英雄再来 第二十三話 ミッド4
永訣の朝。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
窓の外から日の光がやって来る。
「…ああ、ミッド。朝だぞ…。」
長い黒髪の少女、チュルーリは小さな手を大きく伸ばした。
「んんー…。」
そして、伸ばしたついでに窓を開けた。外からは暖かな空気が入り込んでくる。
「昨日はどこまで話したっけな…。無様にも私が捕まった頃の話だったか?あの時は私も若かったなあ。ハイジマバイカのいない世界で私に勝てるものなど存在せんと高を括っていたら、まんまと封印された訳だ。いやあ、セアルにはしてやられたよ。かかっ。」
チュルーリは笑いながら寝巻きを脱ぎ捨てて、いつもの服に着替え始めた。
「それから五十年ぐらい経った頃か?イーリストとウエリストの戦が激しくなって、ついには私まで呼ばれる始末だよ。まあ、おかげでお前と出会えた訳だが。」
袖に小さな手を通し、いつもの簡素な服を着こなすチュルーリ。
「その後からはずっと一緒だったな。フォールスと戦って、ディルティとも戦って、そしてイーリストを滅ぼして、ウエリストも滅ぼして…。そして、全部終わったからここに移り住んだっけ。…ミッド、どうした?まだ眠いのか?」
そして、チュルーリは布団を剥ぎ取った。
「おーい、起きろミッド。この私がこんなに優しく言ってやってるんだぞ?さっさと起きないか。どうした?いつものように返事をしたらどうだ?かかっ。」
しかし、チュルーリの声に対する返事は無かった。
「やれやれ…。寝ぼすけになったものだなあ、ミッド。」
そう言って、チュルーリはミッドの隣に座った。
「もう年か?ん?」
チュルーリはやれやれと首を横に振って、上を向いた。
「なあ、ミッド。覚えているか?最初に会った時のことを。私の傍を離れるなと言ったのを覚えているか?覚えているだろうな。何せ、あれからずっとお前は私の傍にいたんだもんな。部隊の連中が逃げ出した時もお前と、ああ…マンサも残ったっけ。あいつも変な奴だったよな。わざわざ私に殺されるために残ることもなかったのに…。」
チュルーリは小さな手でミッドに触れた。
「しかし、お前も変な奴だよ。望めば永遠の命が手に入ったものを…。永遠の命だぞ?永遠の命。この私が体得するのに随分と苦労した魔法をせっかく使ってやろうというのに、お前は何で拒否するかな…。この魔法にかかりたいという奴なんか、この世界にごまんといるのにな。かかっ。」
触れたミッドはひんやりとしていた。
「ミッド、随分と冷たいなあ。お前、冷え性だっけか?ミッド…。」
チュルーリは歯を食い縛った。
「ミッド、オネは随分と成長したぞ。いずれはこの世界で私の次に強くなるだろうな。だが、まだまだ超えさせはせんよ。私はまだハイジマバイカを超えちゃいないんだからな…。
ツヲも随分と成長したな。お前の教育が良かったからだろう。やはりお前に任せて正解だった。まあ、お前に任せて失敗だったことなんてないけどな。かかっ。
ツレエはまだまだこれからかな。まだ、人間のことをあまり分かっちゃいない。まあ、ツヲが教育係として頑張ってくれてるから、いずれは大きく伸びるだろう。
フォウルは素直だなあ。私から生まれたとは思えんぐらいだ。お前に似たんだろうな。フィベも明るい奴に育ったな。全く、誰に似たんだか。それから腹の子の名前だがな、決めたぞ。ソルセリー・ゼロ・チュルーリだ。さて、こいつはお前と私、どっちに似るのかな?」
チュルーリは目線を隣のミッドに移した。
「…なあ、ミッド。私といて、お前は幸せだったか?」
その言葉に返答はなかった。
「全く、最後の子どもの顔も見ないとは随分とせっかちじゃないか…。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
窓の外から日の光がやって来る。
「…ああ、ミッド。朝だぞ…。」
長い黒髪の少女、チュルーリは小さな手を大きく伸ばした。
「んんー…。」
そして、伸ばしたついでに窓を開けた。外からは暖かな空気が入り込んでくる。
「昨日はどこまで話したっけな…。無様にも私が捕まった頃の話だったか?あの時は私も若かったなあ。ハイジマバイカのいない世界で私に勝てるものなど存在せんと高を括っていたら、まんまと封印された訳だ。いやあ、セアルにはしてやられたよ。かかっ。」
チュルーリは笑いながら寝巻きを脱ぎ捨てて、いつもの服に着替え始めた。
「それから五十年ぐらい経った頃か?イーリストとウエリストの戦が激しくなって、ついには私まで呼ばれる始末だよ。まあ、おかげでお前と出会えた訳だが。」
袖に小さな手を通し、いつもの簡素な服を着こなすチュルーリ。
「その後からはずっと一緒だったな。フォールスと戦って、ディルティとも戦って、そしてイーリストを滅ぼして、ウエリストも滅ぼして…。そして、全部終わったからここに移り住んだっけ。…ミッド、どうした?まだ眠いのか?」
そして、チュルーリは布団を剥ぎ取った。
「おーい、起きろミッド。この私がこんなに優しく言ってやってるんだぞ?さっさと起きないか。どうした?いつものように返事をしたらどうだ?かかっ。」
しかし、チュルーリの声に対する返事は無かった。
「やれやれ…。寝ぼすけになったものだなあ、ミッド。」
そう言って、チュルーリはミッドの隣に座った。
「もう年か?ん?」
チュルーリはやれやれと首を横に振って、上を向いた。
「なあ、ミッド。覚えているか?最初に会った時のことを。私の傍を離れるなと言ったのを覚えているか?覚えているだろうな。何せ、あれからずっとお前は私の傍にいたんだもんな。部隊の連中が逃げ出した時もお前と、ああ…マンサも残ったっけ。あいつも変な奴だったよな。わざわざ私に殺されるために残ることもなかったのに…。」
チュルーリは小さな手でミッドに触れた。
「しかし、お前も変な奴だよ。望めば永遠の命が手に入ったものを…。永遠の命だぞ?永遠の命。この私が体得するのに随分と苦労した魔法をせっかく使ってやろうというのに、お前は何で拒否するかな…。この魔法にかかりたいという奴なんか、この世界にごまんといるのにな。かかっ。」
触れたミッドはひんやりとしていた。
「ミッド、随分と冷たいなあ。お前、冷え性だっけか?ミッド…。」
チュルーリは歯を食い縛った。
「ミッド、オネは随分と成長したぞ。いずれはこの世界で私の次に強くなるだろうな。だが、まだまだ超えさせはせんよ。私はまだハイジマバイカを超えちゃいないんだからな…。
ツヲも随分と成長したな。お前の教育が良かったからだろう。やはりお前に任せて正解だった。まあ、お前に任せて失敗だったことなんてないけどな。かかっ。
ツレエはまだまだこれからかな。まだ、人間のことをあまり分かっちゃいない。まあ、ツヲが教育係として頑張ってくれてるから、いずれは大きく伸びるだろう。
フォウルは素直だなあ。私から生まれたとは思えんぐらいだ。お前に似たんだろうな。フィベも明るい奴に育ったな。全く、誰に似たんだか。それから腹の子の名前だがな、決めたぞ。ソルセリー・ゼロ・チュルーリだ。さて、こいつはお前と私、どっちに似るのかな?」
チュルーリは目線を隣のミッドに移した。
「…なあ、ミッド。私といて、お前は幸せだったか?」
その言葉に返答はなかった。
「全く、最後の子どもの顔も見ないとは随分とせっかちじゃないか…。」
この記事へのコメント
寝物語を聞きながら、思い出の中でミッドは旅立ったのですね。
理想的な、安らかな最期でしょう。
幸せだったはず。
チュルーリの言葉が泣けてくるじゃないか・・・。
あの頃の物語を、再び読み返したくなりました。
とは言ったものの、ミッドの魂が精霊になったりしないかなと、期待してしまいます。めっちゃ強い精霊になるだろうなぁ。でも、永遠の命を望まなかったミッドだから、精霊になれたとしても、ならない選択肢を選びそうですね。
誰であっても避けられない朝。チュルーリが一晩中つきっきりで話をしてくれるなんて最高級のサービス。そんな中でミッドは永遠の眠りへと落ちていきました。答える者はいませんが、答えはただ一つでしょうね。
思えばチュルーリも人間味溢れる性格になったものです。今までは違う側面ばかりを見せていたのか、それともミッドと暮らす中で変わっていったのか。
私もこの辺りを書くために昔の英雄の子孫を読み返したりしてます。ああ、何もかも懐かしい…。
精霊界は全ての精霊と魂が帰る場所。フィベとペリドットが帰った場所にミッドもまた旅立ったと思われます。実の話、精霊と魂の境界は曖昧なもの。チュルーリなら何とか出来るか…?でも、ミッドは断りました。人間のまま生きて、人間のまま老いて、人間のままチュルーリの傍にいて、そして人間のままチュルーリに見送られた。ミッドは最後まで人間だったのです…。