英雄再来 第二十四話 ツヲ放浪記8

この世界は、理不尽だ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ツヲは気が付くと人間の姿で海の上に浮かんでいた。

(…あれ?)

空を見れば太陽は随分と高く昇っており、海に入り始めた時から随分と時間が経っているのが分かった。ツヲが起き上がると、そこは足が海の底に付くぐらいの浅さだった。

(僕は大海原へ向かったはず…。夢だった…?)

脱いだはずの服まで着ていて、それは海水を吸ってグッショリと濡れていた。

(やけに鮮明な夢だった。いや、本当に夢だったのだろうか…。確かめよう。もう一度、海に潜って…。)

その時、ツヲの目に煙が写った。空へと昇っていく黒い煙。それは何かが燃えている証拠。煙の量からして焚き火程度の炎ではない。その方角はルアルのいる集落だった。

ツヲは海から飛び出し、ルアルのいる集落の方へと全力で駆け出した。



虫の知らせや胸騒ぎどころではない嫌な予感が脳内を駆け巡る。ツヲはルアルの集落にひたすらに走っていた。黒い煙はやはり集落の方から立ち昇っている。

ルアルの魔法は強力である。戦争孤児となった彼女一人が生きていくための力としては十分であった。しかし、守るべき者がいるとなると話は全く違ってくる。守るべき者まで傷付けないように慎重に戦わないといけなくなる。魔法は強力な武器であるが、それが使えなければ棍棒を持った人間に易々と殴り殺されるだろう。一瞬でも魔法を使うことを躊躇すればどうなるか。人質を取られればどうなるか。魔力が切れればどうなるか。ルアルは特殊な訓練を積んでいる訳ではないし、特別体を鍛えている訳でもない。魔法が使えることを除けばどこにでもいるような普通の村娘なのだ。



ツヲがルアルのいる集落に到着した時、そこは火の海だった。建物も近くの木々もボウボウと燃え盛っていた。

「ガハハハハ!女の癖にオレ達に逆らうからこういうことになるんだよ!」

なぜか地面に群がる男共。その隙間から細い腕が見える。

「おほっ!おほっ!強い魔法使いといっても所詮は女子供の集まり。お話にもなりませんでしたなあ。」

指をピンと立て、その先に小さな炎を灯している小柄の男が気味の悪い笑い声を発している。

「あ?」
男共の何人かがツヲに気が付いた。
「てめえはあの時の!」

ツヲは呆然としていた。この受け入れがたい惨状に頭が追い付いていなかった。

「先生!あいつも魔法使いですぜ!」
「頼みますぜ!先生!」

男共はすぐに小柄の男のところに走り寄った。

「はいはい。あなた方からは報酬をたんまり頂いておりますので、きちんと仕事はさせていただきますよ。」

小柄な男は指に点った火を吹いた。それが巨大な炎の塊となり、ツヲに直撃した。

「はい、終わり。」





「あ?」

ツヲは我に返った。

「水(ワーテル)。」

瞬間、男共の両手両足が破裂した。体内の血液は殆どが水である。ツヲはそれを操ったのだ。そして操られた血液は男共の口や鼻へと入り込む。男共は叫び声をあげることも出来ずに溺死した。

ツヲはその男共の最後を見届けることをせずにルアルを探した。自分の血液によって苦しむ男共を蹴飛ばし、地面に倒れたルアルを発見した。

「ルアル!」

ツヲは彼女を抱き抱えた。しかし、ツヲの言葉に彼女が反応することはなかった。既に彼女は息を引き取っていた。

(何だこれは…。)

彼女の体はまだ温かく、生きていた時とほとんど変わらない体温だった。

(何故、ルアルがこんな目に…。)

しかし、彼女の体には無数のアザや傷があり、何より内臓が黒焦げになっていた。

(彼女が何かしたか…?)

ツヲはそっと彼女の遺体を地面に降ろした。

(彼女は守ろうとしただけじゃないか…。)

ツヲが回りを見回せば、昨日の食事を囲んだ子ども達の死体ばかり。どれもこれも黒焦げになって死んでいた。ただ、一人だけは黒焦げではなかった。その代わり、首が切れて死んでいた。

(あの子らも何かしたか…?殺されるようなことを、何かしたのか…?)

ツヲの脳裏に理不尽という言葉が浮かんだ。それと共に今まで旅をしてきた記憶が走馬灯のように蘇った。人が人から奪う。人が人を傷付ける。人が人を殺す。それが当たり前になっている世界。今まで旅をして、そんな光景を数多く見てきて、いつの間にか冷めた目で見ていた自分。ミッドのような人間にたくさん会えると期待し、それが裏切られ、所詮はこんなものと遠くから見ていた自分。精霊としての感覚で、人が死ぬことに大して関心のなかった自分。しかし、今、ようやく巡り合えた「人間」の死を目の当たりにしたことで、ツヲの中の人間の部分が激しく反応していた。それは怒りだった。

「ウオオオオオオオオオ!!!!」

理不尽に対する怒りだった。何故、ルアル達は殺されねばならなかったのか。何故、この世界は人が殺し合いばかりをしているのか。何故、殺し合いが止まらないのか。

叫び続け、叫び続け、叫び続けたその果てにツヲは辺りを見回した。そして、ルアルを見た。

「ルアル…今、助けるよ…。」

ツヲは両手を広げて呪文を唱え始めた。

「深淵の渇望、愚者の願望、死して屍、生きて血みどろ――――――。」

その呪文に呼応して地面に広がった男共の血が蠢きだして魔法陣を描いた。

「贄として我が二つの眼を捧げる。」

そして、ツヲは広げた両手で自らの目玉を抉り出した。

「狂気の真実から目を逸らせ!死者、蘇生!」

ドロリ。抉り出したツヲの眼が溶け出し、ルアルの体へと零れ落ちた。ゴボゴボと気味の悪い音を立てて周囲に流れ出ていたルアルの血液が彼女の体内へと戻っていく。その光景をツヲは見ることはなかった。彼の眼は溶けてなくなってしまったのだから。

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この記事へのコメント

2017年09月18日 01:09
なんということだ・・・。
チュルーリ曰く「世界によくある程度の残念な出来事」が、息子の心をズタズタに引き裂く!
このセリフを言うチュルーリも、慣れていても肯定してないんですよね。女性を手籠めにした兵士に残酷な死を与えていたエピソードを思い出しました。

そういえばツヲさんの目があるのが疑問と言えば疑問だったのですが、魔力の暴走うんぬんではなくて、自ら贄に捧げたのでしたか・・・。
どうも嫌な予感がします。少し前に感じていた「嫌な予感」というのは、ルアルが殺されることではなくて、ルアルが変貌してしまうことなんです。ツヲにとって、ようやく出会えた「人間」が、人間でなくなってしまったら・・・?
ルアルが復活したとき、自分以外が死んでいたら、どうなってしまうのか。ツヲさんの死者蘇生は、同時に何人も蘇らせることは出来るのかどうか・・・。

何だか魔女WWが登場すると、よからぬフラグが立ってるような気がするのですが、ドゥナ・エイのような存在なのでしょうかね。
2017年09月18日 13:33
>アッキーさん
ここでもまた、この世界によくある程度の残念な出来事が起こってしまいました…。チュルーリさんもツヲさんも下手人には死を与える。しかしながら、ツヲさんの心へのダメージは大きい…。

過去のツヲさんには目がありましたが、この一件で目を失ったのでした。目を捧げて蘇ったルアルはどうなっているのか。元の人格を保っているのか、それとも一度殺された経験で病んでしまうのか。また殺された他の子ども達はどうなるのか。

魔女WWはすっかり不吉の象徴ですねえ…。まあ魔女ですからね。

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