、多分知ってた顔だ。

「んっ~ん~。オ姉さんも手伝ってたんや~。」
食べ物を飲み込んだフィベが明るい顔でオ姉さんの方を見る。

「ふ~ん…。」
ツレエは少し感心したような顔をしていた。

「ついでだ、ついで。朝、修行に行くついでに焼いてただけだ。まあ、これも修行の一環になるか?強い力も制御出来てこそ真価を発揮するのだからな。」
オ姉さんはムスッとした顔でそう言ったが、多分照れているんだろう。
「それよりもだミッド。昔、ツヲがお前に試合を申し込んだことがあったが、私がお前に試合を申し込んでたら、お前は受けれくれてたか?」

「いいえ、受けなかったでしょう。」
ミッドは清々しいぐらいに即答した。
「あの時はチュルーリ様がオネ様の教育をしておられましたから。」

「…じゃあ今、試合を申し込んだら受けてくれるか?」

オ姉さんは鈍い色の目を鋭くミッドに向けた。

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この記事へのコメント

2016年08月05日 01:11
元々ミッドは、あの戦乱の中でワンオブゼムに過ぎなかったんですよね・・・。それがチュルーリの夫になって、子供たちと平穏な日々(たまに修羅場)を過ごして、あらためて大出世だなァと思います。

そういえば、これまでの話でオネからフィベまで揃ったシーンは無かった! これは貴重ですね!
短いセリフですが、フィベやツレエの、オネに対する見方が伝わってきます。

しかし、ほのぼのかと思いきや、またまた不穏なラスト!
畳の上では死ねない運命なのでしょうか?
2016年08月05日 01:50
>アッキーさん
軍部にいたミッドにとって次々と届く戦線の悲報を見れば明日は我が身かと思いながら過ごしていたことでしょう。特にウエリストは戦況不利でしたから。そうでなくても軍人である以上は死と隣り合わせ。チュルーリの参謀になる前も、軍人として前線に出たりもしていました。そう考えると今現在の平和なこと平和なこと(ただし、いくつか修羅場を含む)。
さて、ようやく五人姉妹揃い踏みです。一応ゼロもお腹の中にはいます。この先、全員集合すればこんな和やかな食事会も毎日のように開かれることでしょう。ただし、フィベに関してはアレですが…。
そして、寿命で死期が迫っていても、それ以外の死ねる要因がいくらでもあるチュルーリ一家。本当によく生き残ってこれたよなあ、ミッド。さあ、オネの挑戦に対してミッドはどうするのか…?

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