英雄再来 第二十話 オネの暇潰し9

オネの読書その4。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

続きを読みますか?

⇒【はい】






(うんうん、それで――――。)
オネは本の続きをめくった。





特技も対策され、魔法も使えない状況に追い込まれたスライマに打つ手など残っているはずもない―――――。
だが、それはスライマが全ての手の内を見せていたならばの話である。


戦士がスライマに斬り掛かろうとした瞬間だった。魔力がほぼ枯渇しているはずのスライマから膨大な魔力の気配がした。

(『見事だ戦士よ…!私に奥の手を使わせるとはな!『魔の究極呪文(マ・ダンテ)』!』)


【スライマは 全ての魔力を 解き放った!暴走した魔力が 爆発を起こす!】


それは限られた魔物だけが覚えられる究極の呪文だった。通常、魔法は術者の制御下にあり、自身が制御出来ないほどの量の魔力を出すことは出来ないし、そのような自分の技量を超えた呪文を使うことは出来ない。無理に使おうとすれば自身を傷付ける爆発となる。いわゆる自爆である。

しかし、『魔の究極呪文(マ・ダンテ)』の発想はその逆で、魔力の制御を必要としない。自分自身を巻き込まないだけの指向性があればよく、制御されない魔力は暴走し、辺り一帯を無差別に破壊する。通常使う魔力の残量に関わらず、自身の内在魔力すらも無理やり引き出すのでどんな状況下でも最低限の攻撃力は必ず発揮する。魔法を封じられていても技自体はただの魔力放出ゆえに止められはしない。代わりに自分の魔力を全て消費してしまう技であり、一度限りの究極と呼ぶのに相応しい技だろう。





辺り一帯は目も当てられないような酷い状況になっていた。平原だったはずの場所が全く別の地形に変わってしまった。地面はめくれ、岩がむき出しになり、草などは全て消し飛び、広範囲が荒野と化していた。

『ハアッ!ハアッ!ハアッ!』

スライマは酷く疲弊していた。魔物にとって魔力は自分の命も同然。それを暴走させて攻撃に変える『魔の究極呪文(マ・ダンテ)』には自分の血液を無理やり搾り出すような苦しみが付きまとう。まさに、命を燃やし、すり減らす技なのである。

『これを耐えるか…!』
スライマはかすれる視界の中に立っている戦士を睨み付けた。

「耐えるさ…!死んでいった仲間の仇を討つまでは絶対に死なん!」
スライマの視界の中、戦士は歯を食い縛って立っていた。


【戦士の だいぼうぎょ!戦士は だいぼうぎょの 構えを取っている!】


自分の身を守る鎧のほとんどは砕け、剣も数振りで折れてしまいそうなほど傷付いていた。逆に形を保っていることの方が奇跡だったかもしれない。『魔の究極呪文(マ・ダンテ)』を放った時のスライマの残り魔力が少なかったことも幸いした。通常の魔法を使う時に使える魔力と、生命維持に必要な魔力の総合計が『魔の究極呪文(マ・ダンテ)』の攻撃力となる。スライマの内在魔力に対して、通常魔力が少な過ぎたのだ。

その時、戦士は自分の目を疑う光景を見た。スライマが地面から道具を取り出したのだ。


【スライマは エルフの飲み薬を 飲んだ!スライマの 魔力が 全回復した!】


この草原がスライマの庭であることは確認するまでもない。スライマはいつ、どのような相手が来ようとも、どのような状況になろうとも、必ず勝つべく草原の至るところに道具を散らばしてあったのだ。

『見事だ戦士よ…!私に奥の手を使わせるとはな!『魔の究極呪文(マ・ダンテ)』!』

その威力は戦士を葬るのに十分過ぎた。辺りは荒野から更地へと変貌した。

『ハハハ!見事だ!日に二度も、この技を使うのは初めてだぞ!認めよう、戦士!お前は私が戦った中で最も強く、最も勇敢で、最も勇者に近い人間だ!だが、お前は勇者にはなれない!お前は魔王に剣を向ける機会を永久に失ったからだ!ハハハハハ…!』

広大な草原の中に出来た広大な更地に勝利者の笑い声が響く。その声は次第に小さくなっていった。

魔物にとって魔力は命そのものである。その命をすり減らして使うような技を二連続で放つ。それは自殺行為以外の何物でもなかった。スライマはしぼみ、弾力のある体は皺くちゃになって二度と動かなくなった。そして、その皺くちゃになった皮膚はひとりでに破け、中から少量の青い液体が地面に広がった。

この戦いには勝者と敗者がいたかもしれない。しかし、生存者はいなかった。





数時間後、この場所を一人の若者が通った。若者は倒れている人影を見つけてすぐさま駆け寄った。しかし、その人影は黒焦げになった人の残りカスであり、生きてはいなかった。むしろ形を保っていたことが奇跡だった。

若者はその場に墓を掘り、黒焦げの人を埋葬しようとした。その時、若者は干からびた魔物が近くで死んでいるのも見つけた。

(巻き込まれたのだろうか…。)

若者は拳をギュッと握った後、黒焦げの人の墓の隣に小さな墓も作る決意をした。

数時間後、二つの墓標が並ぶ更地を若者は後にした。その行き先は魔王城であった。


――――――――――――――――――


その日、魔王が勇者に討たれました。その知らせは瞬く間に世界を駆け巡り、人々からは歓喜と勇者への賞賛の声が絶えませんでした。世界は救われた、と皆は口々に言いました。


でも、その人々の中に、帰らずの草原の二つの墓標のことを知っている者は誰もいませんでした。

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